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海と人、水と人の新しいつながりを「うみだす」水族館
仙台うみの杜水族館・藤森館長インタビュー

インタビュー

2015年7月に開館した仙台うみの杜水族館。同年5月に閉鎖したマリンピア松島水族館の生きものたちを引き継ぎ、海の魅力を伝えていくことを目的に新たに始動したこの水族館は、オープン初日には長蛇の列ができ、いまも近隣のみならず他県からも人々の大きな注目を集めています。東北という地域の特性を活かし、震災復興の取り組みとともに活動を展開していくという水族館のこれからについて、館長の藤森純一さんにお話を伺いました。

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仙台発、海と人、水と人の新しいつながりを「うみだす」水族館

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——今回は、開館直後のお忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございます。まず藤森館長についてお聞きしたいのですが、以前は横浜・八景島シーパラダイスにいらっしゃったんですよね。

藤森:はい、オープン当初から飼育員として入社しました。元々は大学で水産の増殖学を学んでいまして、八景島のあとは、相模川ふれあい科学館にある水郷田名の小さい水族館で務めていました。

――水族館のベテラン、ですね。それでは早速、今回オープンした水族館のことをお聞きしたいと思います。まず「仙台うみの杜水族館」という名前について、「うみ」の表記がひらがなだったりすることに何らかのメッセージがあるのでしょうか。

藤森:この水族館のコンセプトが「海と人、水と人との新しいつながりを『うみだす』」というもので、「うみ」という言葉には、自然の「海」と「うみだす」という2つの意味を込めています。また、「杜の都」と呼ばれる仙台らしさも加えています。

――「海と人」というのは正にこの3710Labが掲げているテーマでして、それって何だろうということを考えていきたいと思っています。今回、オープンしたばかりの水族館を拝見して、東北三陸の漁業を強くフィーチャーされているのが印象的でした。漁業も、高齢化による後継者不足が問題になっていますが、「海と人」というテーマにはこうした水産業も含まれているのでしょうか。

藤森:この水族館の計画が始まったあとに震災が起きたわけですが、震災以降は子どもたちの「海離れ」も起きていますし、水族館を通してできる復興のお手伝いとは何かを考えたんです。そうしたとき、沿岸地域の観光業ももちろんですが、大きなダメージを受けた水産業にも何らかのアプローチをしていこうと。

――展示空間の前半は、日本の海の紹介から始まりますよね。

藤森:そうですね、たとえばシロザケの展示では、魚をただ見るだけじゃなく、そこに関わる人たちも同時に紹介していこうと思っています。次の部屋には海女さんの文化も紹介しています。その次は、気仙沼の漁港がテーマになっていて、休日には実際に漁港の漁師さんたちに来てもらうなど、お客さまとのコミュニケーション機会を設けています。

――それは素敵な試みですね。
藤森:普段、実際に使う道具などを持ってきてもらって漁のことを話してもらうのですが、こうした取り組みが同時に気仙沼の観光PRにもなれば、と思っています。現在は気仙沼だけですが、今後は石巻や塩竈など、定期的に地域を変えて続けていく予定です。

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左から)館長の藤森純一さん、広報の西岡真佳さん

――「日本のうみ−東北の海−」コーナーで特徴的なことといえば、展示の最初にマボヤ(ホヤの一種)があるんですよね。マボヤから来たか、と驚きました(笑)。

藤森:そこはね、チーム内でも意見が分かれたんですよ。地元の人にとって、見慣れたホヤを見て何が楽しいんだと。でもあえて見せることで、名産を再認識する機会にもなり、良かったのではないかな、と。

