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先人たちの知恵を辿るー特別の教科「海洋科」

レポート

三陸地方イコール海産物というイメージがあります。世界三大漁場とも言われるのは、暖流と寒流とが流れ込んでいるという自然の地の利も大きいですが、それだけで水産業が興ったわけではありません。見落とされがちなのが水産業を興してきた先人たちの知恵。日本で唯一の特別の教科「海洋科」を設定している岩手県洋野町立中野小学校にて行われた授業をレポートします。

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日本で唯一の「海洋科」

ドラマ「あまちゃん」で主人公が通った北三陸高校のモデルとなった岩手県立種市高等学校がある岩手県洋野町。岩手県の最北部にある洋野町はウニとホヤの名産地として知られています。海とともに生きてきた地域でもある洋野町では、小学校や中学校での授業においてウニ採取やウニのための植林体験、鮭とば作りなど、海に関わる体験授業が多く行われています。これまでの体験授業を一歩進め、海と人との共生というテーマのもとに特別の教科「海洋科」を設置したのが中野小学校です。

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地形と特産品との関係を探る

「海洋学習をはじめます」との号令のもとに始まった海洋科の授業。渡辺清子先生のクラス、6年生です。授業の始まりは、大きなディスプレイ上に様々な町の写真が映され、その写真上の地形を手掛かりにそれがどこの町かを当てていくというクイズ。扇型の地形が映されると、子供たちは「函館!」と勢いよく答えます。渡辺先生は「函館の特産品は?」と質問を重ねていきます。数枚の写真でクイズを行い、地形と特産品の関係に子供たちの意識を向けさせたのちに、最後に映されたのは洋野町の海の写真。特産品はもちろん「ウニ」。渡辺先生は、岩手県内のウニの収穫量のグラフを見せ、約半分が洋野町で収穫されていることが示しながら、子供たちに聞きます。「なぜ洋野町でウニがたくさん採れるようになったのでしょう?」

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なぜウニがたくさん採れるようになったのか

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この「なぜ」を解くための手掛かりとして配られたのが、洋野町の地質図と地形図です。渡辺先生は、この配布資料をもとに洋野町の地形の特徴を探してみようと発問します。ウニがたくさん採れる理由には、洋野町の地形的な特徴が関係しているようです。子供たちは実際に海に行った時のことを想い起こしたり、資料に書かれている専門用語を辞書で調べたりしながら、その特徴を探していきます。

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子供たちが地形の特徴としてあげたのは、浅い岩場が多いこと、海岸線がでこぼこであること、海色崖が多いことなど。その他の特徴を見つけた人と渡辺先生が聞いてみると、ある子供が発言しました。「潮が引いたときに海面から陸地のような部分があらわれます」。この発言に、子供たちは一瞬驚いた表情を見せ、すぐさま資料を見直します。

「本当だ」「陸地のような部分は波食台って言うみたい」「波食台って何だろう?」「海岸の地層が波によって削られて崖になる一方で、波が当たらなかった部分が平らになったものだって」。子供たちのやり取りの後に、潮が引いた時に波食台が海面にうかびあがることが洋野町の地形の特徴として説明されました。でも、そのような特徴とウニが多く採れることとはどんな関係にあるのでしょうか。

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潮の満ち引きと増殖溝

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規則正しく並んだ増殖溝。この溝でウニを育てます。画像:みちのく潮風トレイル(環境省)よりhttp://www.tohoku-trail.go.jp/message/msg_hirono

さらなる謎に対し、一枚の写真を提示する渡辺先生。それは海面に浮かび上がった陸地すなわち波食台に規則的に並んだ溝の写真でした。子供たちはこの写真の現場を実際に見たことがあるようで、この溝のことを「増殖溝」と呼ぶことを知っていました。だけど、この溝は何のために作られたものなのかと聞くと……。そこで、改めて考えます。増殖溝が作られた理由。子供たちからは様々な意見が出ます。「ウニを増やすため」、「ウニをいっぱい作ってお金を稼ぐため」、「稼がなければいけないのはなぜって?他に産業がないから」、「そもそもこの溝でどうやってウニを増やすんだろう?」……。考える鍵は、潮の満ち引きと波食台の露出!

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潮が引いて波食台が海面から浮かび上がるとどうなるんだろう?子供たちは考えに考えた結果、協力のもとに一つの予想を立てます。ある子供が言います。潮が引くと波食台が出て、そこに住んでいたウニも水上に出てしまうんじゃないか、と。するとどうなる?ウニは干からびて死んでしまう!ウニが死んでしまうと、ウニを売れなくなって、お金を稼げなくなる。だから、ウニが死なないように増殖溝を作って、ウニが育つようににしたんじゃないか!?地形の課題に立ち向かった先人たちの軌跡を再現するかのようでした。


先人たちの知恵を継承していくこと

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資料と生活経験をもとに子供たちが学んだのは、海流や栄養源などの条件が揃っていたとしても、増殖溝が作られなければ、ウニが特産品になることはなかったということ。子供たちが感じたのは、自然の地形を理解し、増殖溝を作ることで自然環境を有効活用することに成功した先人たちの知恵の意義。先人の知恵を学び、それを継承していくこと。それが「海洋科」のテーマの一つです。


楽しんで学ぶ中野小の子供たち

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子供たちは授業後も熱心に資料読み解いているなど、海に関する学習を主体的に楽しんでいる様子が見られました。日本唯一の特別の教科「海洋科」がある中野小学校の取り組みについては、今後もレポートしていきたいと思います。

※ 2015年12月5日に開催される「第三回全国海洋教育サミット」にて中野小学校の子供たちが「海洋科」の学習成果を発表いたします。第三回全国海洋教育サミットについてはこちらをご参照ください。

CREDIT

取材
丹羽淑博、田口康大
田口康大