東京大学・駒場キャンパス

海と人とのかかわりを探究するvol.4【成果発表編】

2020.03.25

東京大学では、海と人とのかかわりを探究するための沖縄研修プログラムを実施しています。過去に東京大学附属中等教育学校の授業として実施されていた講座がベースになったプログラムです。高校時代にその講座を受講し、現在は大学生となった卒業生4名によるレポートの最終編をお届けします。

池間島から東京へ

2019年12月10日、東京大学の駒場キャンパスで宮古島市立池間中学校と東大附属との交流会が行われました。池間中学校の生徒たちは修学旅行ということで沖縄の池間島から東京に来ており、その一部として、池間島で共に活動した成果発表を兼ねた今回の交流会が行われました。
駒場キャンパスに来た池間中学校の生徒たちはまず発表のリハーサルを行い、キャンパス内の学食で東大附属の生徒とともに少し早い夕食をとった。両校の生徒は夏の活動以来の再会となり、仲良く和気藹々とした雰囲気で、関係がかなり深まってきていることを感じました。


「島に仕事を作ろう!」

そして、本交流会の目玉である池間中学校の生徒の発表が始まります。この発表は東京大学の教職課程の授業の一部として設けられており、その発表を聞いているのは現役の東大生であったからか、生徒たちからはかなり緊張した雰囲気が感じられました。しかし、池間中学校の生徒たちはリハーサルや今まで準備してきた成果を発揮し、皆堂々と発表することができていたように思います。

発表内容は、先のブログもあるように「島に仕事を作ろう!」をテーマに東大附属の生徒を交えながら池間島にある植物を用いて商品開発をする活動の紹介です。夏の交流学習の際に東大附属の生徒と共同で考案したのは「いけタピ」だが、こちらは実際にタピオカを作ったり試作品を販売したりしたそうだが、製作にかかるコストの問題から開発を断念したことが述べられました。そしてその次に改めて開発に着手したのは、化粧水でした。島の植物やサメの素材を使うなど、島ならではの化粧水の作製に取り組んでいたようです。さらに、値段や商品の特徴、ターゲットまできちんと決め、それぞれ目的に合った商品を開発していました。

この発表は無事大成功を収め、会場にいた東大生は「(教職課程での)模擬授業で人に伝えることの難しさを実感しているが、それに向けてのヒントを得ることができた」と池間中学校の生徒たちの発表を称賛していました。
 


交流授業を通しての感想

発表を終えた後には懇親会が行われ、生徒たちは談笑しながら、今までの活動を思い思いに振り返っていました。池間中学校の生徒は「夏の交流会は楽しかった。田舎には何もないと思っていたが、希望がいっぱいあった。今回の発表は最初は緊張したが、自分が今まで頑張って練習してきたことを頷いて聞いてくれ、終わるととても達成感があった」と楽しそうに語ってくれました。
また東大附属の生徒は「池間中学校の生徒が自分の島のことをあまり知らなかったように、自分も身近なものに興味を持つ必要があると気づかされた。もっと身の回りのものに疑問を持って取り組みたい」と池間中学校と関わったことで気づかされることがあったようでした。

 


自分たちにも出来ることがある

最後に、今回の交流会の感想を、プロジェクトの責任者である小玉重夫・東京大学大学院教育学研究科教授にお聞きしました。小玉教授は「池間中学校の一年間の総合学習の成果を多くの人の前で発表することができ、貴重な機会となりました。中学生が自ら考え、探究した商品化プロジェクトであるところに、今回の総合学習の意義があります。この点は、発表を行った授業を履修している東大生にも伝わったのではないかと思います」と述べました。また、今後海洋教育としてやってみたいことについては「現地のNPOなどと連携した地域おこしや、シティズンシップ教育の視点を取り入れた、中学校や高校での海洋教育の取り組みを深めていければと思っています」と、これからの考えを聞くことができました。

夏から本格的に始まった今回の池間島のプログラムは、最初から最後まで発見の連続でした。池間中学校の生徒たちは自分たちの住んでいる島について改めて学ぶことができ、また東大附属の生徒も、池間島という島について知るとともに、「自分たちにも出来ることがある」という気づきの機会になったのではないでしょうか。将来、両校の生徒たちがこの経験を思い返した時、それぞれが自分たちの可能性を信じ新たな一歩を踏み出す力になればいいと思います。(田中)


編集後記

池間中学校の発表からは、中学生たちが試行錯誤の中で地域への視点を磨いていったこと、東大附属の生徒たちの参加がそれを触発したことなどが伝わってきました。感想からうかがえるように、大学生や教職員にとっても得るものの多い成果発表となりました。今後、池間中学校の総合学習がどのように発展していくのか、楽しみですね。
東大附属卒業生の全4回のレポート、いかがだったでしょうか。同じ活動に関わっていても、「海と人とのかかわり」は各人各様に異なります。今回のプロジェクトにおける卒業生たちの視点は、自身が沖縄での学習を経験しているからこそ発揮できたものでした。複数の視点から海と人の関係を考えることの大切さを、私たちも本プロジェクトを通し、卒業生から学んだような気がします。(加藤)

文:
田中 陽星
写真:
井上 日菜子・楢崎 晃弘
編集:
加藤 大貴