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【海洋教育レポ】島の仲間から受ける刺激―東京都立小笠原高等学校

海洋教育レポート

全国で取り組まれている海洋教育を取材し紹介する3710Labの「海洋教育レポート」。
第4回目は、東京23区から南方約1000キロメートルの太平洋上、特異な生態系が維持されている小笠原諸島は父島から東京都立小笠原高校の取組みをレポートします。

島ならではの良さへの気づき―島しょ高校生サミット

小笠原高校では、島嶼間の交流活動を通して地域創生を担う人材を育成する教育に力が入れられています。その中心となるのが「島しょ高校生サミット」という、東京島嶼部(※)にある7つの都立高校の生徒が集まって、研修や情報交換を行うというイベントです。各島が持ち回りで開催地となっており、第一回の大島高校に引き続いて、2018年度は小笠原高校がホスト校となって7月25日(水)から7月28日(土)の3泊4日で開催されました。

小笠原高校のある父島へは、東京の竹芝桟橋から貨客船おがさわら丸で24時間かけて行きます。おがさわら丸1隻で往復しているので便数が少なく、夏でも3~4日に1便しかでません。今回のサミットの日程もこの唯一の交通手段である、おがさわら丸の発着スケジュールに合わせて設定されています。ところが、台風12号の進路予想を考慮すると、復路の7月28日父島発の便が欠航になる可能性がありました。そのため一部の参加者は、往路の便で25日父島に到着した3時間半後、東京へ向けて折り返し出航する便でやむなく帰ることになりました。離島の移動は天候に左右されがちですが、台風が多かった今年は特に大変だったようです。

大島や八丈島などの伊豆諸島からは年1回程度の寄港便以外は小笠原へ直接行くことはできず、東京竹芝へ行ってさらにおがさわら丸に乗る必要があります。島嶼7高校が島を舞台に集結する島しょ高校生サミットは移動するだけでも一大イベントです。


島嶼の高校生だからできること

島嶼間の交流活動に生徒たちはどのように取り組んでいるのでしょうか。校長の遠山裕之先生にお伺いしました。

―――今年の島しょ高校生サミットの内容を教えてください
「台風12号の影響で内容を大幅に組替えての実施となりました。1日目は、開会式、参加各校の紹介とグループ協議を3時間半ほどで一通り行い、初日のみの参加者の出航を見送った後、ウェルカムパーティーで親睦を深めました。2日目はグループ別協議の後、村役場・支庁・国土交通省小笠原総合事務所を表敬訪問し、小笠原地域の現状と取組について説明を受けました。3日目は台風接近のため、島内見学を中止し、高校でタコノ葉細工体験と成果報告会のリハーサルを行い、4日目朝から村民向けの成果報告会をおこないました。そして出航前の2時間で島内の自然や戦跡を見学しました。参加校紹介は前回サミット以来1年間の取組みについて各島のアピールを加えつつ各8分以内で発表してもらいました。テーマ別協議は①魅力ある学校づくり・島づくりに向けて協力してできること、②島しょ高校生にできること(島しょ高校生だからできること)、③島しょ地域の防災、をテーマに4グループに分かれて協議しました」

―――交流活動の意義をおしえてください
「自分の地域のことを考えるきっかけになると思っています。私が小笠原高校に赴任して来て、生徒会とミーティングをしました。生徒たちは小中学校と同じメンバーの中で過ごしているからなのか、島のことをあらためて考えることがないようでした。島の産業についてはあまり把握してない様子でした。また、他の島のことを知らないのも印象的でした。民間人が居住している小笠原の島は高校がある父島と母島のみです。お金もかかりますし島の外に出ることはそうありません。10代はとても変わる時期なので、島の外からの刺激を受ける機会を設けたい、その際に交流という形で刺激を受け取ってもらいたいと考えました」

―――島嶼間で交流することの意義をおしえてください
「生徒自身が島嶼に育ったことの良さに気づける機会だと思っています。その気づきのためには島と都市の比較だけでは足りず、島と島の比較が必要だと考えています。たしかに島は人数が少ないので、島嶼の学校では体育祭を小中学校と一緒にやる必要があったり活動に制限があるのは事実です。しかし都市的な見方とはちがう島嶼からの見方があって、その視点が島嶼地域の再生につながると思います。生徒は卒業後に島の外に一度出ますが、都市生活をしていると気づかないこともあるので、島にいる間に気づいてくれたらと思っています」

