【海洋教育レポ】アマモの海から広がる学び―阪南市立西鳥取小学校

2019.06.05

海洋教育レポートの第7回目は、大阪湾のアマモ場再生活動から海洋教育へと発展させていった学校からお送りします。かつて数多くの砂浜や干潟があり、釣りや海水浴を楽しむ場所だった大阪湾。たくさんの魚が生きる「魚庭(なにわ)の海」を現代に再生させる取り組みをご覧ください。

環境回復のシンボル「アマモ」

阪南市は大阪府南部、和歌山県境を連なる和泉山脈を背にして、北向きに大阪湾に面している山と海が近い地域です。古くから蛸壺漁や地引網漁が行われてきた漁業が盛んな地域で、昔ながらの方法での海苔やワカメの養殖がいまなお営まれていたり、海と近い生活が息づいています。

高度経済成長期、物流・生産機能を強化するために、防波堤や防潮堤の整備や、コンビナートを造成するために大阪湾の浅海域が埋め立てられました。そのため、砂浜やアマモ場などの藻場や干潟といった浅場が縮小・消失しました。また、人口増加や産業発展に伴うゴミ排出量の増加によって水質汚濁が問題となりました。
阪南市の沿岸海域でも埋め立てによって多くの藻場が消失しましたが、大阪湾の環境の改善に取り組むNPO法人らの活動によって、少しずつ環境は回復してきました。そのシンボルが「アマモ」です。

阪南市の海洋教育 アマモの再生活動 アマモサミット

アマモは、水中の貧酸素化を防止したり、魚の棲家になったり、その他沢山の機能をもつことで知られています。

阪南市立西鳥取小学校では、「西取の海」と呼ばれて住民から親しまれてきた地域の海を舞台に、NPO法人や漁業関係者と協力して、海洋環境の再生活動を中心とした、海洋教育をおこなっています。


アマモが自生している地域の学校

阪南市立西鳥取小学校教諭の石橋博之先生にお話を伺いました(所属は2018年度)。

―西鳥取小で海洋教育がはじまった経緯をおしえてください。

「2010年度から環境教育の一環としてアマモの活動をおこなっています。もともとは、児童がアマモをテーマに自由研究を提出してきたことがきっかけです。当時本校に在籍していた大阪湾にダイビングスポットを作る環境運動をしていた教員が、その研究を取り上げ、学校としても西鳥取のアマモ自生地を学習に取り入れていこうとなりました。そのような経緯から、アマモを活動のメインに据えて海洋教育をしていますが、アマモ以外にも漁業のことなどを通して大阪湾を探究していく活動を増やしています」

―西鳥取小のアマモの活動内容はどのようなものですか?

「アマモの活動は、2年生の冬、自生地での種蒔きからスタートします。その後、種が発芽して育つまでの間、3年生になった児童は大阪湾のことを探究するための活動をおこない、6月からアマモの活動を再開します。花を咲かせたアマモの苗を採取し、それを水槽で熟成させた後に、9月に種を採取し、種から苗をつくる段階までをおこないます。2018年度までは、児童が学習を通して考えたことを下級生に対して報告することによって活動を終えていました。2019年度からは、3年生で活動を終えず、4年生に学年が上がっても継続して活動していきます」

阪南市の海洋教育 アマモの再生活動 種植え

アマモの再生活動から地域の海を学ぶ

―アマモの活動とともに取り組んでいる大阪湾についての探究活動とはどのようなものですか?

「チリメンモンスター(※)を探して大阪湾に様々な魚がいることを知ったり、海藻で押し葉をつくりながら海藻の役割を学んだりします。また、漁業関係者に協力してもらって、地引網を引かせてもらったり、海苔すきをしたり、地元で獲れた魚の干物を食べたりしながら、地域の食文化にふれる活動を進めています。2018年度からは、漁師の方への聞き書きを活動として加えました」

※ しらすやちりめんじゃこに紛れているイワシ類の魚を除いた生物のこと。色々な稚魚や、タコにイカなど様々な種類が存在する。

阪南市の海洋教育 海苔すき チリメンモンスター

―漁師の方への聞き書きとはどのような活動ですか?

「西鳥取の海をより深く学ぶために、地域の海を一番知っている人である漁師の方に実際に話を聞いて、その人となりや思いを探る活動です。5年生社会科の水産業の学習の理解を深めるためにおこないました」

―児童はどんな様子で聞き書きに取り組んでいますか?

