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【海洋教育レポ】海の視点で考えてみる5分間ー岩手県洋野町立中野小学校

海洋教育レポート

3710labでは、全国で取り組まれている海洋教育を取材し紹介する「海洋教育レポート」をお送りします。
記念すべき第1回目は、三陸海岸北部に位置し、ウニやアワビ、ホヤの名産地でもある岩手県洋野町より、中野小学校の取り組みをレポートします。

ウニ栽培センターにて、稚ウニを手にとり観察している様子。

洋野の自然と世界一の太平洋が教室

洋野町立中野小学校では、2014年より海洋教育に取り組んでいます。特徴的なのが、特別の教育課程の教科「海洋科」を設置していることです(※1)。3学年から6学年までの年間30時間を「海洋科」に充てています。

海洋科の授業は、地域の特色ある素材を活かすよう工夫され、実施されています。たとえば、名産であるウニやサケといった素材をテーマにした学習です。
全国有数のウニ生産地として知られる洋野町には、稚ウニを飼育するウニ栽培センターや、増殖溝(※2)というウニの牧場など、ウニ生産のためのユニークな施設環境があります。児童たちは、そのような施設での体験学習を通して、ウニの飼育の仕組みや生態について学んでいます。

ウニの殻むき体験にて、ウニのからだを調べている様子。

一方、サケについては、サケマスふ化場での体験学習で、稚魚の放流をしたり、捕獲したサケのお腹から卵を取り出したり、卵に精子をかけて交配する作業をします。サケの成長を卵の状態から観察しています。さらに、1000~3000個ほどの卵を漁協から譲り受けて、学校の大きな水槽で飼育をしています。

サケの稚魚を放流しています。


2年間をかけて書き上げる卒業論文

中野小学校の児童は、海洋に関する学習や体験活動を通して、興味をもったテーマについて個人研究に取り組みます。5年生の時に研究テーマを決めて、2年間かけて研究し、成果を卒業論文としてまとめ上げます。児童たちはどのように個人研究に取り組んでいるのでしょうか。阿部正文先生にお聞きしました。

——— それぞれの児童は研究テーマをどのようにして見つけているのでしょうか?

「理科や社会科、海洋科の授業内容で疑問に思ったことを研究テーマとしている児童が多いです。教員のほうでも、理科と社会科の教科書に出てくる内容から海洋を意識できるようにという意図をもって授業をしています。たとえば、5年生の社会科で漁業、理科ならば山や川からの水の循環を取り上げています。授業で取り扱った内容の発展としてテーマを決める児童もいれば、ヤマセという三陸地域特有の気象現象をテーマにするような、普段の生活の中の疑問からテーマを見つける児童もいます。」

——— 児童がテーマを決める際、先生方はどのような関わりをしているのですか?

「テーマ決めに悩んでいる児童がいたら、もっと知りたいことは何かないかと聞いてみたり、ヒントを与えて促したりということはしますが、自分でテーマを見つけている児童にはどんどん進めさせます。基本的には、教員は海を意識させるよう授業中に働きかけるのみで、そこから新たな問いを持ってもらったりテーマを見つけてもらったりしています。また、研究成果の発表会に3年生以上の児童が発表会に参加します。そうすることで、児童は早いうちからどんな研究をするかということを意識しながら学校生活を送っています。」

——— 海を意識させるうえではどのような授業の工夫をしていますか?

「理科や社会科、生活科の授業において、海洋と関連する学習内容では海の視点で考えてみる時間を授業の5分ほど確保しています。ときには学習している内容から逸れるかもしれませんが、その時間から新たな問いが生まれることが多いです。その問いに対する答えはあえて言わず、問いを残しておきます。高学年の児童には、毎回の授業において、自由研究のテーマにつながる問いや気づきをノートさせるなどしています。」

卵から育てるサケの飼育。

——— 海に意識を向けてもらうために、他にはどのような工夫をされていますか?

「3年生と4年生は、みちのく潮風トレイルという海岸散策をします。近場にある1~2キロくらいの砂浜をひたすら歩きます。歩きながら気づいたことをどんどんメモしていきます。5月ころの海はどれくらい肌寒いのかを体感したり、海の匂いはどうなっているのか、遠くからはキレイに見えるがよく見たらゴミが多かったとか、とにかく五感で海を体感します。散策コースからは、ウニの増殖溝を眺めることもできます。こうした海に親しむための活動を通して自分の地域の海を大まかに把握することを、海洋学習の導入として設けています。」

地域の海にどんな生き物がいるかを探します。

——— 海洋教育に取り組んでから児童たちにはどのような変化が見られますか?

「海をいままで風景の一部としか見ていなかったということに気づいたと思います。また、地元の海のことを知れば知るほど面白いものだということに気づいています。岩手県はウニの漁獲量が多いが、その岩手県の中でも洋野町が漁獲量1位だということを知ると「すごい!」という反応があります。自分たちの町に誇れるものがあるんだということに気づいた児童は「洋野町がすごく好きになりました」という感想を伝えてくれます。」

他にも、中野小学校では、洋野町内の内陸側の小学校や、八戸市立種差小学校との交流学習をおこなっています。児童は「山と海」、「海と海」という地域間の比較を通して、海の学びを深めています。寒締めホウレンソウや酪農といった、海とは無縁そうな内陸側の素材も、実は海とかかわりがあるそうです。

植林体験。山、川、海のつながりを学びます。

取材の最後に、阿部先生は海洋教育にこめた思いを語ってくれました。

「海洋学習を通して自分たちの生まれ育ったふるさとへの誇りや愛情をもつことを目指しています。戻ってきてとは言いませんが、願わくば洋野町のことを考えられる大人になってもらいたい。そして洋野町のことをみんなに紹介して自慢できるようになってほしいです。そのために地域のいいところを小学生のうちに見つけてほしいと思います。」

洋野の自然と世界一の太平洋を教室にした中野小学校の海洋教育の展開に、今後も注目したいと思います。

(※1 文部科学省が教育課程特例校として指定する学校は地域の特色を生かした特別の教育課程を実施することができます。)

(※2 洋野町の海岸線に多く見られる平らな岩盤に溝を掘り、ウニの栄養源の海藻が豊かに育つための環境を整えたもの。通称ウニ牧場。増殖溝の仕組みを学ぶ授業については、レポート「先人たちの知恵を辿る-特別の教科「海洋科」」を参照ください。)

CREDIT

取材・文
北悟