連載

長崎県|長崎県立宇久高等学校

島という存在について考える【宇久島の未来をつくるプロジェクトvol.1】

2018.07.12

学校離島地域海洋教育

3710Labは、日本で唯一の島マガジン『島へ。』を出版する海風舎との共同プロジェクトを実施しています。高校生が記者・カメラマン・イラストレーターを務め、プロの編集者や専門家の助言のもと雑誌編集作業を行い特集記事を完成させるという本企画。昨年度は気仙沼大島を舞台に実施しましたが、今回はその第二弾として宇久島特集を作成するプロジェクト、『宇久島の未来をつくるプロジェクト』を実施しています。

島の現状、そして未来

宇久島は長崎県の五島列島の最北端に位置する人口2000人ほどの離島です。この島にある長崎県立宇久高等学校では、2017年度から、「UkuLabo」という地域活性化プロジェクトを実施しています。高校生たちが生活する地域への探究活動を通して、宇久島の現在、将来に目を向けさせることがそのねらいです。
そして、UkuLaboの活動を通して考えた宇久島活性化プランを島外へと発信していくために、2018年度は雑誌制作に取り組みます。高校生たちは、昨年度のUkuLaboの活動を紹介しつつ、今年度新たに取材活動を通して深めた宇久島のことを、雑誌誌面を使って日本全国に発信していきます。

4月12日、宇久高校にて、3年生10名(当日は1名欠席)参加のもと、キックオフのワークショップ兼第1回編集会議を行ないました。「総合的な学習」での実施です。


島はなぜ大事なのか?を考える

講師は『島へ。』編集部デスクの熊本鷹一さん。長崎県出身です。
まずは「島」という存在についてみんなで考えていきます。
「日本にある島の数ってどれくらいだと思う?」
「57とか...」
「47都道府県ってくらいだからもう少しあるんじゃない?」
「九十九島(※)ってあるくらいだからもっとあるかも?」※長崎県の多島海
冒頭から早くも和気あいあいとした雰囲気で進んでいきます。
生徒の意見は100~300くらいの範囲で予想が立てられていきましたが、海上保安庁による島の定義にもとづくと、正解は約6800。その中で日本国民が居住する島、すなわち有人離島は417あります。
「じゃあ島の役割って何だと思う?島はなぜ大事なのか」
「領土を保全するため」
「領海が増えるから」
東シナ海に面した宇久島では、領土領海は身近な観点なのかもしれません。
「海がきれいになるから」という意見も挙げられました。実はこれも正解。海洋環境の保全のためという大切な役割があるのです。地球規模の気候変動とそれに伴う海面上昇や海水温上昇によって、サンゴ礁などの海洋生態系が被害を受けるという事態が起こっています。一方で、海面上昇は島の海岸線侵食や島の水没を生じさせるおそれがあり、島自体の保全・管理にも関わる問題です。島の周辺海域の環境保全のためには、まずは島自体の適切な保全管理方法を考える必要が出てくるのです。気候変動の問題は国際社会の協力のもと解決していかなければいけませんが、同時に、地域的問題として島の適切な保全管理というアプローチも重要なのです。

「あとは多様な文化の継承。文化の継承のためには島に住んでる人がいないといけないんだけどなかなか難しくなっている。いま日本全国で人口が減少しているんだけど離島はもっと著しく減少している。」
冒頭にも触れましたが、宇久島の人口は現在2000人余り。昭和30年代には1万人を超えていましたが、他の離島同様に減少傾向にあります。
そんな離島に対して、国は離島振興法や国境離島新法といった制度を設けています。島が担っている様々な役割を果たせるように、国を挙げて島を支援しています。
ちなみに、昨年のプロジェクトの舞台、気仙沼大島は、次回の離島振興法対象地域から外れる予定になっています。


島はなぜ支援されるべきなのか?

熊本さんは続けます。
「ちなみに、うちの『島へ。』という雑誌のことを少し紹介すると、他の観光雑誌とは違い「島」のことを文化や産業も含めて様々な角度から深堀りして、情報量を多くしているところが特徴です。」

「さっき挙げてもらったように、島は色々と大事な役割を担っています。ただ、大事な役割を担っている島を守るには、もっとその島の暮らしや文化であったり、人の気持ちだったりといった、根っこの部分を見つめ直すべきなんじゃないか。そういう趣旨で、できるだけ島の人の目線を表現するように心がけて作っています。」
本土よりも早いペースで人口減少が進んでいる離島においては、人口減少は喫緊の課題です。領土領海という観点からは、島は国際条約上の「島」でありさえすれば無人島になっても一応は問題ないのかもしれません。しかし、国土の保全という観点でいえば、一定の人口維持が必要なことは本土の山間部でも限界集落化を見ても明らかですし、文化の継承という観点でも、担い手不足の問題は切実です。
そういったミクロの視点から島の役割を考えるということは、ともすれば領土領海に議論が偏りがちな海洋の問題を問い直すことにつながるように思います。
特に「島は多様な役割を担っている」という言説は、その役割を担う側と担わせている側とがいる前提で語られていることを忘れてはいけません。
島はなぜ支援されるべき存在なのか。
島の役割を担わせている側である本土の人間がその問いを考えるには、まずは島のことを知ることから始める必要があるように思います。

教室に鐘が鳴り響いたところで前半部が終了です。
後編のレポート「宇久島の魅力とは何か」では、第1回編集会議の模様をお届けします。


本プロジェクトは日本財団の助成により実施している事業です。

文:
北 悟