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AKI INOMATAのフィールドノート⑤ -石巻-

AKI INOMATAのフィールドノート⑤

生きものとの恊働作業によって作品制作をおこなうアーティストAKI INOMATAによるレポート第5弾。AKI INOMATAが昨年2015年から取り組んできた作品《 Lines—貝の成長線を聴く 》の制作にまつわる話です。<前編>

作品「LINES-貝の成長線を聴く」

AKI INOMATAの作品「LINES-貝の成長線を聴く」(リンク:http://www.aki-inomata.com/works/lines/)は海と陸の狭間に棲む、アサリの成長線をモチーフとし、震災直後の2011年5月と、2015年4月に採取した2匹のアサリの成長線を聴き比べるという作品である。

Lines—Listening to the Growth Lines of Shellfish ver. 2.0

AKI INOMATA   Lines—Listening to the Growth Lines of Shellfish ver. 2.0

3710Labと最も縁が深いこの作品の、制作とフィールドワークについての話を書きたい。


石巻へ

この作品を制作するにあたり、2015年4月19日、私は震災の影響がまだ残る宮城県石巻市にいた。
ここで、継続的にアサリの調査を行っている、東邦大学の大越健嗣教授の研究調査に同行させていただく形で、この場所を訪れることが出来たのだ。

ご存知のように、石巻は津波による大きな被害があった場所である。

道中も、基礎部分だけを残した家やまだ残る瓦礫を目撃し、痛ましい気持ちになった。

石巻市万石浦にて

石巻市万石浦にて

石巻につくと、大規模な工事をしていた。
石巻漁港は、水揚げ量、水揚げ高ともに日本有数の大漁港だったという。震災前であれば、春先の万石浦はアサリ漁業や潮干狩りで賑わったが、訪れた際は、工事をする重機のほかに人影はなく、ひっそりとしていた。

万石浦では、アサリの養殖が盛んであったが、地震により1m地盤が沈下し、干潟がなくなってしまった。そこで、宮城県が土を入れる大規模な工事を行い、干潟の復元を進めている最中だったのだ。
(2日間だけだが、今年2016年6月に、アサリの採取を再開したそうだ。)

胴長を着て調査にむかう大越健嗣教授と研究室の学生たち

胴長を着て調査にむかう大越健嗣教授と研究室の学生たち

大越健嗣教授は、この場所で、震災のずっと前から、継続的にアサリなどの貝の調査をおこなってきた。
まだ水は少し冷たいが、胴長を着て、腰の位置まで海水に浸かり、調査ポイントに向かう。
使う道具は、鋤簾(じょれん)と熊手。
鋤簾とは、鍬、もしくは大型の熊手に似た道具だ。1mほどの木の棒の先に、刃先と、海水や砂は抜けて貝などは残るよう金属製のカゴのようなものがついている。

鋤簾を使って、海底の土を掘り起こし、そこにいる生物を丹念に調べていく。

鋤簾を振り上げ、海底の土に刺さるように降り降ろし、少し左右に揺すりながら曳いて、貝などが金網に入ったところを掬い上げる。

私も挑戦したものの、初めて扱う鋤簾のコツがつかめず、あっという間に腰痛になった。
鋤簾は諦め、地道に熊手で浜辺の土を掘り起こし、アサリを探す。
目標は、出来るだけ大きく、震災以前から生きてきたアサリを見つけることである。

もちろん、外見からでは、貝の年齢をあてることは出来ないが、貝殻を半分に切り、その成長線というものを調べることで、その貝の年齢を知ることが出来る。

2015年4月に石巻で採取した大きなアサリ

2015年4月に石巻で採取した大きなアサリ

鏡のような水面の万石浦

鏡のような水面の万石浦

アサリの多くは随分とサイズが小さいものばかりだったが、数は多く確認することができた。震災以降、アサリの養殖はストップしているため、これらのアサリは天然ものだ。
大きいサイズのアサリは、アサリとは思えない威厳を備えていた。

少しフォルムがズングリとしているのは、年齢ともに成長が鈍ることやあまりよい環境ではなかったこともあるらしい。

地盤が1m沈下したことで、カキは震災以前は陸だったところにつくようになった

地盤が1m沈下したことで、カキは震災以前は陸だったところにつくようになった

次の日、私たちは福島県の相馬市に向かった。

そもそも、何故ここで、アサリを探していたのか。<後編>に詳しく書いていきたいと思う。

サン・ファン・バウティスタ復元船と桜

サン・ファン・バウティスタ復元船と桜

当日、サンファンパークに立ち寄った。江戸時代、1613年に伊達政宗が建造し、支倉常長ら慶長使節団がスペインへの航海で乗ったといわれる、サン・ファン・バウティスタ号の復元船が展示されている。地震の後しばらく閉鎖されていたが、その後展示が再開されている。

傍らに、桜が咲いていた。震災により、多くの生き物が被害を受けたが、運良く生きのびた生き物たちは、それぞれ確かに「生きている」と感じた瞬間だった。

(後編へ続く)

CREDIT

取材・文
AKI INOMATA
協力
大越健嗣(東邦大学理学部生命圏環境科学科 教授)、鈴木聖宏(東邦大学大学院理学研究科博士後期課程)

PROFILE

AKI INOMATA
1983年東京生まれ、2008年東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。
主な作品に、3Dプリンタで都市をかたどったヤドカリの殻に実際に引っ越しをさせる「やどかりに『やど』をわたしてみる」など。人間以外の生き物のふるまいに人間の世界を見立てることで、生き物に私たちを演じさせてしまう状況を作り出す。
http://www.aki-inomata.com/

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