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3710Lab出張授業「海の“流れ”を知る科学実験」(前編)

実験

海には波があります。しかし、その海の波が、たくさんの生き物やわたしたちの暮らしを支えられていると想像したことはあるでしょうか。
海の水は常に海流として循環していますが、黒潮は北太平洋の亜熱帯域全体をめぐる循環の一部です。また、深海をめぐる海水は1000年単位で地球全体を循環しています。
「海の循環」を直感的に知ってもらうため、3710 Labの田口康大が所属する東京大学大学院 海洋教育促進センターでは、小学校、中学校、高校などで様々な体験型授業を行っています。今回は、その一環で行われている「海の不思議を知る」ための実験をレポートします。

今回の実験には、同センター特任准教授で海洋物理学を専門とする丹羽淑博さんに協力してもらいました。家庭でも手に入る簡単な素材で出来る実験の数々、ぜひ皆さんも試してみてください。

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実験1 「対流」は温度差が引き起こす


「対流」は温度差が引き起こす(1) from 3710Lab on Vimeo.

赤い色を付けているのがぬるま湯(上)、青い色を付けているのが常温の水(下)です。 お湯と水はコップに入れて下敷きで隔ててあります。この下敷きを引き抜いて、上下のコップの中身が触れ合うと、一体どうなるでしょうか? それでは、映像をご覧ください。

次に、お湯と水の上下を入れ替えると、どうなるでしょうか?


「対流」は温度差が引き起こす(2) from 3710Lab on Vimeo.

これは、暖かい流体(水や空気など)は上に、冷たい流体は下に移動しやすくなるという性質によるものです。みなさんもエアコンで暖房をつけるときは、暖かい空気が部屋の上の方にたまってしまわぬよう、風向きを下に向けたりしませんか?

これは一般に、暖かい流体は冷たい流体よりも密度が小さく、すなわち同じ体積でくらべると重さが軽いためです(*1)。こうした温度差=密度差によって生じる流れのことを「対流」と呼びます。

この性質によって、最初の動画では、もともとお湯が上にあったために、冷たい水と触れても混じりませんでした。2番目の動画では、下にあったお湯は上方へ、上にあった冷たい水は下方に移動するので、二つの流体が混ざりました。

*1 温度が高いほど密度が小さくなる性質が成り立つのは、淡水の場合は水温が4℃以上暖かいときで、4℃を下回ると、温度が高くなるほど逆に密度が大きくなります。また、塩分を含む海水の場合は温度が低いほど密度が単調に小さくなります。

実験レシピ
(用意するもの)
・食紅(家庭用食紅)(*2)
・プラスチックコップ(*3)
・下敷き

*2 この実験では赤色と青色の色水を作るのにスーパーの製菓コーナーに売っている粉末の食紅を利用しています(家庭用食紅1瓶(5.5グラム)で200円程度)。ペットボトルに食紅を適量と水を入れて、よく振ってかき混ぜると手を汚さず、簡単に色水が作れます。

*3 安価なものでOK。分厚いコップを選ぶと実験がやりやすいです。

(方法)
1)コップのフチ目一杯に色水を入れ、上側のコップに下敷きでフタをする。
2)下敷きを手のひらで押さえながらコップをひっくり返し、下側のコップの上に重ねていく(コップを重ねるときに少しコツが必要)。

*動画では1人で実験をしていますが、下敷きを引く人と上下のコップを押さえながら位置を調節する人がペアになって、二人でタイミングを合わせながら下敷きをゆっくり引くとうまくいくでしょう。

この実験を活用した小学校での授業については「豊かな海の秘密ー気仙沼市立階上小学校」をご覧ください。


実験2 対流が引き起こすパターンとカタチ(1)

海や大気の中でも、実験1のような温度差によって対流が生じます。次は、その対流を実験的に引き起こしてみましょう。


対流が引き起こすパターンとカタチ(1) from 3710Lab on Vimeo.

