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人類はどのようにして海を渡ったのか?ー帆船模型で考えるー

レポート

世田谷区立池尻小学校のサマースクールにて授業を行ってきました。このサマースクールでは、夏休みを利用して普段の授業とは違った角度から様々な体験型の授業が開講されています。今回、3710Labでは、帆船模型モデルを活用して、「人類はどのようにして海を渡ったのか」を考える授業を開講することとしました。エネルギーに満ち溢れた子どもたちが海を渡ろうと試行錯誤する姿をレポートします。

世田谷区立池尻小学校から3710Labにサマースクールでの講座開設の依頼をいただいてから、どんな授業をするか悩みに悩み考え出したのが、「人類はどのようにして海を渡ったのか?」というテーマでした。古来、海上を吹く風を活用し船を走らせ、人類が海を渡ったことに着目し、それを再現してみようと思い立ちました。

ある一枚の世界地図を示すことから授業をはじめました。世界地図には7本の線が引かれてあります。線が何を示しているかを問うと、子どもたちはすぐに「船の移動した跡だ!」と叫びました。その通りで、この地図は大航海時代の航路が描かれたものです。次に、およそ500年前の船はどうやって海上を走っていたのかを考えてもらうために、子どもたちに自由に船の絵を描いてもらいました。子どもたちは各々、想像力を働かせ船を描いていきます。

プリント

船を描いてもらったあとに、「みんなが描いた船はどうやって海を走るの?」と問いました。子どもたちは自分が描いた絵を見返しながら、「木の棒で漕ぐ」「波に乗って移動する」「帆があるから風を受けれる」などなど。そこで実際に大航海時代の船のイラストを見せ、風を活用して走る帆船であったことを説明しました。

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ここで、「風」についての説明を丹羽さんからしてもらいました。偏西風など、日本を取り巻く風にまつわる自然現象の説明です。また、雲の移動の動画で風を可視化することで、風の動きを捉えさせるように仕向けました。途中、いろいろと質問を投げかけると、子どもたちは予想以上に物知りで、積極的に、楽しそうに発言していました。物怖じせずに自分なりの仮説を立てて発言する姿には、驚かされました。大学の授業よりも活発なディスカッションであったような気もします……。

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講義が終わると、いよいよ風を活用した帆船作りに入ります。2−3人のグループにつき、一本の棒が立った三輪の模型を一台、帆の代わりのA3版の厚紙を一枚、マスキングテープを渡します。廊下には、海上を吹く風を再現するためのサーキュレーターが設置してあります。この風を活用して、速く走るためには、どのように帆を張ったらいいかを考え、最後にタイムトライアルを行います。

子どもたちはそれぞれが独自の仮説をぶつけあいながら、速く走るための帆の張り方を工夫しています。思わず唸ってしまうような仮説を立てる子どももいます。子どもたちのやりとりを聞いていると、とても楽しいです。

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帆を横に長く張るグループ、縦に長く張るグループ、帆を二枚に切りわけて張るグループ。帆の代わりの画用紙は風を受けると、ひらひらとはためくので、マスキングテープで帆を固定するグループもでてきます。道具は最小限しか与えていないのですが、時間が経つにつれ、糸やオモリの代わりになるものが欲しいと言ってくるグループも。

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タイムトライアルの本番前の実験走行。うまくいかなくても楽しそうです。うまく走らない理由をグループ内で話し合って、また作り直したりしています。

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想像していたよりも、子どもたちはかなり積極的に取り組んでくれました。協力したり、喧嘩したりしながら、わいわい作業を進めていきます。質問もしてきますし、突然関係ない遊びを創造したりと、興味に対して自由です。

8のコピー 

いよいよ本番です。試走のあとに、大きく作り変えるグループもありますが、どうしても基本的な帆の形を変えたくない子たちもいるようです。強固なポリシー、もしくは美学とも言えるでしょうか。個性を感じます。

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本番のタイムアタックは非常に盛り上がりました。もう一回チャレンジさせてくれ!と懇願してくる子も。

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優勝した船です。

ちなみにタイムトライアルは二回行いました。一回目は追い風でのタイムトライアル。二回目は横風でのタイムトライアルです。横風での帆の張り方には一層の工夫が必要です。科学的に言えば、走りはじめと走り出した後では風の流れが異なるからです。子どもたちは、もちうる知識と想像力を活用して風の移動を分析しながら、帆の張り方を工夫していました。それはまさに、海の先のまだ見ぬ土地へ渡ろうと、想像を巡らせ試行錯誤してきた人類の姿の再現でした。

IMGP3897のコピー

この授業では、正解というものは用意していません。とにかく体験すること。体験から思考。そしてまた、思考を形にすること。

はじめてのチャレンジだったので、いくぶんの不安を抱きながら授業に臨んだのですが、蓋を開けてみれば、子どもたちの探究心、自由な想像性、取り組みを自分の「遊び」にしていく力に驚くばかりでした。何かを自分で作るという目標に対して、意見を交換しながら、自分で考える姿。その過程で、少々子ども特有の喧嘩などもありましたが、まぁ、大人でも感情的・政治的な理由で喧嘩をするので、大差ないことかもしれないですね。この授業を通して、ひとつあらためて感じ、考えたことがあります。人とは、こんなにも自分で考えるし発想するものだということです。いったいどこでその芽はつまれてしまうのでしょうか。その芽を伸ばしていくためには何が大切なのかを考えていきたいものです。

CREDIT

取材・文
3710LAB
協力
日本船舶海洋工学会
早稲田卓爾(東京大学新領域創成科学研究科・教授)