学ぶ

【海洋教育レポ】共有財産の海を守るー富山県立滑川高等学校

海洋教育レポート

全国で取り組まれている海洋教育を取材し紹介する3710Labの「海洋教育レポート」。
第3回目は、富山県立滑川高校を取材しました。「天然の生け簀」と称される国内随一の魚介の宝庫、富山湾の海洋環境を守る取り組みをレポートします。

 

富山湾を科学する

富山県立滑川高校は、2010年度に富山県立海洋高校との統合によって海洋科が設置された高校になりました。海洋高校時代の取組みを引き継ぎつつ、海洋を科学的に考察し、地域の課題を解決するための能力を育成する取り組みをおこなっています。代表的なものが海洋観測の取り組みです。

海洋観測の取組みは、ゴミによる海洋汚染の度合いを測るためにおこなわれています。もともと海岸清掃活動など海洋環境保全の取組みはしていましたが、ゴミの量だけでなく種類や時期といった観点別に調査結果をみられるように調査方法を整備し、器材を導入して調査規模を拡大させました。海岸では漂着物の調査、海中や海底ではダイビングやROV(※1)を駆使した調査を通じて、地元の海洋環境を科学的に捉える取組みになっています。

そのほかにも、地域水産資源の回復を目的としたサクラマス生育や藻場再生といった活動がおこなわれています。滑川高校海洋科の生徒が3年間取り組んだ学習の成果は、生徒自身が自由にテーマを決めて取り組む「課題研究」にまとめられます。


なぜやるのか、何のためにやるのか

生徒たちの取組みの様子について海洋科教諭の澤田和之先生に伺いました。

―――高校3年間での海の学習の内容を教えてください
「生徒たちは、知識を養成する期間、実習に手を出していく期間、ステップアップしていく期間と段階を意識したカリキュラムに沿って学んでいます。課題研究のように探究したことをまとめたり、発展的に展開させる学習は、ある程度の知識があってこそ可能だと思います。ダイビングの授業で学んだ基礎知識を発展させてまとめあげた過去の課題研究(※2)などは好例です。潜水士のテキストには、”水中では光の波長が長い赤色が減色する”という記載があります。タイは水中に入ると赤色ではなくなるのですが、ダーウィンの進化論のように地域の水質に合わせてタイが色を薄めていったんじゃないかとか、生徒たちがベースの知識をもとにさまざまに仮説を立てて考察していった結果、アマダイの色と水質との関係という観点が生まれました」

―――海洋観測の実習をどのように意義づけてますか?
「実習については、海に親しむことと、海をテーマに着眼点や観察力を伸ばすことの2つのねらいがあります。海中というのは近いようでなかなか遠いものなのでダイビングで潜ったりROVを使ったりして水中や海底はこう見えるんだと実感してもらいます。それと同時に、自分が身に付けた技術を通して視点の広がりを持ってもらいます。ただ、高校生は体験を何のためにやるのか、意味を考える時期です。身の回りのことを理科的な探究に結びつけやすい小中学校の理科と違って、前提としてある程度の知識がないと、視野が広がったり体験が成功することに結びつかないと思っています。特に、富山県で海の近くに住んでいたとしても、海に関する知識とか経験値はそれほどないですし、海に入ったことが無い生徒すら海洋科に来ます。そういう意味では1回の体験だけではなかなか難しい部分があるように思うので、海洋汚染のことを継続的に考えることができるような工夫をしています」

―――主体的な学びという観点からどのような工夫をしていますか?
「自己決定理論(※3)の関係性と有効感という観点を意識して、生徒がモチベーションをもって取り組めるように努めています。海洋科に入っただけでは海洋汚染の問題が自分にどう関係するのかの回答はすぐには得られません。その回答を得るために科学的資料をもとに勉強したり、体験活動や講演会を通じて、魚や貝などの生物が海の中で害を被っているのは人間活動のせいだよね、というわかりやすいことを納得していきます。海洋生物のためにできるところからやり始めて徐々に関係性を深めていきます。
一方、有効感という観点でいえば、1年生で海洋環境という授業がありますが学ぶだけで環境がよくなるわけではないので、実際にゴミを回収したり、調査や体験を重要視しています。知識と体験との往還ができるように配慮しています」