家庭で使われている洗濯のりと銀色の絵の具を溶かした溶液をコップに入れ、お湯を浅めにはったタッパーの中にそのコップを入れます。
すると、コップの底の方から溶液がお湯によって温められるため、下から上に昇る対流が起きるのです。
※動画では、対流を見やすくするために途中で青色の水を滴下しています。

上記の映像で見るとわかるように、溶液はコップの外側から上昇し、その後内側に向かってから底へ沈んでいきます。さらに、なぜかオレンジの輪切りのようなパターンが出来ていますね。

実験レシピ
(用意するもの)
・液体洗濯のり(*4)
・銀色の絵の具(*5)
・プラスチックコップ

*4 実験に使った洗濯のりは、スーパーで買える普通の液体洗濯のり(一本750gが約100円)です。
*5 銀色の絵の具は対流のパターンを可視化するために使用します。

(方法)
1)コップに水を入れて銀色の絵の具を溶かし、そこに約4分の1程度の分量の洗濯のりを加えます。
2)時間が経つと銀色の絵の具が底に沈むので、実験する前に棒でよくかき混ぜて使用します。
3)洗濯のりを加えることで水にとろみがつき、次第に大きな対流がゆっくりと起きるようになります。

*実験では外の熱が伝わりやすいプラスチック製の薄い使い捨てコップを使っています。寒い冬ならばお湯の代わりに手でコップを包んで温めても対流を観察することができるでしょう。


実験3 対流が引き起こすパターン・カタチ(2)
シリコンオイルを熱してみよう

これまでと似たような実験を、今度はシリコンオイルを使ってやってみます。ステンレスのバットにアルミ粉を入れた銀色のシリコンオイルを薄くそそいで、ホットプレートで温めます。すると、何が起こるでしょうか?


対流が引き起こすパターンとカタチ(2) from 3710Lab on Vimeo.

映像を見るとすぐにわかりますが、細胞のようなものが現れ、動き出しました。ここでは、細胞のような構造の淵でシリコンオイルが上昇し、中央の核のように見える部分から下方へと移動する「対流」が起きています。

この細胞状の対流は、この現象を調べたフランスの物理学者の名前にちなんで「ベナール対流」と呼ばれています。細胞のような構造が真ん中に向かって移動して見えるのは、各構造の中で対流が起きているだけでなく、アルミバット全体でも対流が起きているためです。同じことが小さな区画でも大きな区画でも起きるという、入れ子構造になっています。

なぜこのような不思議なパターンが生じるのか、それを理解するには難しい物理の知識が必要ですが、温度差によって、海の中でも流れが生まれていることは想像していただけたのではないでしょうか?

温度差だけでもこのようなダイナミックな動きが生じるのですから、地球全体の対流は非常に複雑であることもわかると思います。

実験レシピ
(用意するもの)
・シリコンオイル(*6)
・ステンレスパッド
・ホットプレート
・銀色のアルミ粉(*7)

*6 シリコンオイルはネット通販などで購入可能(1kg3000円程度)。様々な粘度(とろみの程度の指標)のシリコンオイルがありますが、この実験では粘度が50CSのものを使っています。ベナール対流の観察には粘度50CS〜1000CSのシリコンオイルがよいそうです。

*7 アルミ粉は画材店などで購入可能。

(方法)
1)シリコンオイルをステンレスパットに1cm程度の厚さ注ぎ、そこに銀色のアルミ粉を入れて対流を可視化します。
2)ホットプレートで加熱をはじめます。このとき、直に熱するとシリコンオイルが沸騰してしまうため、ステンレスパットの下に割り箸を挟んで隙間を作って、対流がうまく起きるように調節しています(このときにステンレスパッドが熱くなるので注意すること)。

さて、こうした温度などによる海の“流れ”は、自然やわたしたちの暮らしにも深いつながりがあります。そのヒントは、後編で詳しく解説します。

>> 後編に続く

CREDIT

菅野康太・丹羽淑博