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学びの航海図を描く(前編)ー第4回全国海洋教育サミット

レポート

2017年2月5日、東京大学伊藤謝恩ホールにて、「第4回全国海洋教育サミット」が開催されました。東京大学海洋教育促進研究センターが開催するこのイベントも今年で4回目。今回は「海洋教育の新たな潮流」という副題の下、前半部をシンポジウム、後半部をポスター・セッションという構成で、各地の海洋教育の取組みについての報告発表が行われました。

「海洋教育を通じた持続可能な社会の創出」

シンポジウムは「海洋教育を通じた持続可能な社会の創出」と題して、各地にある「海洋教育促進拠点」の地域・学校からの報告でした。4つの発表団体は、2016年度途中から海洋教育に取り組み始め2017年度から本格的に実施するそうです。今回の発表は、各団体のこれまでの特色ある取組みと、これからの海洋教育の実践の構想についてからなっていました。


 有明海と三池港という2つを柱とした海洋教育

まずは福岡県大牟田市の報告から。大牟田市は、干満の差や流入河川の多さから独自の生物相を形成している有明海に面し、自然環境に恵まれた地にあります。また、近年は「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコ世界文化遺産に登録された三池炭鉱関連資産(三池港・宮原坑・三池炭鉱専用鉄道敷跡)がある市としても知られ、中でも三池港は港としては日本唯一の世界遺産です。

そんな大牟田市が目指すのは、有明海と三池港という2つを柱とした海洋教育。大牟田市では、持続可能な開発のための教育(ESD)と世界遺産教育という形でこの2つの資源を活かした特色ある教育実践にすでに取り組んでいるのですが、それをさらに海洋教育という視点で展開させていくという計画が報告されました。


 山間部からの海洋教育へのチャレンジ

続いては、福島県只見町。只見町のある奥会津は日本有数の豪雪地帯です。最近になって地元の悲願とも言うべき国道289号線(甲子道路)が開通して通行不可能だった峠を越えて福島県中通り側へと抜けることができるようになりましたが、新潟県側へと続く唯一の道路の国道252号線は積雪のため11月から5月までの間は閉鎖されてしまうという、いまなお雪に閉ざされてしまう地域です。

少子・高齢・人口減という日本の地方部の多くが抱える問題に悩まされている只見町ですが、町の将来に危機感を感じている教育関係者の間では「日本初の山間部の海洋教育」という非常にユニークな試みに大きな可能性を感じているとのことです。

もともと、只見町では雪深い地域で生きる「自信」や「郷土への誇り」の育成を目指した独自の教育実践として、「只見学」に取り組んでいます。山間部にて海洋教育に挑戦するのは、川の源流からその先につながる海、さらには海の先の世界を意識させたいという構想によるものだそうです。


 「学びの航海」

次は、佐賀県玄海町の玄海みらい学園です。平成27年に町内4つの小中学校を統合して施設一体型の小中一貫校として開校した玄海みらい学園は、学年の枠組みを越えて新たなことに挑戦できる教育環境が整っています。玄海灘に面し豊かな里山・里海とともに生きる土地ならではの特色ある教育が行われています。仮屋くんちという船で海を渡る祭りをはじめとした歴史文化遺産も多くあります。また、リアス式の海岸をもち、玄海原子力発電所が立地することから、津波防災訓練にも力を入れています。

学校内外の豊富な教育資源を活かして取り組んできたESDの実践に、今後「海」の視点を取り入れて、「学びの航海図」の展開を目指していくと話されました。当日は学園長の自作の歌が披露され、「学びの航海」に挑戦する子供たちへの力強いメッセージが込められた歌に、会場は熱気に包まれました。


 防災の視点からの海洋教育

最後は宮城県多賀城高等学校です。東日本大震災で津波による甚大な被害を被った多賀城市に立地するこの高校では、全国2校目となる「災害科学科」が設置されました。高校生が地域の住民への聞き取り調査を行って津波標識を設置する活動や、自治体と連携して被災状況を説明・案内する「まち歩き」の活動など、地域全体での防災活動に力を入れています。

防災学習以外にも、浦戸諸島や牡鹿半島といった宮城県の自然環境に触れる実習や、被災地案内国際ボランティアといった活動を通した国際理解学習も行っています。「海洋教育」としての具体的な取り組みはこれからのようですが、「海とともに生きる」という理念の実現には防災の視点は不可欠ですし、震災復興の過程での活躍に大きな期待が寄せられています。


4地域ともに具体的な取り組みはこれからということですが、それぞれの地域の自然環境や地理的条件、文化資源などを取り上げて行われていく教育はとても魅力あるものに感じました。

参加者との質疑応答では、「海」という主題を掲げることで、これまでよりも学びがダイナミックに広がっていくという可能性が共有されていました。海洋教育促進研究センターの日置光久特任教授は、総括コメントで「海という莫大で豊かなリソースを教育の資源、可能性として考えることができるのではないか」と述べ、今後の展開への機運を高めていました。

シンポジウムの後には、ポスター発表が行われました。その様子は後編にてお届けします。

CREDIT

取材・文
北 悟
写真
東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター