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撮ること、撮られること(前編) ー 第3回東京大学海洋教育フォーラム

レポート

「海と人との関わりを探る:記憶を記録する」

2016年3月21日(月)、東京大学福武ホールにて第3回東京大学海洋教育フォーラム「海と人との関わりを探るーディープ・アクティブラーニングの方へー」が開催されました。

このフォーラムは、東京大学教育学部附属中等教育学校、東京大学海洋アライアンス海洋教育促進センターが共同で行ってきた、「学習者の能動的な参加を取り入れながら、より“深い学び”を実現するためのディープ・アクティブラーニング」を目標とした総合学習の実践と成果を報告するものです。

テーマは「海と人との関わりを探る:記憶を記録する」。東大附属と海洋教育センターの共同計画・運営のもと、同校の「総合的な学習」として2015年4月から1年を通して行われた授業「課題別学習《海(Sea)》」を受けた生徒たちは、地域社会研究として沖縄に赴き、自分たちが暮らす環境とは異なる文化に触れながら、それぞれに「海」にまつわるテーマで現地の人々にインタビューを行うドキュメンタリー映画を制作。また、その経験と学びを活かし、ダンスパフォーマンスの創作と表現を行いました。
今回のイベントは、その授業の風景や過程を記録したドキュメンタリー映画『課題別学習』(監督:福原悠介)の上映を第一部に、授業の解説と生徒たちが制作したドキュメンタリー映画の上映、創作ダンスパフォーマンスの発表、パネルディスカッションなどを第二部においたプログラムで展開されました。

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ドキュメンタリー映画『課題別学習』

はじめに、映像作家の福原悠介さんが監督をつとめた映画『課題別学習』を上映しました。福原さんは、3710labのメンバーで海洋教育センターに所属する田口とともに「課題別学習《海(Sea)》」の授業運営に関わり、生徒たちに機材の使い方や編集方法を指導しながら、ビデオカメラを使ったインタビューの練習ワークショップ、映像制作のアドバイスなどを行ってきました。上映前の挨拶で、福原さんはこの映画を「生徒たちがカメラを使って沖縄の人々にインタビューし、ドキュメンタリー映画を制作するという授業自体を、さらにカメラによって捉え直す試み」だったと話しました。

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映画の冒頭、画面には、広い部屋に体育着を来た生徒たちが集まり、談笑している姿が映し出されます。生徒たちは中高一貫校の3、4年生(中学3年生と高校1年生)。授業が始まり、担当の福島昌子先生が「今日からインタビューの練習を始めます」と話すと、生徒たちは少し緊張した様子を見せます。

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まずは導入として、生徒同士でペアになり、お互いの距離を縮めるための運動を行います。そして、それぞれ向き合って椅子に座り、短い時間でのインタビューに試みますが……質問も応答も、なかなか言葉になっていきません。話す合間に「すいません」という声が漏れ、ぎこちない雰囲気が漂います。生徒たちは、「相手の質問にどう返していいか瞬時に判断できないから、難しいと思った」「自分の気持ちがそのまま答えられている気がしなかった」などと話します。

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練習を重ね、次はビデオカメラを用いた5分間ほどのインタビューに挑戦。この頃、生徒たちは「海と人と(  )」というキーワードに自分の学びのテーマを設定し、調べ学習を行っていました(調べ学習については「第3回全国海洋教育サミット」のレポートを参照ください)。インタビューはその調べ学習をもとに行われ、生徒たちはそれぞれカメラをインタビュイーに向けながら、質問と応答を交わします。はじめは「あなたのテーマはなんですか?」という質問に、「私のテーマは『海と人と(  )』です」と応答する形式的なやりとりから始め、徐々にテーマを設定した理由や、どういうところに関心を持ったかなどを掘り下げていきました。


「カメラに自分が映っていなくても緊張する」

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後日、インタビュー映像をみんなで観る場面。

生徒からは「いつもと話し方も違うし、敬語に慣れないし……カメラに自分が映っていなくても、声が入っていると思うと緊張します」「質問に対してすぐに適切に答えなければいけないと思って、逆に言葉が詰まったり、難しく考えてしまったりした」という声が出てきました。カメラがあることによって、自分自身の存在が「見られる」ということを意識してしまうようです。また、「すぐに適切に答えなければ」という言葉からは、相手とのやりとりに間が空いてしまうことや、話の流れが滞ってしまうことへの抵抗感もうかがえます。

