HIROYUKI TAKENOUCHI

Vol.9 Interview second half
3710Lab
この川は海へと続く川

東京の下町で育った自分にとって、身近にある大きな自然は川だった。
小さい頃は、実家の横を流れている川をずっと眺めていた。
川には、ベニヤ板工場に運ぶ大きな丸太が運ばれてきたり、大きな亀が泳いでいた。
堤防に囲まれていて直接入ることができない川は、夜になると少し怖かった。
川の向こうの町は、歩いていけばすぐなのに、少し遠い世界に感じていた。

川を見て育ったせいか、いろんな場所で川を見たり橋を渡るのが好きだ。 ここで生活している人、この川を見て育った人たちの気持ちを想像してみたりする。

川がどこから来てどこへ流れ着くかを特に考えていなかったけど、
この大きくも小さくもない川は少しづつ幅を広げながら、海につながっていると気づいたとき、
そういえば夏の夜、ここから見えないはずの海の気配を感じたり、
海に行った時に懐かしい気持ちになったことを思い出した。
川は海のようにも見えるし、海もまた川のように見える。それは当たり前のことなのかもしれない。

竹之内祐幸 サイン
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写真家が「海」をテーマに撮り下ろす連載企画「See the Sea」。
Vol.9は竹之内祐幸が川を通して海を考える。

竹之内祐幸 撮影前 interviewを読む

Vol.9 Interview 撮影後

この川はどこかの海に続いている

インタビュアー
撮影ありがとうございました。前回のインタビューでは、どう撮るか悩まれていたかと思います。そのあとメールをいただき、川を撮ろうかなと。どのように撮影されたのでしょうか。
竹之内
前回のインタビューで、川と海はつながっているというお話をしていただいて、海を撮るためのとっかかりとして、まず川を撮ってみようと思いました。「この川は海へと続く川」という言葉もそのとき自然に出てきたものです。川を撮影した後は海にも撮影に行きました。雄大すぎてとっかかりがないと思っていましたが、自分が普段目にしているものの延長線なのだと思うと、身近に感じることができました。
インタビュアー
海へ直接ではなく、川を間にはさむことで身近になるのかもしれないですね。
竹之内
そうですね。そして撮影しながら、小さな川や小さなものが集まって、大きなうねりというか、海へとたどり着くようなイメージを膨らませていました。
インタビュアー
今回みせていただいた流れでは最後海に……というようなことにはならなかったんですよね。
竹之内
そうなんです。撮りながらもうひとつ気づいたことがあって、小さな川もよく目を凝らすと大きな宇宙のようにも感じられるし、大きな海も手のひらに収まりそうな小さなものに見えてくるときがあるなと。なので流れを一方向ではなく、ループしているように見せてみようかなと思いました。
インタビュアー
それもあり、川だけでなく海へも行かれたのでしょうか。
竹之内
やはり海を撮らないのは反則かなと思って(笑)。実際に両方行ってみたことで、海と川の違いとか、似ている部分がわかりました。自分の写真の撮り方も変わらないんだなと再認識しました。
インタビュアー
そうやって海と川という境がなくなり、水というものでとらえている感じでしょうか。
竹之内
どちらも水であることは意識しました。光の反射とか、水面の揺れみたいなものをずっと見ているのが好きなので、どちらもそこを注視して撮影しました。川と海では水面の揺れ方が違いますが、波とか周りの環境の「音」も違うんだなと感じました。
インタビュアー
前回、どこを撮ったかわからないような写真を普段撮るから、いつもとは違うルーツみたいなものが出るようなことをやってみようかなともおっしゃっていました。
竹之内
結局自分は、その場所らしさという視点から撮影することができないのかもしれない、と思いました。今回は隅田川と多摩川、逗子海岸、横浜港で撮影したのですが、どの写真がどこで撮られたものか、ぱっと見では自分でもわからないものになっています。その場所らしさというよりは、水面とか光の具合から、自分の根源にある記憶と結びつけているのかもしれません。
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絶景よりも、その辺の景色やちょっとしたものに惹かれる

インタビュアー
海に対して意識が変わったりはしましたか。
竹之内
今回撮影したのは近郊の海でしたが、意外と数時間で行って帰って来られるんだなと思いました。自分の行動半径が少し広がったような気がしています。
インタビュアー
意識の変化以外にも何かありましたか。
竹之内
逗子海岸の撮影のとき、日の入りが16時半くらいで、自分は15時半から撮影していたのですが、走っている人たち、ただ海を眺めている人たちがいて、みんな何をするわけでもなくただ日の入りを眺めていたんです。平日でも、こんな風に海岸に集まって日の入りを見ている人たちがたくさんいることが素敵だなと思いました。
インタビュアー
海に行って夕焼けをみたりはされないですか。
竹之内
自分はほとんどしたことがなかったので、海の近くに住んでいる人たちが少し羨ましくなりました。
インタビュアー
こういうささやかなものに対してきれいと感じることが多いですか。
竹之内
絶景といわれているような景色よりも、その辺の景色とか、ちょっとしたものに惹かれやすい部分はありますね。
インタビュアー
みなとラボでも最近、ぼーっとする余白というか海をただ眺めるようなささやかな時間がないねという話をしていました。海はただそこにいても許されるといいますか。
竹之内
海を眺めにいくということだけで目的になりますからね。ちなみに多摩川土手でも夕焼けを眺めている人たちが結構いました。川や海を挟んで向こう岸に日が落ちる景色を眺めるって、まさにSee the Sea って感じがしますね。

(インタビュー 2023年12月26日)

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竹之内 祐幸(たけのうちひろゆき)
東京都生まれ。2008年、日本大学芸術学部写真学科卒業。同年、第31回キヤノン写真新世紀佳作受賞。2009年、塩竈フォトフェスティバル特別賞受賞。個展に「Things will get better over time」(Gallery Trax、Studio Staff Only、2017年)、「The Fourth Wall / 第四の壁」(PGI、book obscura、2017年 BOOKS f3、2018年)、「距離と深さ」(PGI、Studio Staff Only、2020年)、「Warp and Woof」(PGI、代官山蔦屋書店、ユトレヒト、STUDIO STAFF ONLY、2023年)、などがある。写真展に合わせ、同名の写真集を制作するなど積極的に作品を発表している。好きな海の生き物は「ホウボウ」。
https://www.hiroyukitakenouchi.com/
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