濱田晋
kibi
See the Sea Vol.3 first half MINATO LAB
kibi

時間に名前はつけられません。寄せては還す波にも、名前はありません。
それでもいつか思い出せるでしょうか。
どこから来てどこへいくのかもわからぬものたちを眺めながら、わかったことがあります。
吹く潮風は薄い水色。

Rumi hamada
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写真家が「海」をテーマに撮り下ろす連載企画「See the Sea」。
vol.7は濱田晋が鎌倉の海で撮影。
海岸を歩くことで感じる海への個人的な目線。

Vol.7 Interview 撮影前

大きすぎてわからないから怖いのかなと思いました。
海は未知じゃないですか。

インタビュアー
私たちみなとラボは「海と人とを学びでつなぐ」というキーワードを持って活動しています。「See the Sea」は、「海」をテーマに写真家に作品を撮っていただく企画で、これを機に海に興味を持ってもらうきっかけになればと思っています。撮影に行く前と後で海についてどう思っているのかなどお聞きしたいと思います。子どもの頃、学校の授業などで海について学んだことはありましたか。
濱田
海に関してはないかもです。あるとしても地理とか社会の授業の中でちらっと触れたぐらいですかね。課外授業でも海に行って何かしたみたいな記憶は特にないです。
インタビュアー
ご出身はどちらでしたか?
濱田
兵庫県神戸市で海は近いです。小学校の隣に兵庫運河があって、海とつながっているんだなという意識はありました。
インタビュアー
では子どもの頃から海に行ったりしていましたか?
濱田
僕自身は海で遊んだり、泳ぎたいってなることはなくて。海に対しては砂まじりの潮風がなんかガサガサするなぁとか、そういう印象です。子どもの頃家族で海に行ったみたいな記憶があまりなくて、それも影響していると思います。海へのイメージの持ち方って、親によく連れて行ってもらっていたとか、絶対夏は海に行くみたいな経験値で変わってくると思うんですよ。
インタビュアー
じゃあ海の思い出と言われても……という感じでしょうか。
濱田
海の思い出はあります。小学生のとき、家族でハワイ旅行に行ったんです。そのとき行った海が思いっきり引き潮で、足についていた砂が全部取られて、父から一瞬で遠く離れてしまって。死ぬ!と思った記憶は忘れられないですね。映画の「JAWS」を観ていたこともあって、絶対いる!絶対来る!みたいな恐怖心がありました。海ってやっぱり怖いものだと思うんですよね。でもその怖さって何だろうと、この話をもらってから考えてみたんですけど、大きすぎてわからないから怖いのかなと思いました。海は未知じゃないですか。宇宙と一緒で想像の幅も無限大だし、広くて機械ですら到達できない深さもあって、いまだみつかっていない生き物だってまだまだいるだろうし。決してネガティブなものではなく、神秘的な怖さがあるんだなと。ついでにいうと、「JAWS」を観てから怖いものみたさもあり、ホホジロザメが好きになりました。捕食のシーンとかただ悠々と泳いでいるだけの動画をいまでもよく観ています。
インタビュアー
子どもの頃の思い出がいまにもつながっているんですね。義務教育課程で海について学べる授業や、あったら良かったなというのはありますか?
濱田
海に触れてこなかった僕がいうのもなんですが、やっぱり海に触れる機会が少しでもあれば良いんじゃないですかね。潮風が肌にあたる感じとか、海水の塩っぱさとか、意外に汚いとかきれいとか。とりあえず現場に連れ出すってことは何事においてもやんなきゃいけないんじゃないかなと思います。なんでも知った気になれちゃう時代だからこそ肌で覚えるというのは大切なことだなと思います。
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すべてにおいて切り離せない話ですね。

インタビュアー
海と自分との関わりを感じたり、考えることはありますか。
濱田
父が魚屋だったんです。鮮魚ではないけど切り身や干物など中心の店で、塩加減を工夫した切り身の塩ジャケが有名でした。でも数年前に閉めたんですよ。自分が扱いたいシャケの種類がもうまったく獲れなくなったというのが理由でした。そういう話を直で聞くと、海の状況はどんどん変わってきているのかなと考えたりします。
インタビュアー
そうだったんですね。
濱田
実家が魚屋だったのでそういった話も聞いていましたし、僕は仕事柄漁師の方や養殖関係の方にお会いして撮影したり話を聞いたりしたこともあるので、割と海の環境については知る機会があった方だと思います。魚が減っているということは、間違いなく環境が変わってきているということです。お店にも生活にも直結します。全部つながっているんですよね。海だって、結局はめちゃめちゃちっちゃい川からつながっている。すべてにおいて切り離せない話ですね。
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僕が海でやることといったら、
やっぱり海岸を歩くぐらいなんですよ。

インタビュアー
今回すでに撮影プランを考えてくださっているんですよね。
濱田
今回やりたいこととしては、「ビーチコーミング」です。僕は冒頭で話したように、海自体に浸かったり泳いだりとか、釣りをするとか、海のフィールド自体に積極的に行こうとはいまでもあまり思えないんです。でもビーチコーミングのように落ちているものを採取するっていうのは、僕が空き地を撮り続けているとか、日常をキャプチャーするみたいな自分の撮り方につながっているなと。それにはウロつくのが大事だと思っています。
インタビュアー
濱田さんのいつもの撮り方を海でする感じですね。
濱田
海から流れ着いたものも結局はつながっているというか。どこから来たかわからないじゃないですか。いまそこでポンと投げてすぐにそれが還ってくるんじゃなくて、何か月か何年かわからない、もしかしたら何十年も前にどこかから海に入ったものがいま自分の足元にある。それは僕が普段街を歩きながら考えて撮っていることとまったく同じ思考でできるので、自分の姿勢に直結できる方法かなという感じですね。
インタビュアー
濱田さんの視点が入った海の写真ですね。
濱田
今回、海に入ってみるとか、特別な方法を試してみるっていうのは嘘をつくことになるなと思ったんです。僕が海でやることといったら、やっぱり海岸を歩くぐらいなんですよ。
インタビュアー
海でどんなものに出合えるかですね。
濱田
以前、友人が瓶に入った手紙を拾ったらしいんですよ。開けたら住所が書いてある手紙が入っていて。 調べて電話をしたらその本人が電話に出たらしくて。でも、「はぁ……」みたいな。特段何の感動的な話も起こらず終わったらしいんです。でも実際そんなこともあるんですよ。それはやっぱり海を歩いていたからこそだなと。実際に行ったら何があるんだろうと楽しみです。いろんな人の目線で海をとらえる企画だから何をみるか、拾うかっていうのも僕に委ねられている。自分なりの目線や感覚が伝わればいいなと思います。
インタビュアー
楽しみにしています。今日はありがとうございました。
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濱田晋(はまだ しん)
兵庫県生まれ。ポートレイト、ドキュメンタリー、取材の分野で撮影を行う。近作に作品集『ECHO』、『あたりまえのことたちへ Ⅱ』、『岩・紙・風』、『Tokyo』がある。2022年より思考実践プロジェクト「HAMADA ARCHITECTS™︎」を始動。好きな海の生き物は「ホホジロザメ」。
shinhamada.com
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