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AKI INOMATAのフィールドノート① ―仙台―

AKI INOMATAのフィールドノート①

生き物と協働して作品を制作するアーティストAKI INOMATA。
INOMATAが制作のために訪れた各地でのエピソード、海にまつわるレポートをつづる連載がスタートします。

 

フィールドノートを書く前に

アーティストは旅人。

自らがアーティストになるまで、アーティストとは、こんなにも世界各地を飛び回る職業だとは、知らなかった。もちろん、アーティストそれぞれで活動の仕方は多様である。しかし、現代アートの世界は、国内に留まるものではなく、日本国内においても、展示のために全国津々浦々へと出かけていく。リサーチや作品の材料の採取のために、自ら旅を企画することもあるだろう。

このコラムは、わたしAKI INOMATAが制作活動のために各地へ赴き、特に海に関するリサーチや展示を行った際に見たもの・感じたことを綴ったエッセイである。

作品制作を通して得た知見や考えたこと。膨大なそれらのうち、その時つくっていた作品に直接的に反映出来るのは、ごく僅かである。作品から零れ落ちたものは、次作で活かされる場合もあるが、私自身、すっかり忘れてしまうことも少なくない。そのため、各地で拾い集めた小さな物語を、この場に記しておくこと、そして読者と共有出来るとしたら、それは私にとっても嬉しいことである。

宮城県仙台 塩釜水産物仲卸市場にて (2015.9.22)

宮城県仙台 塩釜水産物仲卸市場にて (2015.9.22)


ヤドカリの生体展示を実現するために

2015年9月21日。展示の下見のため、仙台うみの杜水族館に向かった。

それというのも、3710Labの取材(海と人、水と人の新しいつながりを「うみだす」水族館 仙台うみの杜水族館・藤森館長インタビュー)をきっかけに、仙台うみの杜水族館でAKI INOMATAの作品《やどかりに「やど」をわたしてみる – Border-》の生体展示を行うことになったからだ。

私は、世界各地の都市をモチーフにしたヤドカリのための「やど」を3Dプリンタで制作し、ヤドカリが気に入れば実際に引越してもらう作品 《やどかりに「やど」をわたしてみる》を制作している。

このプロジェクトは2009年にスタートし、以来、継続して制作しているが、制作をスタートした当初は生体展示を行える機会はなかなかなかった。
何故なら、生き物の飼育は、膨大な手間がかかり、ともすれば死んでしまう大きなリスクを伴う。そして、美術館のレギュレーション的にも、生物はもちろん、飼育のための水や食べ物(エサ)は他の展示作品・所蔵作品を害する恐れがあるので、禁止されている場合が殆どなのだ。
そのため、私は今まで、作品を映像や写真で発表してきた。「やど」のみを立体作品として見せたこともある。
私の作品を仮に演劇もしくはパフォーマンス作品と捉えるなら、映像や写真で見せることはアーカイブ展示、生きたヤドカリの生体展示はライブだと言ってもよいだろう。

アーカイブ展示ばかりではなく、ライブもやってみたい。

私は、ヤドカリの生体展示を長いこと切望してきた。
制作開始から約5年が経過した2015年、やっとそのチャンスは巡ってきた。

フジテレビから仮設の水族館での作品展示の話が舞い込んだのだ。ここでの試行錯誤については、別の機会で書きたいが、その展示を皮切りに、TOKYO DESIGN WEEK 「Super Interactive ロボットミュージアム」展でも生体展示が実現し、そして今回は3710Labからの紹介で仙台うみの杜水族館での展示とあいなった。

INOMATAの制作した「やど」を背負うケスジヤドカリ(C)AKI INOMATA

INOMATAの制作した「やど」を背負うケスジヤドカリ(C)AKI INOMATA


仙台うみの杜水族館へ

仙台うみの杜水族館は、2015年7月にオープンしたばかりの新しい水族館。
展示の下見と打ち合わせのために、私が訪れた2015年9月21日は、シルバーウィークの只中であったこともあり、水族館内は大変な混雑ぶりだった。

1Fが日本の海、2Fが世界の海と、展示構成は大きく2つに分けることが出来るが、特に1Fで展開される、三陸の海を切り抜いたような展示が素晴らしい。

東京では、あまり馴染みのないホヤ(マボヤ)。
珍しい白化個体のアナゴ(マアナゴ)。
牡蠣(マガキ)の養殖の様子の展示。

牡蠣の養殖の様子の展示 仙台うみの杜水族館にて

牡蠣の養殖の様子の展示 仙台うみの杜水族館にて

興味深く進んでいくと、なんとヤドカリも展示されているではないか。
展示されていたのは、「オホーツクホンヤドカリ」と「カイメンホンヤドカリ」の2種。飼育員の方に詳しく話を聞いたところ、地元仙台の漁師さんが採取したものを分けていただいたのだという。

ちなみに、カイメンホンヤドカリは、海綿動物という生き物に、ヤドカリが自ら穴を穿って「やど」とする。自ら「やど」をつくるという点が少し珍しいヤドカリの1種である。
一方、オホーツクホンヤドカリはその名の通り、オホーツク海に生息するヤドカリで、日本では北海道・東北など寒い地域に棲む。身体の色が赤く、ところどころ金色に輝く部分があって美しい。

早速、これら仙台の海に住むヤドカリにも「やど」をわたしてみることは出来ないか、水族館に交渉してみたところ、試してみることになった。

水族館での作品展示は、私にとっても初の試みである。
だが、制作において、生き物の飼育で常に苦戦をしいられてきた私にとって、飼育のプロとコラボレーション出来ることは、どんなにか心強いことか。

仙台うみの杜水族館での展示の設営・作品公開の様子は、次回レポートしていきたい。

仙台うみの杜水族館で展示されていた オホーツクホンヤドカリとカイメンホンヤドカリ
仙台うみの杜水族館で展示されていた オホーツクホンヤドカリとカイメンホンヤドカリ

仙台うみの杜水族館で展示されていた オホーツクホンヤドカリとカイメンホンヤドカリ

CREDIT

取材・文
AKI INOMATA

PROFILE

AKI INOMATA
1983年、東京生まれ。東京藝術大学大学院 先端芸術表現専攻修了。生き物のふるまいを作品コンセプトに 取り込み、主な個展に、「犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう」(HAGISO/東京/2014)、「Inter- Nature Communication」(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]/東京/2015)、主なグルー プ展に「フランス大使館旧庁舎解体前プロジェクト No Man's Land」(旧在日フランス大使館/東京/2009) など。2014年、YouFab Global Creative Awards 2014 グランプリ受賞。

http://www.aki-inomata.com/

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