一方で、「最初の質問は聞かれる方も聞く方も予想しているから、台本に書いたようなやりとりだったけど、そのあとは返答に応じて話が広がっていった」「インタビュイーが話した内容から、興味のあることが出てきたりした」と話す生徒も。やりとりの中で相手の話に興味を持ち、「知りたい」という気持ちから質問を投げかける様子も見え始めます。

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4月からおよそ3ヵ月半。沖縄に持つイメージや自分のテーマに関することについて、家族にカメラを向けてインタビューをするという夏休みの課題が出され、生徒たちはより実践的なインタビュー練習と、映像編集に取り組みました。

編集の時間には、パソコンの画面に顔を近づけ、撮影した映像に注視する生徒や、田口とともに映像を確認しながら「わりと(質問するときの)フリが唐突なんですよ」と恥ずかしげに苦笑いを浮かべる生徒の姿も。それぞれが自分の撮った映像に向き合い、その表し方を模索します。ある日の授業では、福島先生が「映像の切り取り方によっては、切り貼りした映像が、インタビューを受けた人が思っていたものでないものになってしまうこともあるよね」と、自分の思惑次第で映像はつくり替えられてしまうということ、映っている人の思いや考えに対する配慮について、生徒たちに静かに投げかける場面もありました。


「雰囲気が足りない」

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そして、ドキュメンタリー映画を制作します。10月末、生徒たちは宿泊体験学習で沖縄へ赴き、ホームステイをした読谷村の民家の人々へカメラを向けて、インタビューを行いました。今度はその映像を編集し、一人ひとりが一本の作品をつくり上げます。ここでは映像を切り取り、繋げるという作業に、“どのようなことを伝えたいか”といった、作品の核となるものを自分自身に問いかける苦しさが生徒たちの表情に現れます。

作業の途中、こんなやりとりがありました。

「この映像で伝えたいことはどんなこと?」と田口に聞かれ、表現したいことをうまく言葉にできないでいるある生徒。「見れば(伝えたいことが)わかる」と少し投げやりに言うと、隣に座る生徒が「映っている本人の気持ちが伝わる場面なの?」と問いかけます。しかし、「本人っていうか……」と少しもどかしそうな様子。

そこで、田口が問いかけます。
「それは映像じゃなくて、文字ではだめなの?」

すると、その生徒は言います。
「だめです」
「それはなんで?」
「雰囲気が足りない」
「その雰囲気って?」
「その人が、沖縄全体を背中に負ってる感じ」

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映画『課題別学習』では、生徒たちが完成したドキュメンタリー映画を鑑賞会で披露し、プレゼンを行うところまでが記録されています。最後には、映画をつくる上でどんなことを大事にしたか、一人ひとりがいきいきと解説している姿がありました。


“事実”か“事実ではない”かということを超えて生み出されるもの

福原さんは上映前の挨拶で、こんなことも話していました。

「この映画は“ドキュメンタリー”とは言っていますが、やはり僕の視点で切り取られた“フィクション”の作品です。わかりやすく言えば、寒い時期に撮った校舎の風景が、まるで夏の場面であるかのように挿入されていたり、別々の日に話されたことが、同じ日に話されたかのように編集されていたりします。それは“嘘”ですが、映像は単に映っていることが“事実”か“事実ではない”かということを超えて生み出されるものだと僕は思います。ドキュメンタリーだから“本当”だとか、フィクションだから“嘘”だという単純な二項対立を超えて、映像を撮ること、見ることについて考えるきっかけができたらいいなと思っています」

ただ対象にカメラを向けるのではなく、記録者自身の表現により映像が生み出されるということ。福原さんによる映画『課題別学習』からも、その中に映し出される生徒たちの学びの姿からも、そういったことを感じさせられました。

さて、ここから生徒たちのドキュメンタリー映画上映や、授業を通してのパネルディスカッションなどを行う第二部へと発展していきますが、それは後編のレポートでお伝えします。

CREDIT

取材・文
鈴木瑠理子