―――各島を開催地に島嶼間交流をおこなう意義をおしえてください
「島に実際に来たからこそわかるということを大事にしています。たしかに島はアクセスが悪く大変です。内地を会場にしたらいいのではという意見もありました。それはそれで合理的かもしれません。しかし、それでは各島の生徒が生活している状況がわからないままで終わってしまいます。昨年のサミットのことですが、大島に着いた本校生徒が、第一声で”戸建ての家が沢山ある”と言いました。その生徒が通う母島は特にそうですが、小笠原は地形上宅地用の平地が少なく、またアメリカ統治時代の影響等もあり、小笠原は住居のほとんどが都営住宅です。逆に他校の生徒から、自分たちの島は岩場だったり石がゴロゴロと多いのに、小笠原は白い砂浜があっていいねと言ってくれることで良さに気づくこともあります。アクセスの悪さについては、そのこと自体が離島全体の課題として捉えるべきです。離島とはそういうものなのですからね」

―――交流活動の準備としてどのような工夫をしてますか
「サミットの2か月前から事前にテーマを渡して事前学習という形で調べてもらいます。情報収集は基本的に生徒に任せています。交流活動のために発表するという目的意識があるからなのか、文献を使ったり、地域住民にヒアリングしたりして自分の島のことを調べてきます」

―――島しょ高校生サミットの課題をおしえてください
「継続のための体制づくりが課題です。島しょサミットは7年かけて一順したらひと区切りですが、その後の継続も構想しています。教員の異動が早いという島特有の事情があるので、担当者が変わっても継続できるようにある程度の型をつくって実施しています。そして何年も続けていった結果OBOGが島に戻ってくるようになって、高校生に支援する側になってくれたらと思います。そのために予算面についても目途をつけられるようにしなければと考えています」

小笠原では、父島と母島とが離れていて地域連携が取りづらく、PTAのような支援団体がなかったそうです。そのため、遠山校長は、学校の取組みに対して感想や意見をもらうこと、寄付を集める窓口になることの2つのみを目的とするPTA設立の呼びかけをおこなったそうです。保護者の負担への配慮をしながら地域と学校をつなげることから取組みを始めたとのことでした。

最後に、遠山先生に海洋教育への想いについてお伺いしました。
「現在、島の多くでは高齢化や人口減少が進み、高校入学者は減少しています。サミットに参加した生徒の中から島に帰ってきたいという発言が増えたのはうれしいですね。島嶼出身者や内地の人とのあいだに横のつながりができて、島嶼の地域づくりを一緒にやっていこうという機運が高まってほしいです。日本全体が島ともいえるわけで、日本にたくさん島の仲間がいるのですから。その中でも小笠原は国境離島と世界自然遺産という強い意味付けもされていて、島で生活しながら島を守っていく人、すなわち海とともに生きている人がいるので、海とともに生きる良さを実感しつつそれを発信していってほしいですね」

海の恵みにあずかり生活を営んでいる島は、海の環境の変化による影響を大きく受けます。そのため、日本に限らず世界の多くの島では、古来より、海と共生するという姿勢が育まれ、文化や産業にもそれが現れます。そのような「島」ならではの生活や文化、課題や魅力を探求していくことは、「海洋と人類の共生」のあり方を考える上でも重要になりそうです。

サミットでは、島の温かさや風習、郷土料理を島しょ連携サイトを作って発信したいという提案が高校生からあったそうで、高校生たちはサミットが終わってもなおSNSでお互い連絡を取り合っているとのこと。かつて島の若者が七島学生寮(※2)で絆を深めたように、島しょ高校生サミットをはじめとする交流のなかで生まれたつながりによって、これからの島の未来がつくられていくことに期待したいと思います。


(※1 東京島嶼部というのは、伊豆諸島と小笠原諸島からなる地域です。島嶼部のうち高校がある島は、小笠原高校のある父島のほか、大島、神津島、新島、三宅島、八丈島の6島です(大島から2校参加)。東京都は特別区、多摩地域、島嶼部という3つに分けられます。東京都議会議員は東京都島嶼部選挙区から選出されます。)

(※2 内地へ進学する東京島嶼部出身者ための学生寮として運営されてきましたが、女子寮がないことや建物の老朽化や財政面の問題から、平成16年に廃止されました。)

CREDIT

取材・文
北 悟