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海をもっと親しいものにしたい!―第3回海洋教育こどもサミットin気仙沼(前編)

レポート

2018年11月16日、気仙沼市立鹿折小学校にて「第3回 海洋教育こどもサミット in 気仙沼」が開催されました。
テーマは「海に学び 海と生きる —地域の学びから考えるつながり— 」。宮城県気仙沼市の2幼稚園、8小学校、3中学校、2高等学校のほか、岩手県洋野町の8小学校、4中学校と山形県立加茂水産高等学校が参加し、それぞれの学習活動について発表するポスター・セッションや、各校の児童生徒たちとの振り返りや学びの深め合いをおこないました。

アトラクション:浪板虎舞

サミットの導入として、はじめに波板虎舞保存会による演舞が披露されました。
気仙沼市波板地区で保存・伝承の活動がおこなわれてきた波板虎舞。江戸時代から伝わるいわれ(※1)と、「虎は千里往って、千里還る」という故事をもとに、漁師たちの航海の安全祈願や家人の祝い事、災難除けのために演じられてきました。

保存会の会長から、由来の説明とともに、「海洋教育こどもサミットにうってつけの芸です。今日はこどもサミットということで、子どもが前面に出る形で披露します」と挨拶がありました。
参加者は、太鼓と笛の音色や勇壮に舞う虎の姿をしばし楽しみました。なかには虎に頭をかじられる子どもたちも。これから発表に臨む生徒児童にとって縁起のいいアトラクションとなりました。


海洋教育の実践、地域の協力

そして、サミットがスタート。まず、気仙沼市立大谷中学校の代表生徒によるあいさつがありました。
生徒は、「各学校の発表や意見を聞いたり交流することを通して、新たな考えや取組に触れ、今後の実践に活かすことで、私たちのふるさと大谷の海がもっと好きになり大切にできたらと思います。また、ここに集まった皆さんとともに、海がもっと親しいものになるきっかけにしたいと思います」と話しました。

続いて、気仙沼市で行われている海洋教育の実践例について、大谷幼稚園、唐桑中学校の各校から報告がありました。 大谷幼稚園主任教諭の日下真知子先生からは、再開した大谷の海での活動を通して、園児たちに生じた変容の様子が報告されました。

以前、大谷幼稚園では、大谷海岸を散策したり海のゴミ拾いをするなど、海は身近な地域環境だったものの、東日本大震災以降は活動を中止していました。目の前に海が見える毎日を過ごしながらも、海とは距離がある状況が続いていたそうです。しかし、震災からまもなく8年が経過する中、大谷という地域環境のなかで育ち成長するには、園児たちを海から遠ざけず、海に出会わせてあげるべきではないかという声が高まり、海と親しむための機会を設けていきました。その際、保護者への聞き取りや役員会での意見集約をおこない、園児たちの海に行ってみたいという想いが芽生え始めていることを確認し、保護者ボランティアや地域コーディネータ―を伴うことで安全面に配慮をしながら、大谷海岸の散策活動を「海の幼稚園」と名付けて再開させたといいます。

普段は消極的な園児が力強く岩場に登る様子が見られたり、「魚は血が出るけどイカはどうして血が出ないの?」と気づいたことを友達や教師に伝えるようになったり、図鑑で魚のからだの仕組みを調べるといったの園児の様子が紹介されました。園児にとって海との出会いは心を動かす体験となり、積極性を発揮したり、反復して関心を傾けるようになるきっかけになったようです。

唐桑中学校主幹教諭の熊谷岳哉先生からは、学校と地域との連携体制をもとに実現している学習についての報告がありました。唐桑中学校では、総合的な学習の時間で、それぞれ1年生は防災、2年生は福祉、3年生は海というテーマで唐桑のまちづくりという課題について学習をしています。
今年度の1年生は、測量士の協力のもと、正確な海抜を地域に表示する活動に取り組んだそうです。専門家の協力を得ながらの活動を実現する際は、唐桑公民館の存在が大きかったとのこと。公民館は、依頼に応じて地域の専門家を紹介してくれたり、学習環境を整えるための相談ができるようになっているそうです。公民館が学校と海とを近づける大きな役割を果たしているのは、唐桑町の伝統です。


海のまちづくりという課題

次は各校の児童生徒たちによるポスター・セッションです。学習活動をまとめたポスターの前に立ち、他校の生徒や先生たちに向けて発表を行います。その中から、気仙沼市立唐桑中学校と気仙沼市立大谷中学校の発表を紹介します。

唐桑中学校では、3年生の総合的な学習の時間で「漁業」、「観光」、「コミュニティー」、「食」の4グループに分かれて活動しています。
「漁業」チームの生徒は、若者に漁業への興味をもってもらうにはどうすればいいかを考えるために、漁業に携わる女性にインタビューをしてきたとのこと。唐桑は昔から漁業が盛んで住民の多くが直接・間接的に従事しています。生徒たちがインタビューしたのは、そのうちの養殖や加工に携わる人々です。そこで女性も多く働いているのを目にした生徒たちは、海の仕事は男のものという認識が変わったと感想を伝えてくれました。

