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AKI INOMATAのフィールドノート② ―仙台うみの杜水族館<前編>―

AKI INOMATAのフィールドノート②

生きものとの恊働作業によって作品制作をおこなうアーティストAKI INOMATAによるレポート第2弾。

仙台うみの杜水族館でおこなった展示を振り返ります。

仙台うみの杜水族館へ

2015年10月31日。ふたたび、仙台へ。

明日、11月1日から一カ月間公開される、仙台うみの杜水族館でのヤドカリの作品の生体展示を行うことになった。その設営立ち会いがあるのだ。

その日、仙台駅は、人が溢れかえっていた。

ジャニーズの人気グループ「嵐」が被災地復興を目的に、仙台でコンサートを開催するためだという。

美術の展覧会でもこのくらい人が集まれば・・・と密かに思いつつ、人混みをかき分け、足早に仙台うみの杜水族館へ向かう。

到着後、挨拶も手短にバックヤードへ。

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仙台うみの杜水族館のバックヤード

仙台うみの杜水族館のバックヤード

常に整った状態で見せなくてはならない表舞台とは違い、バックヤードは、濃密な「生」の気配で満ちている。

新しく水族館にきて、展示の出番を待つ魚たち。養生中のウミガメ。ペンギンの羽毛。巨大なイタチザメの歯の標本。
私の興味は、もしかしたら、こちら側にあるのかもしれない、とも思ってしまう。

生きものたちの飼育は、とかく手がかかることに、実際に生きものを飼ってみると気がつくだろう。

こと海水水槽という環境を維持するには、日々休みなく手入れをおこなう膨大な労働が必要とされる。

水族館のスタッフは、飼育のプロだ。
飼育環境を整え、生きものたちの健康管理をする。それはあくまで、日々「人知れず」おこなわれている。

かくいう私も、ヤドカリを飼うまでは、水族館の水槽が綺麗なのは何故か?など、考えてもみなかった。
私も、ヤドカリの水槽の維持-水替えと茶ゴケの除去に、奮闘しているからこそ、水族館スタッフが巨大な水槽をクリーンな状態に保ち続けていることがいかに大変か、想像がつくのだ。今は、水族館のスタッフに頭が下がる思いがしてならない。

水族館のバックヤードで日々繰り広げられている飼育・環境維持の苦労。表舞台からはなかなか見えてこなくとも、生きものたちを相手にしている以上、彼らの食、病気、競争、そして生死なども当然含まれているはずだろう。

生きもののそういった生々しい部分を扱うことは、もしかしたら私たち美術家の仕事かもしれない。


オホーツクヤドカリは引越しをするか

そして、私をバックヤードで待っていてくれたのは、大量のオホーツクホンヤドカリだった。

仙台うみの杜水族館から、仙台の漁師さんに依頼し、採取しておいてもらったヤドカリたち。今朝、飼育員さんが受け取ってきてくれたのだという。

注:受け取り直後だった為、たくさんのヤドカリがひとつの水槽に入っていますが、その後、大きな水槽に移されました。

私のつくった「やど」は事前にお渡ししてあったが、「今のところ、まだ引越ししてないんです。」 と、飼育員の萬さん。

でも、これだけ沢山のヤドカリがいれば、誰か私の「やど」を気に入ってくれてもおかしくはない。恋愛と同じ(?)で、まずは出会う相手の数が重要だ。

通常は、飼っているヤドカリに合わせて、いわばオーダーメイドで「やど」を制作しているが、今回のようなケースだと、先に建設済の「やど」があり、それに入ってくれるヤドカリを探すことになる。

そもそも、フリーのヤドカリ・・つまり「やど」なしのヤドカリというのは、いない。何故なら、「やど」がなければ、ヤドカリは生きてはいけないからだ。柔らかい腹部を守る「やど」がなければ、彼らはあっという間に他の生きものに食べられてしまう。

2009年からヤドカリを飼い続けて、はや6年。私には、どのヤドカリが引越しをしたがっているか、分かる。

引越ししてくれそうなヤドカリを、私はどのような点で見極めているかというと・・以下の2点が、そのポイントである。

① サイズ : 私が入ってほしい「やど」のサイズよりも、やや小さい「やど」を背負っているヤドカリが良い

② 現状に満足していない : 穴が空いているなど、殻に欠損がある。殻に引っ込んだときに身体が殻からはみ出している場合は、次の殻を探している場合が多い

私のことを好きになってくれそうな、いや、私のつくった「やど」を気に入ってくれそうなヤドカリを、水槽をじっと観察し、探す。

・・・決まった。

「この子とこの子を、それぞれプラケースに隔離してください!」

小さな水槽に、私が選んだヤドカリとヤドを1匹と1個ずつ入れてもらう。

ひとつの水槽にヤドカリが沢山いる状態よりも、小さなスペースに1匹のヤドカリが1つの水槽に入っている状態の方が、私の経験上、引越しの確率が高いからだ。

私のつくった「やど」をチェックしに来たオホーツクホンヤドカリ

何度も、私のつくった「やど」を見に来ている。

これは、脈がある気がする。

後編に続きます)

CREDIT

取材・文
AKI INOMATA

PROFILE

AKI INOMATA
1983年、東京生まれ。東京藝術大学大学院 先端芸術表現専攻修了。
1983年東京生まれ、2008年東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。
主な作品に、3Dプリンタで都市をかたどったヤドカリの殻に実際に引っ越しをさせる「やどかりに『やど』をわたしてみる」など。人間以外の生き物のふるまいに人間の世界を見立てることで、生き物に私たちを演じさせてしまう状況を作り出す。
主な個展に、「エマージェンシーズ!025 AKI INOMATA/Inter-Nature Communication」 (ICC、東京、2015)、「犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう」(HAGISO、東京、2014)など。
You Fab Global Creative Awards 2014 グランプリ受賞。

http://www.aki-inomata.com/

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