【連載】デザイナー大城健作さんに聞く、与論島のプロジェクト

2021.03.26

海洋プラスチックや、海面温度上昇など、今や待ったなしの解決が求められる海の問題。そこで私たちは、「海の豊かさを守るためにデザインは何ができるか?」をテーマに、世界各地で海洋問題にアプローチするデザイナーたちにインタビュー。記念すべき第1回は、3710Labと共に与論でのプロジェクトを手がけるプロダクトデザイナーの大城健作さんにお話を聞きました。

現在、2022年初頭のオープンを目指して与論島に計画中の、海洋環境とともに生きるための施設。みなとラボとともにこの施設の計画に参加、設計を手掛けているのが、ミラノを拠点にプロダクトデザイナーとして世界で活躍する大城健作さんです。

©︎TOHRU YUASA

Q.与論島でのプロジェクトはどのようなコンセプトで設計したものですか?

A.大自然に触れた時に、人間は自然の一部であるという超越的な原理に気づくことがあります。設計にあたって考えたのは、この施設がそのような気づきを得られるきっかけ作りの場となれば、ということ。それならば、自然から隔たれた空間ではなく、与論の自然をありのまま体験できるような、野性的な建築がいい。

与論に建設予定の海洋教育&マリンアクティビティのための施設。完成は2022年初めを予定。©︎KENSAKU OSHIRO

一方で、プロダクトデザイナーとしての建築へのアプローチを生み出せないかと考え、鋼製型枠で生産されるプレストレストコンクリートで構成された建築を考案しました。これは橋梁の構造部材としても使用される、かなり硬度を持った素材になります。この柱は、日中30度を超える予定地のビーチに影を生み出すと同時に、水が循環することで自己冷却を実現。その場に涼を生み出し、水のカーテンともいえる景色を回廊部に出現させます。 一方でこれは、海水が温められ、蒸発して雲になって雨や雪を降らせ、それが川となって海に至るという、自然界の水循環の縮図のようにも捉えられるのではないかと思います。

建物の長い回廊には、「水のカーテン」のインスタレーションが出現する。一部は水盤になり、この場に涼を提供する。©︎KENSAKU OSHIRO

Q.大城さんは沖縄で生まれたそうですが、ご自身にとって海はどのような存在ですか?

A.海はとても身近な存在。9ヶ月の時に大阪に引っ越したものの、夏になるたびにご両親の実家に帰郷しており、それが何よりの楽しみでした。祖父母や親戚の家は沖縄本島北部にあって、その当時は海しかないような場所でしたので、とにかく一日中、海で過ごしていました。遊び疲れて、波打ち際でうとうとしてしまったり……なんていうこともしょっちゅう。夕方にはだんだん夕陽が落ちてきて、最後には海が七色に光る、そんな風景を毎日見ていた。中学生になってからはダイビングも始めましたが、サンゴでできた谷の間で両手を広げて泳いでいると、まるで空を飛んでいるような気分になったものです。

小さい頃は、淀川の水が流れ込む大阪の海と、その20mの深さまで見える沖縄の海とが違いすぎて、まさかその2つの海が繋がっているとは、思いもよりませんでした。

Q.与論島の海にはどのような思いを抱いていますか?

A.美しかった沖縄北部の海も、年を追うごとにリゾートホテルなどが増えたことで、少しずつ水質が変わったり、砂浜の位置が変わったりしています。当時僕が遊んでいた海岸は遠浅で、満月の夜には干潟を歩いてタコを獲ったりしたものですが、最近はそこに新しい港ができて、前とは違う海になってしまった。その点、与論には、僕が子供の頃に見ていたような美しい海が今もある。驚くことに、与論にはウミガメが多いから、泳いでいると2〜3匹はついてくるんですよ。とはいえ、サンゴの白化現象はここでも深刻です。サンゴ礁の白化現象を追ったドキュメンタリー映画に『チェイシング・コーラル―消えゆくサンゴ礁―』というものがあるのですが、ぜひ多くの人に観て欲しいですね。

Q.与論の子供たちにはどのように海を体験してもらいたいですか?

A.魚がたくさんいる、綺麗だなあと感じてくれたら、きっとこの海を守りたいと思うはず。与えられたアクティビティを楽しむだけでなく、美しいものに出会って感動する体験をすることが重要。たとえば静かに10分間海を見て、思ったことを書いてみるとか。今の子供たちはものすごい情報量とスピード感の中で生きているので、そういう体験をしてもらうことには意味があるんじゃないかと思います。昔の沖縄の人たちは『ニライカナイ』といって、海のはるか彼方に神様達の世界があると考えられていたけれど、今の子供たちが海を見つめた時に何を思うか、僕も知りたいです。

Q.デザイナーとしては海洋環境の保全についてどのようなアプローチをしていきたいと考えていますか?

A.海と関わりたいという気持ちはあるけれど、いちデザイナーとしてできることは、作品を通してメッセージを届けること以外にはないかもしれないと思っています。海から得たインスピレーションをデザインに落とし込んだことはこれまでにもあって、例えば海を泳ぐマンタの姿に着想を得た、その名も「Mobula(マンタ)」という椅子を発表したこともあります。ただ、実際に海洋環境のために効果的なアクションを起こそうと思ったら、研究者や技術者や、企業など、さまざまな業界の人たちが手を携えて取り組まないと実現できない。いちばん大事なのは、そういった異業種を繋ぐプラットフォームの構築だと思います。海洋環境にアプローチするための国際的な会議のようなものが行われるのであれば、ぜひ参加したいですね。

インタビューを終えて

大城さんは、サンゴ礁を再生させるためのテクノロジーの開発や、海洋エネルギーを活用した発電システムの実用化、海の中に森のようなものを作る活動などにも大いに興味があります」とも。「今の問題は、それぞれの専門家同士が繋がっていないこと。デザイナーの仕事はいろいろな思いや技術を最終的にカタチに落とし込むのが役割だから、いろんなスペシャリストと繋がることで、これまでにないものを生み出すことができるはずです」。海のことを誰よりも知るデザイナーがさまざまな専門家と繋がった時に生み出すものは何なのか、そして彼が手がける与論島の施設からはどんな学びや気付きが生まれるのか、今から楽しみでなりません。


完成予定イメージは変更になる可能性があります。
与論島のプロジェクトは、NPO法人ヨロンSCが日本財団の助成により実施しています。
撮影:湯浅享
取材・文:山下紫陽
撮影協力:アルフレックスジャパン