――仙台出身の人間として感動したのは、ホヤと合わせて何を飲むのがいいのかと描かれた解説パネルです。すごく地元ならではだな、と。

藤森:はい、正解はお水なんですよね。水がすごく甘くなるんです。海の恵みは、食べてこそ伝わるものがありますからね。地元の食の良さを伝えていきたいと思っています。

——お水なんですね、てっきり日本酒だと思っていました(笑)。


松島から、仙台へ。震災を経て受け継ぐ地域のコミュニケーション

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――カキの養殖のコーナーでは、カキ殻を使った「キャンドル」作りに参加できたり、干潟のコーナーでは、下からくぐって干潟の中から顔を出せたりと、こうした参加型の場所はとてもいいなと思いました。

藤森:震災以降、海のイメージが「恵みの海」から「脅威の海」に変わってしまいましたから、実際にふれあえる場所を作って、もう一度「海」というブランドを取り戻すことが水族館の発信する役目だと思っています。一方で、館内のデザインを割とスタイリッシュに作ってしまった感もあり、今後はもっと解説パネルなどを増やしていきたいと思っています。見て楽しむ以上に何を、どう伝えていくかはこれからの課題ですね。

――なるほど、また今後はコミュニケーターの方をどう育てていくかも重要なファクターになるかと思いますが。

藤森:そのとおりです。オープン前から準備室が立ち上がっていたのですが、全企画は飼育員たちが中心となって、みんなでゼロから考えていきました。

――飼育員の中には、今年閉館したマリンピア松島水族館(以下、松島水族館)の方もいらっしゃるそうですね。

藤森:はい、この水族館は復興や地元の人たちを支援しようという側面が強く、松島水族館が閉館するにあたって、当時の飼育員さんの多くが現スタッフになってもらっています。特にうちは松島水族館にいた多くの生きものたちが引っ越してきているので、飼育員さんも慣れていますからね。

――展示を見ていると、「あ、あのマンボウ、松島にいた子だよね」なんて声も聞こえてきて、嬉しそうに見ているお客さんが多かったように思います。

藤森:松島水族館さんは、閉館のニュースを見ていても本当に地元で愛されてきたところだということが伝わってきますね。うちも、あんな風になるのが目標ですね。現在、漁師さんと円滑なコミュニケーションが取れているのも、松島水族館さんが長年かけて彼らと付き合ってきていた背景があるからだと思っています。水族館と漁師さんって切っても切れない関係がありますからね。こちらからも、網の修理を手伝いに行ったりだとか、普段から色々な交流を重ねています。

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――また、東北ならではの施設という意味では、館内に災害時のサインが随所にあることも印象的でした。
藤森:この土地自体が、震災時におよそ70cm~1mくらいの津波被害を受けた場所なんです。そのため、1階部分は1m程底上げしていて、機械系統もすべて2階に収めています。震災対策についてはかなりの準備をしていますね。


水族館が抱える命題

――「日本のうみ—東北のうみ—」を紹介する一方、展示後半にある「世界のうみ」も充実されていますよね。クラゲや南方地域の魚のビジュアルは本当に美しかったです。

藤森:日本には水族館が60施設程あるのですが、その中でも差別化をはかっていかなければならない。そうしたとき、地元の東北三陸の海は外せないんですが、寒い地域の魚ってちょっと地味なんですよね。やはりお客さまのニーズとしては、きれいで珍しいものを見たいという思いもありますから、当水族館は、日本の海と、世界の多種多様な海の世界、そしてパフォーマンスやふれあいなどのエンターテインメント性という3つの大きな柱で構成されています。

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――水族館という場所は、単純に生きものを見て楽しむ娯楽施設である一方、社会的な教育施設でもあり、今回のような地域復興も目的にあるなど、様々な要素が含まれていると思います。藤森館長は長らく水族館施設に関わられていますが、どんな場所を目指していきたいと思ってらっしゃいますか。

藤森:難しい質問ですね。水族館それぞれの背景によって異なるとは思います。公立施設であれば教育や研究が中心になりますが、わたしたちのような民間施設はお客さまに楽しんでもらい、利益を上げていかなければならないという命題もある。特にこの水族館は仙台市の計画上、観光客の交流人口を増やすためにできた場なので、現在は仮設の駐車場になっているところも今後は野球場ができる予定などもあります。

