みなとラボ通信

海のほんだな vol.9

代官山 蔦屋書店・キッズコンシェルジュ/瀬野尾 真紀

2026.02.27

瀬野尾 真紀(代官山 蔦屋書店・キッズコンシェルジュ)

2013年より代官山 蔦屋書店に勤務。キッズフロアのフェアやイベントの企画運営を通して出会った多くのクリエイターをはじめ、“今、まさに頑張る”作り手の応援しています。2022年に「えほん博」を立ち上げ、毎年11月に開催。

代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区猿楽町17-5)
営業時間:9:00〜22:00 / 定休日:年中無休(元日を除く)
https://store.tsite.jp/daikanyama/

どもに読んでもらいたい「海」に関する本

『海』加古里子(福音館書店)

今年、生誕100周年を迎えるかこさとしさんの不朽の名作です。

海を説明するのに、波打ちぎわからだんだんと沖にでていき、ついには地球を一回りしてしまいます。実際に手で触れられるところからはじめて、いつの間にか深い知へ子どもの関心を導いていってくれるところが、かこさとしさんの科学絵本の素晴らしさです。

海や地球を断面図として見せてくれて、ページに散らばった細かい要素ひとつひとつに小さい文字で名前がついているので、何度も眺めて楽しめます。

生き物や地形だけでなく、知られざる海の不思議を解明してきた船が登場したり、未来の構想まで盛り込まれていたりします。これは何だろうと思うものもたくさん登場しますが、巻末の解説がとても丁寧に記されているので心配はいりません。 あとがきに書かれたこの本の生い立ちを読むと、かこさとしさんの真摯なお仕事に圧倒されるばかりです。この本に出会えば、あふれるネットの海の情報よりも1冊の本が信頼できると言い切れます。

私を奮い立たせてくれる「海」

『シャクルトンの大漂流』ウィリアム・グリル 作/千葉茂樹 訳(岩波書店)

1914年アーネストシャクルトンが南極大陸横断に挑戦した冒険の一部始終を描いた物語。

資金、人材集めから細かい物資の内容紹介にはじまり、いよいよ船出の場面では見開きで船を見上げさせるなど、構図の変化で読み手の気分を変えるという、絵本だからこそできる表現が最高にかっこいい作品です。

その後、エンデュアランス号は流氷帯で立ち往生、ついには沈没してしまいます。この事態に陥った時にシャクルトンが言った「それでは、家に帰るとしよう」。大陸横断失敗の悲哀を感じさせず、家に帰るという新たな目標をチームに示すリーダーシップにグッとくる人は多いはずです。 シャクルトンは実在の人物ですが、私は絵本に登場する絶体絶命のピンチから立ち上がってくる登場人物たちが大好きです。

あなたを「海」へと誘う1冊

『プレーンソング』保坂和志(中央公論新社)

芥川賞作家の保坂和志さんの絵本『チャーちゃん』は死をテーマに扱っていながら、重苦しさはなく、かといって悲しむ人に全面的に寄り添うわけでもなくどこか突き放されるような不思議な開放感のある絵本です。

チャーちゃんきっかけで手に取った保坂さんのデビュー作が『プレーンソング』です。80年代くらいの若者が、なんとなく持て余した時間を無為に過ごし、強いのか緩いのかも分からぬ曖昧な人間関係、登場人物たちは何かを成し遂げたり、何物かになろうともしない、どこへ向かうともない日常の物語です。

チャーちゃんは絵本なので気づけなかったのですが、保坂さんの文章は文字から映像がぶわっと再生されるのです。路地にいる猫が気になってご飯を置いたり、昔の知り合いに何となく電話をかけたり、海にボートを浮かべて仲間と乗ったり、どの情景も映画を見ているような読書体験です。

絵本や映画には画があるので、画でみせればわかる部分にまで説明はつきませんが、保坂作品は文字で映像を見せて、説明はしないのです。落ちもないのです。これもまた突き放される解放感でした。

わざわざ休みを取って、のんびり海を眺めながら読むのに最適なタイトルです。

キッズコンシェルジュにとって「海」の思い入れがある1冊

『なみのいちにち』阿部結(ほるぷ出版

海の波の視点で朝から夜までの出来事が描かれた絵本。

時間帯によって訪れる人が変わる波打ちぎわ。穏やかな一日ですが、連綿と続いてきて、また続いていくであろう人間の日々の営みの力強さを感じるので不思議です。

打ち寄せる波の音は「さん ささーん」。海の波をこんなに透き通った優しい音として表現するところ、また1ページめの見開きの朝の希望にあふれた水面、夕まづめの変化する色合いの変化にあえて2ページを割くところ、挙げればキリがないほどですが、作者の海への愛情があふれています。 この絵本を手にすると、不思議と自分にとっての大切な場所や人が浮かんできます。受け取る人によって思い起こされるものがそれぞれだという点は、この作品が後世に読み継がれていくに違いないと確信できる部分です。本に自分の思いが載ってしまうとそれはもう私だけの特別な1冊です。