漁業活動は経済活動であるとともに、沿岸海域の環境保全に貢献する側面があります。漁業法が改正されて、漁業権について地元漁業者が優先されなくなる時代が到来し、漁業を巡る後継者不足の問題は深刻になっています。漁業が盛んな地域のまちづくりという観点では、将来の進路として漁業を選ぶかそうでないかにかかわらず、地域にとっての持続可能な漁業の在り方を地域ぐるみで考えていく必要があるように思います。

実践報告にあったように、唐桑中はまちづくりという視点で課題学習をしています。生徒たちが漁業に興味をもってもらい就業を促したい「若者」とは誰のことなのでしょう? それは漁業を含めた唐桑のまちづくりのことを一緒に考えていける「仲間」のことではないかと思いました。

また、「食」チームは海から吹き付ける風の影響を受けて育った唐桑産リンゴを使ったレシピ開発、「観光」チームは宮城オルレ(※2)気仙沼唐桑マップの作成、「コミュニティー」チームは大漁唄い込みという伝統芸能の活動を通してまちづくりに取り組んできたことを紹介してくれました。

発表のまとめとして、生徒たちは、地域の方々がつないできた魅力を将来に渡っても残していくという決意を語ってくれました。


マイクロプラスチックの海

大谷中学校からは、大谷の環境と水質汚染についての発表です。
生徒は大谷の環境を調べるために、大谷海岸で海水を採取・保存して3か月間にわたって観察をおこないました。最初は海水の見た目は透明できれいだったものの、3か月後には海水が濁りカビが発生してしまったことから、大谷海岸では水質が悪化していると考えられる、という結論を報告しました。その他にも、生徒たちは、問題となっている松枯れや磯焼けの原因を調べたり、海岸のゴミや漂着物による汚染を調査しました。一方で、沢山の海浜植物が生息している事実から、海浜にはたくさんの養分があるのではないかという推論を導くなど、総合的に大谷の環境を把握する調査活動をおこないました。

続いて、生徒はマイクロプラスチック(※3)について発表しました。魚の解剖をして、胃袋の内容物を顕微鏡で観察したり、海岸や河川のゴミを観察する中で、大谷にもマイクロプラスチックと思われるものがある、と結論付けました。その上で、マイクロプラスチックの危険性を伝えたり、ゴミを拾い、「自分たちにできること」をしていくことが大切だと感想を伝えてくれました。

マイクロプラスチックは、年間1300万トン、約51兆個が排出されているという研究報告があります。量的に把握されるものの、海中や海底に漂っているために、陸地に生きる人間の目には容易に見えない性質のものです。マイクロプラスチックをめぐる問題は、陸地から海の中を想像し、他の地域や国と協力しなくては解決できないものです。「自分たちにできること」は何なのでしょう? その先を聞いてみたいと思いましたが、まずは「自分たちと海とのつながり」を考え続けていくことが大事なように思いました。

大谷中学校の生徒たちが行った海は、冒頭で触れた大谷幼稚園の園児が7年ぶりに親しんだ海と、同じ大谷海岸です。かつて環境省の快水浴場百選でもあった大谷海岸の海開きは計画上3年後ですが、海中がれきの除去などをおこない、最終的に安全が確認されるのはどうやらもう少し先になる見込みです。

大谷海岸が海水浴を楽しめる状態になることを願うとともに、「身近な海と触れ合った児童たちが、地元の海とつながる様々な地域や国の海にも興味をもってほしい」という大谷幼稚園の日下先生の締めくくりの言葉を思い出さざるをえませんでした。

工夫をこらした各校のポスター・セッションの続きは、レポート中編でお送りします。


※1 江戸時代のこと、気仙沼を出港した江戸通いの船が消息を絶ち行方知れずになりました。船の帰りを待つ船員の家族たちは、大島亀山に毎日登り、山頂から船の帰りを待っていましたが、その望みは叶わず、亀山山頂に船員15名分の松を植えて供養しました。ある時、あきらめきれない家族が亀山に登ると、松の木の根元でトラ猫が踊っているのを目にします。すると、遠く水平線に消息を絶った船が姿を現しました。

※2 「オルレ」とは、韓国・済州島発祥のトレッキングのことであり、「通りから家に通じる狭い路地」を意味します。通常の自然の中を歩くトレッキングに加え、民家の庭先や路地などもそのコースに組み込んだところが特徴。

※3 マイクロプラスチックとは、5ミリ以下のプラスチック粒子のことです。粒子はビニール袋やペットボトルが長い時間をかけて波にもまれ細かく破砕されてできたものです。表面に有害物質が付着しやすいため、付着した粒子が海洋生物の体内に取り込まれると、それを摂取した人体にも発がん作用、内臓疾患といった影響が大きいとされます。

CREDIT

取材・文
北 悟