――なるほど、それらができると動線も変わってくるでしょうね。

藤森:ただ、そうした命題はあるものの、水族館という場所だからこそ、海という環境や生きものに興味を持ってもらい、実際に海に行ってみたりだとか、何かをやってみようと思えるきっかけを作っていきたいですね。教育という意味においても、わたしはやっぱりフィールド(現地)に行くのが一番だと思うんです。でも、誰しもが海の中を見てこれるわけではないから、実際の自然環境にできるだけ近付けたところで、生き物たちの動きや色をリアルに伝えていきたいと思っています。


地元の子どもたちへ、新たな学びの場を

――今後は、子どもたちと現地を訪れるような施策も考えられているのでしょうか。

藤森:現在、八木山動物公園さんとの連携を図っていまして、彼らと一緒に学校に行って、出張授業などを行っています。

――水族館と動物園という組み合わせは面白いですね。
藤森:以前の出張授業は初回ということもありテーマもバラバラだったのですが、今後は、たとえばわたしたちがメダカの卵を題材に発生の仕組みを教えたあと、八木山動物公園さんの方に、陸上動物の卵について教えていくという連携も面白いかな、と。

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――既存の学習内容に近いかたちで取り入れていくということですね。

藤森:そうですね。こうした学校との連携は今後も増やしていきたいのですが、熱心な校長先生や理科の先生がいらっしゃる学校じゃないと、なかなか進まないことも多くて。また、出張授業も単発で終わってしまうものが多いのですが、本来は1年間くらい継続した学習プログラムを作っていきたいんです。たとえば、1回目の授業でわたしたちが水族館や生きものの話をした後、その次は子どもたちが気になったことを自発的に調べて、そのレポートをもとに、今度は実際に本物を見に行こうと、フィールドで観察してみる。こうした一連の流れを作りたいのですが、ここまで付き合ってくれる先生を探すのは本当に大変で(笑)。

――どの学校も、既存の学習内容を追いかけるのに必死で、実践的な活動が広がりにくい傾向があるんですよね。それは、わたしたち3710Labでも考えていきたい課題でもあります。

藤森:以前、わたしが相模原の水族館で勤務していたときも出張授業をしていたのですが、本当に熱心な先生がいらっしゃって、夏の間ずっと相模川の生物採集に付き合ってくれたんですね。そうすると、その学校の生徒さんとも自然とすごく仲良くなれるんです。学校帰りにランドセルをしょったまま水族館に来てくれるお子さんもいて。

――それは、地元に根ざした水族館ならではの良さがありますね。

藤森:小さい規模だったからできたこともあるかもしれませんが、この仙台うみの杜水族館にも、学校帰りに子どもたちがふらりと立ち寄ってほしいですね。その意味で、年間パスを推奨していたりもします。

――館内に「うみの杜ラボ」という施設もありますよね。そこではどんな活動があるのでしょうか?

藤森:そこでは様々な希少種を育てているんですが、展示するだけではなく、バックヤードに入って、スタッフとお客さまが直接交流できるようにしています。水族館の飼育員というのは、基本的に研究員でもあるので、彼らの日々の研究を子どもたちに見せていきたいと思っています。たとえば、「今日、卵が生まれたよ」とお知らせをしたら、すぐに子どもたちが見に来られるような環境にしていきたいですね。

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――とても素敵なアイデアですね。最後になりますが、藤森さんにとって、「子どもたちに伝えていきたい海のストーリー」とは何でしょうか。

藤森:ひと言で言うなら「海は楽しい」ということでしょうか。海という自然そのものが、遊んで学べる、楽しい場所だということを伝えたい。もちろん、自然の脅威もありますが、それらも理解した上で、さまざまな発見に満ちている場所だと思います。

――貴重なインタビュー、ありがとうございました。これからの取り組みをとても期待しています。また、次回訪れたときにどんな変化があるかが楽しみです。

CREDIT

取材
3710LAB
塚田有那

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