―――対話的な学びという観点からどのような工夫をしていますか?
「課題研究は3人1グループでまとめあげます。アマダイの研究などは1人ではとてもまとめあげられるものではなく、協力して調べたものをメンバー間で議論した結果といえます。教員が誘導しているわけじゃなく生徒間の対話のなかから生まれました。みんなが議論に参加できるベースがあった上で、リーダー的に周りの生徒を巻き込んだ研究活動ができているのではないでしょうか」

―――深い学びという観点からどのような工夫をしていますか?
「やはり基礎的な段階の学習を大事にしています。滑川高校は市内唯一の高校なので、海洋科には水産に興味があって入学してきた生徒もいれば、選択の余地なく入学してくる生徒もいます。みんなが一定のレベルまで知識をつけることで、はじめて深く対話ができるようになりますし、各自が疑問に思ったほかの関連分野のことを深く学んで知識が広がると考えています」

そのほかの滑川高校の海洋教育の特徴として、海洋科クラブの存在があります。海をフィールドとした体験活動や実習は気象条件に左右されてしまうため、計画通りに授業を進めることが難しいという課題がよく聞かれます。その課題を解決するために、滑川高校では、海洋科が全員加入する海洋科クラブを活用し、実習や研究の充実など活動の時間を確保する工夫をしているようです。

取材の最後に澤田先生に海洋教育への想いを語っていただきました。
「滑川高校の海洋教育は、海洋観測も含めたすべてが環境保全につながるように組み立てられています。海洋資源の量の増減は水温や廃棄物など環境に左右されるものなので、持続可能な海という観点から、後世の子孫に海洋生物がたくさんいる豊かな海を残すために必要だと思って海洋観測の活動をしています。その上で、レイチェル・カーソン(※4)じゃないですけど、生徒たちには海をはじめとした自然環境に変化があったときに気づけるような観察力や視点を持ってほしいですね。なぜ公害や海洋汚染が起きたんだろうと疑問をもって、必要だったら仲間とネットワークをつくって環境活動をやっていけるようなリーダーになってもらいたいです。富山湾でタンカー事故などが起こった際には、滑川高校OBOGがリーダーになって解決してほしいですね」

澤田先生によると、3年生には海洋科クラブの活動には無理して来ないでもいいよと伝えているにもかかわらず、進路の時期でも来てくれたり、運動部を引退した後に来てくれたりしているとのことです。新聞で取り上げられたり、地域の人が評価してくれていて、それが励みになってやる気になっているのではないかということです。

海は地域の共有財産だということ、そして海を守るための環境保全活動は地域貢献になるということ。それを実感できる滑川高校の海洋教育の今後に注目したいです。


(※1  遠隔操作により水中に潜行できる潜水探査機の総称。水中ドローン。人が潜水する場合よりも海中の生物に警戒されずに探査が可能となる)

(※2  滑川のアマダイが他の地域と比べて色が白いことに着目して、それは滑川の水質が違うからではないかと仮説を立てて、海水中の光の伝播について調べる研究。平成28年度に産業教育中央振興会会長賞を受賞。研究のテーマは後輩の生徒に引き継がれ、研究対象はアマダイにとどまらず、滑川特産のホタルイカを獲る際に陸上から当てる集魚灯LEDライトの改善に応用できるのではないかと期待されている)

(※3  動機づけに関する理論研究。心理学者のエドワード・L・デシとリチャード・M・ライアンによる研究が有名)

(※4  レイチェル・カーソンは、著書『沈黙の春』において、合成化学薬品であるDDTのような殺虫剤を無制限に思慮なく散布し続けていると、やがて春が訪れても鳥がさえずることなく、虫の音すら聞こえない沈黙した春を迎えるようになるという警告をおこなった)

CREDIT

取材・文
北 悟
写真提供
富山県立滑川高等学校