vol.4 Interview 撮影前

野口里佳
写真家が「海」をテーマに撮り下ろす連載企画「See the Sea」。vol.4は野口里佳が沖縄の海を撮影。海を眺めることで気づくさまざまな出来事。写真家が「海」をテーマに撮り下ろす連載企画「See the Sea」。vol.4は野口里佳が沖縄の海を撮影。海を眺めることで気づくさまざまな出来事。

光る海

春の浜辺で海を眺め、海の向こうを想像していました。
海の向こうにも浜辺で海を眺めて、
こちら側の世界を想像している人がいるかもしれません。

私の視線は果たして海の上をまっすぐに進むのか。
視線にスピードがあるのなら、それは果たしてどのくらいなのか。
私の視線と向こうの人の視線は海の上のどこかで交差するのか。

舳先に人の乗った船がゆっくりと目の前を横切っていきます。
船の通ったところに波が立ち、海は白く光りました。

野口里佳
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海というのは未知の世界海というのは未知の世界

インタビュアー
「See the Sea」は、「海」をテーマに写真家の方々に作品を撮っていただく企画となっています。まず、いま海についてどう思われているか、撮影を行う前にインタビューをさせていただきます。今年はじめに東京都写真美術館で開催されていた「野口里佳 不思議な力」展(2022年10月7日~2023年1月22日)を拝見しました。野口さんはこれまで「潜る人」、「海底」など海に関するテーマで、いくつか作品をつくられていますが、元々自然や海は気になる被写体だったのでしょうか?
野口
たしかに海を撮ったシリーズはいくつかありますね。ですが自然に対する興味みたいなものは特にはなかったと思います。私は埼玉県で育ったので海を身近に感じることもありませんでした。「潜る人」という作品をつくった当時の私にとって、海はちょっと遠い場所だったと思います。
インタビュアー
そういう野口さんにとって、海での思い出は何かありますか。
野口
初めて行った海は日本海だったと思います。父方の曽祖母が山形にいて、会いに行ったときに海水浴に行ったのですが、海に入るのが怖くてずっと浜辺を走り回っていました。でももしかすると写真をみて覚えているような気になっているだけで本当の記憶ではないかもしれません。「潜る人」をつくっているときは、週末になると青春18切符というのを使って伊豆の海に通っていました。いまは沖縄に住んでいるのでよくに海に行きます。
インタビュアー
「海」はどんな存在でしょうか?
野口
私にとって海というのは、いまでも未知の世界ですね。「潜る人」や「海底」という作品は私自身が海に潜って撮影をしているのですが、みたことのない世界に向かっていく、その場所として海が存在していたのだと思います。その先に何があるのだろうというところから潜ることになりました。
インタビュアー
実際に潜ってみて、その「何か」はみつかったのでしょうか、それともまだ未知のままなのでしょうか?
野口
「潜る人」ではみつけられなかったのですが、20年以上経って「海底」という作品をつくったことで少しだけみえてきた気がします。片鱗に触れたというか、どこに向かったら良いのか、その方角はわかったという感じです。沖縄に住みはじめて海との距離も変わりました。
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海はどこか意識の中にあります海はどこか意識の中にあります

インタビュアー
物理的に海との距離が近くなり、海が日常にあることで変化はありましたか?
野口
いままでいろいろな場所に住んできたのですが、環境によって作品はいつも変化してきました。だから海が近くにあることでの変化もきっとあると思います。沖縄にいて、島に住んでいる、ということはとても意識します。沖縄は冬でもあたたかかいイメージだと思うのですが、やっぱり冬は寒いんです。それは風が吹いているからで、いつも海からの風に吹かれている感じがあります。だから海の存在はいつもどこか意識の中にありますね。
インタビュアー
近くの海で写真を撮られることはありますか?
野口
コロナ禍に制作した「さかなとへび」という作品があるのですが、魚が飛ぶ瞬間を撮りたくて、魚を探しに近所の川の河口に通っていました。釣具屋さんから淡水と海水が混じり合うところで魚が飛ぶのではないかという話を聞いて、当時は海と川の境目のようなところに足を運んでいました。なので、近くの海を撮っていたと言えるのかなと思います。
インタビュアー
実際に行ってみて、みられないと次という感じで撮影されたのですか。
野口
魚は飛ぶはずなのですが、結局沖縄では魚が飛ぶ瞬間にはほとんど出会えませんでした。山から流れてきた水が海に流れていって海水と出合うのですが、沖縄は高い山がないので淡水と海水とがいつも混じり合っている。そのせいで魚が飛ばないのでは、というのが私の結論です。
インタビュアー
撮っていく中で自分なりの方法みたいなものがみつかっていく感じでしょうか。
野口
私の場合はいつも失敗しながら進んでいく感じです。魚を撮ろうとしてどんどんレンズが長くなっていって、でもレンズが長くなると視界が狭くなるので、今度はシャッターチャンスを逃してしまって。
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海を眺めてみる、海の向こうを想像してみる海を眺めてみる、海の向こうを想像してみる

インタビュアー
いま、海と自分が関わっているなと思うことはありますか?
野口
「不思議な力」という展覧会で、初期の「潜る人」と近作の「海底」という作品を展示したことで、まだ海に関してもう少しやるべきことが残っているなと思いました。だからもう一度潜らざるをえないのではと思っています。
インタビュアー
なんというか使命感のような何かがある、と。
野口
そうですね、変な使命感が。でもそれは海に対してだけあるのではなく、いつも使命感を持って作品をつくっています。それは人にみせるためというよりは、もうちょっと手前のことなのかもしれません。いまそれを眼にみえる形にしなければいけない、という変な使命感があります。
インタビュアー
その眼にみえる形にするのに、野口さんがやりやすいのが写真や映像だったのでしょうか?
野口
自分から進んで写真を選んだという感じではないのですが、私は写真と出合ったことで作品をつくり始めました。そして写真や映像でやるべきことはまだたくさん残っていると感じています。
インタビュアー
今回、漠然と「海」というテーマで撮っていただくのですが、野口さんにとって適した方法は思い浮かんでいるのでしょうか?
野口
2021年に発表した「光る海」という映像作品があるのですが、ひとつの浜辺に通って海を眺め続けた作品です。とりあえず海を眺めてみる、海の向こうを想像してみる。するといろんなことが起こるんです。変わらないようにみえても同じ日はないということを、海を通して形にできたらと思っていました。今回はその映像作品「光る海」を写真でなぞるようなことができたらいいのではと思っています。
インタビュアー
野口さんが眺めた海、拝見できるのを楽しみにしております。撮影よろしくお願いいたします。
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楢橋 朝子  撮影後 interviewを読む
野口里佳(のぐちりか)
1971年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。在学中から作品制作をはじめ、国内外の展覧会を中心に発表。2002年、第52回芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)、2014年、第30回東川賞国内作家賞を受賞。国内での主な個展に「予感」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2001年)、「飛ぶ夢を見た」(原美術館、2004年)、「光は未来に届く」(IZU PHOTO MUSEUM、2011-2012年)、「不思議な力」(東京都写真美術館、2022-2023年)など。作品は東京国立近代美術館、国立国際美術館、グッゲンハイム美術館、ポンピドゥ・センターなどに収蔵されている。12年間のベルリン滞在を経て、現在沖縄県那覇市在住。好きな海の生き物は「深海の生き物たち」。https://noguchirika.com/
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