みなとラボ通信

Read the Sea vol.12

BOY BOOKS/本と商いある日、 /高橋和也

2023.05.19

さまざまな選書者が「海」をテーマに選書をする連載企画「Read the Sea」。vol.12は東京の「SUNNY BOY BOOKS」、沖縄の「本と商いある日、」の店主、高橋和也さん。

子どもに読んでもらいたい「海」に関する本

『ちいさな島』作:ゴールデン・マクドナルド 絵:レナード・ワイズガード 訳:谷川俊太郎(童話館出版)

数々の画家と手を組み、多くの名作絵本を手がけた絵本作家マーガレット・ワイズ・ブラウンの別名義で作られた絵本。ページをめくると島を中心に風がなびき、雲がすぎ、魚たちが泳ぎ、鳥がさえずり、海がよせてはひいていくーーそんな大自然に投げ出されます。ひとは住めない小さな島をめぐる一年、そこには誰に頼まれたわけでも、強いられたわけでもなく繰り返される命の営みが確かに描かれています。

ある日、読み手である私たちと同じく島の外から一匹の子猫がやってきます。「なんてちっぽけなところだ。」と島に話しかける子猫に島は大きな世界と繋がっている自分の秘密を静かに語り出します。広い海に隔てられながら自分の世界をもち、外の世界ともつながる小さな島。そして私たちもまたそんな島と同じく、大きな可能性を持っているのだと絵本を通して著者は励まします。本を閉じたとき、小さな希望を抱ける一冊です。

大人に読んでもらいたい「海」に関する本

『私の日本地図8 沖縄』宮本常一(未来社)

復帰前の沖縄を訪れた民俗学者、宮本常一氏による沖縄滞在記録。四方を海に囲まれた沖縄にあって、さらに離島を多く訪れた宮本氏がみた海と生きる人々の生活がありのまま、多くの写真とともに掲載されています。宮本氏は内地から来た身として沖縄にどう寄り添えるのか、沖縄島と離島がこれからどう変わっていくのかを案じながら平和を祈り、島の生活者の平穏を願います。それらの言葉は民俗学者の大先生が発する大きな声ではなく、一個人として感じたことをささやくように語っているのが印象的です。

訪れた島の中には「本と商い ある日、」がある浜比嘉島も含まれています。まだうるま市はなく沖縄島と離島を結ぶ橋もかかっていなかった頃、多くが村だったこの周辺で今も当時の面影を多く残す島ですが、宮本氏が懸念したように人口は減り続け、島離れが止まりません。本書の中で投げかけられることは、良くも悪くもその多くが今へ繋がっているのを感じます。変わることと変わらないもの、どちらもある中で今を生きる私たちは何を受け取りどう活かすのか。この本は静かに問うています。

自分にとっての「海」に関するお気に入りの1冊

『海を見たことがなかった少年 モンドほか少年たちの物語』ル・クレジオ(集英社)

ノーベル文学賞を受賞した小説家のル・クレジオが38歳のときに書き残した短編集。8編ある作品すべてが子どもを主軸として描かれていて、なかでも表題作と「モンド」「リュビラー」は海が濃厚な世界の一部として存在している様が印象的です。本書で著者は子どもの読者を獲得したと言われているそうですが、暗闇をみつめながらも美しい世界への賛歌として紡がれた物語はかつて子どもだった大人たちにも響くものがあるように思います。都市とは違うどこか遠くへと歩いて行く子どもたち。そこにある太陽の光も、みつめる海も、肌を流れる風も、自然と触れることは常に未知であり、神秘である。子どもたちもそんな自然と同等な存在として描かれていてます。大人たちの日常をときにかるく飛び越える特別な彼らがみる海を少しでも同じ目線で感じたい。海を目の前にしたときに思い出すことのひとつです。

海は出てこないが「海」を感じられる1冊

『眠る木』上原沙也加(赤々舎)

誰かの生活と密接に関わる土地=沖縄をみつめる写真家、上原沙也加さんによる写真集。沖縄戦後、焦土した島の土壌流出を防ぐために米軍によって持ち込まれたと言われるネムノキ、ギンネム(タイトルの「眠る木」にも掛かる)ーーその重い歴史とは裏腹に可愛らしいイラストとして添えられた表紙が目を引きます。小洒落たカフェに外国語表記の標識、外人住宅といったどこか異国の観光地を思わせる風景写真が並び、いわゆる沖縄らしさを感じる風景はほとんどありません。特にそこで生活をするひとと「沖縄」をイメージしたときに真っ先に思い浮かべる海の不在、は特徴的です。一見感情の乏しい無機質な印象を受けますが、そこに写る街やものを眺めるうち、一枚一枚の写真の中に何層もの時間とひとの足跡が重なっていることに気づきます。素朴な家並み、レトロな商店のショーウィンドウ、読谷村のトリイステーション、取り壊されていく北谷の観覧車、そうしてページをめくるうち「沖縄」の姿がどんどんと浮き立ってきます。過ぎた時間の中で変わった沖縄の風景と、いままさに変わりゆく風景を同時にみているような不思議な感覚とともに、不在のはずのひとと海の声が聞こえてくるようです。

この活動は日本財団の助成により実施しています。

選書・文:
「SUNNY BOY BOOKS」「本と商いある日、」高橋和也

2013年東京・学芸大学に本屋「SUNNY BOY BOOKS」を立ち上げ、現在は運営に関わりながら2022年7月に自身は沖縄で「本と商いある日、」をオープン。古書・新刊・ZINE、雑貨など扱い、オリジナルの出版物も数多く制作している。

住所「SUNNY BOY BOOKS」:
東京都目黒区鷹番2-14-15
営業時間:
12:00 - 19:00
定休日:
月・金曜日
https://sunnyboybooks.net/

 

住所「本と商いある日、」:
沖縄県うるま市勝連比嘉20-1
営業時間:
11:00 - 17:30
定休日:
不定休
https://hamahiga-aruhi.net/