「西鳥取には様々に専門分化して漁業に従事している方がおり、児童は事前に漁業のことなどについて調べて質問を考えて臨みました。しかし、最初は緊張して書くことだけに集中してしまっていました。それでも初めて知ること、新しく発見することが多かったようで、聞いているうちに徐々に反応が大きくなっていったり、漁師さんとの話を楽しもうという姿勢が見られたりしました」

阪南市の海洋教育 漁業関係者への聞き書き

日本の多くの地域がそうであるように、大阪では漁獲量も漁師の数も減少傾向です。このままでは漁業が難しくなっていくと危機感を持つ西鳥取の漁協関係者は、魚が増えるとともに、魚の消費量が増えてほしいと願っているところ、児童が海洋教育を通して魚を身近に感じ、その保護者世代も魚を沢山食べてもらえるようになることに期待を寄せているそうです。

聞き書き活動についても「そんなんできひんわ」と言っていた漁師さんが、いざ始まると率先して質問に答えていたり、少しでも分かりやすいようにと写真や絵を使って説明したり、逆に児童に質問したりといった交流がおこなわれたとのこと。

石橋先生は、「児童が関心を持ち続けていけるような活動にしてくださったので、これをきっかけに漁協とのつながりも深めていければと思います」と手応えを感じていました。

阪南市の海洋教育 漁業関係者への聞き書き活動

視点の広がりを出せる海洋教育

―環境教育として始まったアマモ再生活動ですが、海洋教育として取り組むようになったのはどうしてですか?

「海が近いということを活用した地域学習をおこなう中で、環境教育の視点を取り入れていきましたが、西取の海をもっと知っていく中で、さらに意欲を高めたり関心を継続させられたり将来の進路に結びつくような学習を目指してのことです。そういう意味で、海洋教育の4つの視点を取り込んでいくことで、環境だけでなく人とのつながりといった視点の広がりが出せると思っています」

―海洋教育を進めていく上でどのような課題がありますか?

「海洋教育の具体的活動を、どの教科とつなげるか、どの程度の時間数で実施するかが問題となります。2019年度からは、いままで2-3年生の学習だったアマモの活動を、4年生を中心として全学年でも継続して活動していくことで、今後もさらに海洋教育の活動を増やしていく可能性はあるものの、全体として活動時間数を増やしていくことは容易ではありません。当面は、全学年的に「海」を意識して学習を進める切り口を模索したり、各教科間でのつながりを整理したりすることを目標に取り組んでいこうと考えています。また、今までは3年生の担任でなければできなかったことを本校教員なら誰もが担当できるよう、校内研修にも力をいれていく予定です。2019年度からは、海洋教育パイオニアスクールプログラムを阪南市で取り組んでいくことになりました。本校の取り組みをさらに発展させながら、他校とのつながりも深めていくことで、市全体で海洋教育を進めていくことができるのではと思っています」


海洋教育を通して水産資源の持続可能性を探究する

―最後に海洋教育への思いをお聞かせください。

「西鳥取小学校の海洋教育は、アマモと漁業とが一体となって展開させられるところに強みがあります。アマモ場に住む生き物と触れ合って、日常が自然環境とつながっていることに気づいた児童たちには、海とともに生きている地域の一員として何ができるのかを考えていってほしいです。また、阪南市はベッドタウンとして発展してきたなかで、本校は地域のなかにある学校としての歴史を持っているので、保護者や地域の方に西鳥取の魅力を再発見してもらえるように、海洋教育を発展させていきたいと思っています」

 

児童たちは、アマモを育てることで、海をきれいにし、魚が増えてほしいという願いを持ちながら海洋教育に取り組んでいるようです。また、漁師さんたちは、「魚をもっと食べてもらいたい」という願いもあるとのこと。石橋先生は、漁師の方の思いを受け取りながら、アマモを育てる活動の意味をより深くから認識し、水産資源の持続可能性について探究してほしいとも語っていました。

ところで、青く透明な海にはプランクトンは少なく、魚もあまりいない一方で、プランクトンが多く濁った海のほうが魚影が濃いことが最近の研究で明らかになっています。大阪湾でも、海上空港建設によって潮の流れが変わり、海水が混ざらず湾内に栄養の偏りができてしまい、下水技術の向上と相まって栄養が乏しくプランクトンが増えない海域が発生しているそうです。はたして「ゆたかな海」とはどういう状態なのか。そのことを考えることも深い学びをうむきっかけになりそうです。

取材・文:
北 悟
写真:
西鳥取小学校提供