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【海洋教育レポ】豊かな海を具体的に考えるー宮城県気仙沼市立大島小学校

海洋教育レポート

全国で取り組まれている海洋教育を取材し紹介する3710Labの「海洋教育レポート」。
第2回目は、宮城県北東部に位置する東北最大の有人離島、気仙沼大島に立地する大島小学校を取材しました。養殖業が盛んな地域ならではの取組みをお送りします。

「緑の真珠」と呼ばれた海

気仙沼市立大島小学校では、大島で営まれている養殖業の体験学習を中心に据えた教育に取り組んでいます。当初は小学校近隣にある海水浴場での遠泳や自然散策といった海に親しむ活動が主でしたが、「総合的な学習の時間」が設置された2000年度からは養殖体験が組み込まれるようになります。2014年度には、気仙沼市から海洋教育の指定を受け、ワカメ、カキ、ホタテ養殖をテーマとした現在の学習環境が整えられました。

養殖業の体験学習は、4年生から6年生にかけて、ワカメ、カキ、ホタテの順に各学年時におこなわれます。

4年生の児童は,11月にワカメの種ばさみ(※1)をおこないます。種ばさみをしたロープは地域の協力にて準備されている小学校用の養殖筏に沈め、毎月の成長記録や観察をおこないます。成長したワカメは2月に収穫し、塩蔵という加工までを体験します。

5年生は、カキ筏の見学や、大島のカキ養殖の歴史を刻んだ養殖顕彰碑の見学、カキ剥きの作業といった体験学習に取り組みつつ、カキという素材を通して歴史や生態など様々な角度から学びを広げていきます。体験を通して生まれた多くの疑問について調べてまとめる活動をおこないます。

6年生になると、ホタテ養殖の体験を通して、「大島の海と生きる」というテーマで学習を展開します。ホタテ養殖は採苗(※2)、選別(※3)、分散(※4)、耳つり(※5)の順番でおこなわれます。6年生は中学校でおこなう耳つりを除いた全ての作業をおこないます。5年生での調べてまとめる学習経験をさらに一歩進めて、養殖業と大島、自分たちの生活等との関わりを学びます。

また、学習過程において、他地域の小学校との交流や海洋教育こどもサミットでの学習成果の発表をおこないます。大島には小学校と中学校が一校ずつあり、体験学習をはじめとした学習内容が小・中学校間で共有されているため、連続的な学習が可能になっています。


「海の豊かさ」を腑に落とすために

児童たちの養殖体験学習の取組み方について、大島小学校の菅原利忠先生にお聞きしました。

――― 養殖の作業を体験した児童はどのような実感を得ていますか?」

「たとえばワカメの種ばさみは、児童にとって最初の養殖体験です。大島漁協青年部の指導の下、2人1組で協力して50メートルの長いロープに10センチ間隔で細いロープを挟んでいく作業をします。漁協の方々は本来4000メートルのロープを使って種ばさみをするのですが、11月の気仙沼の寒空の下での作業を通して、児童たちはワカメ養殖に携わる人の苦労と努力を実感したり、想像を働かせられるようになっています。」

――― 養殖体験自体からはどのような学びを得ていますか?

「養殖は海洋環境の影響を受けつつ、その地域の海からの恵みをもらう営みで、そこからの学びはとても多いです。たとえば、生きた知識に触れることができています。同じくワカメの種ばさみの例ですが、作業とともに漁協の方々から養殖の仕事について話を聞きます。児童は事前に養殖のことについて調べているのですが、養殖の方法について教えてもらうと、自分たちが調べたことは一般の知識に過ぎないことに気づきます。1月から4月まで収穫できるように、その年の海の状況をふまえて、成長の早さが異なるワカメの品種を使い分けることや、ロープを挟む間隔の長短を調整することで成長時期を操作することなど、長年の経験と多くの工夫が積み重ねられて獲得された知識に触れる機会となっています。」

――― 養殖体験学習にはどのようなねらいがありますか?

「体験を通して自分が疑問や不思議に思ったことについて、情報を整理しながらまとめていく、という能力を育むことこそがねらいです。体験は学習上の疑問をもつ目を伸ばすために取り組むべきものと考えています。もちろん養殖自体からの学びは沢山あるのですが、養殖のプロフェッショナルを育成することが目的ではありません。ワカメ、カキ、ホタテといった生物そのものに詳しくなることも大事ですが、それよりも学習の対象となる生物は違っても同じ着眼点で学ぶことができる姿勢などを育んでいきたいと思っています。体験活動だけで終わることがないよう、知識と体験のバランスに配慮しています。」

――― 海洋教育を主体的で対話的で深い学びにするためにどのような工夫をしていますか?

「海の豊かさについて具体的に考えてもらうように課題を設定しています。最初に、豊かな海とはどんな海のことなのかということを児童に問います。そうすると美味しいものが獲れる海、美しい自然がある海、生き物がたくさんいる海といった仮説が挙がります。その後、仮説の検証をするために体験をしていきます。ワカメが3~4か月で2~3メートル成長するほど海には栄養があるとか、綺麗な砂浜でしか音が鳴らない貴重な鳴り砂(※6)の音を鳴らしてみるとかいった仮説の検証のための機会としても体験を位置づけています。豊かな海と一口に言っても抽象的すぎるので、できるだけ具体的に海の豊かさを認識してもらうようにしています。」

大島小学校は東京都目黒区の小学校との交流をしています。お互いの小学校に行って学校での活動を発表したり、一緒に給食を食べたりします。他地域の人に大島産ワカメの感想をもらうことも,あらためて海の恵みと大島の良さを見つめ直す機会になっているようです。

取材の最後に、菅原先生に海洋教育への思いを語っていただきました。
「大島小学校の海洋教育は、地域との強力な連携があることが一番の特徴です。養殖は漁協青年部が、浜の散策については地域の人が講師になって色々アドバイスしてくれます。地域の人とかかわりながら気づきを得つつ、豊かな大島の海を愛していってもらいたいです。そして、自分たちの大島の海が持続可能であるためにはどうすればいいかを考えてもらいたいです。」

這い回る体験主義などと言われるように、ただ体験させただけに終わってしまいがちな体験学習が多い中、大島小学校の体験学習は、机上で学んだことを超え出ていく「生きた知識」に触れる機会が作られています。
地域の海をよく知る養殖業者が、仕事の手を止めて海とのかかわり方を教えてくれ、子どもたちは大人たちの努力と苦労を実感していく。大島の歴史と文化は、そのように継承されていくのかなと思いました。水上不二が「緑の真珠」と呼んだ大島の海から、豊かな海とはどういう海かという問いを考えるためのヒントをたくさん見つけていってほしいです。


(※1ワカメの種を養殖用ロープに仕込む作業。ワカメの胞子はメカブから生まれて、ワカメの幼生となってロープに付着する。)
(※2 海中に漂うホタテの幼生を採苗器に集めること。)
(※3 採苗器に付着したホタテの稚貝を取り、ふるいにかけて選別し、パールネットに20~30個ほどを入れて筏に吊るす作業)
(※4 パールネットの中で大きくなったホタテを10個ほどに減らし、中間育成かごに入れて筏に吊るす作業)
(※5 大きくなったホタテに自動耳吊機で穴を開け、ロープへ固定する作業)
(※6 砂の上を歩くとキュッと鳴る砂をいう。鳴き砂、泣き砂)

CREDIT

取材・文
北悟