みなとラボ通信

Read the Sea vol.1

汽水空港/モリテツヤ

2023.02.24

さまざまな選書者が「海」をテーマに選書をする連載企画「Read the Sea」。vol.1は鳥取県の湯梨浜町にある書店「汽水空港」店主のモリテツヤさんです。

子どもに読んでもらいたい「海」に関する本(小学生)

『だいちゃんとうみ』太田大八(福音館書店)

長崎の海辺に暮らすこうちゃんの家へ遊びに行っただいちゃん。海と土に全身を浸すように遊んだ夏休みの一日が描かれた絵本です。時代はおそらく大正。村の道はまだアスファルトで舗装されておらず、二人は土の道をまだ薄暗がりの早朝、海へ向けて駆け出します。二人の手には「てぼ」と呼ばれる竹籠があり、中には味噌漬けとたくわんが入っています。そのてぼの中身を、漁師のえいぞうさんに渡すと、「ふとかとば いれとくけん」と少年たちに気前よく大きな鯛やえびと交換してくれるのです。

その後、川で釣り餌をとり、さぶろうさんの舟で沖へ出て釣りをし、みんなで泳ぎながら貝を捕る。ござを敷いた浜辺で食べる昼ごはんの描写は、さぞかし楽しく美味しいことだろうと思わせます。

陽の傾きと共に移ろう海の色、村の様子。僕は行ったこともないこうちゃんの村が懐かしい。それは今日、都市で生まれた子どもたちにも同じように感じられることと思います。

大人に読んでもらいたい「海」に関する本

『苦海浄土』石牟礼道子(講談社文庫)

「海の中にも名所のあっとばい。-ふじ壺じゃの、いそぎんちゃくじゃの、海松じゃの、水の流れてゆく先ざきに、いっぱい花をつけてゆれよるるよ。わけても魚どんがうつくしか。いそぎんちゃくは菊の花の満開のごたる。海松は海の中の崖のとっかかりに、枝ぶりのよかとの段々をつくる。ひじきは花の枝のごとしとる。藻は竹の林のごたる。海の底の景色も陸の上とおんなじに、春も秋も夏も冬もあっとばい。うちゃ、きっと海の底に龍宮のあるとおもうとる。夢んごてうつくしかもね。」水俣病に罹り、今はもう漁に出られなくなった漁師ゆきさんが語る海の美しさ。「魚どん」や「タコ奴」を「もぞかとばい(可愛い)」と語る、海と共に生きる人々の視点。近代・資本主義が、きちゃきちゃとした有機水銀となって海へ排出され、水俣が苦海となっていく。汚染された水を海で希釈することを可しとし続ける現代。何度でも読み直されたい本です。

自分にとっての「海」に関するお気に入りの1冊

『遠い海からきた COO』景山民夫(角川文庫)

常夏の国、インドネシアに暮らしていた小学生時代。両親が旅行に行って暇をしていたとき、ふと手にとって読んだ小説です。熱帯夜に一人で読む、南国の離島に暮らす少年の生活にどこか自分を重ねて読みました。主人公、洋助はある日、孤島でうずくまる海亀の赤ちゃんのような生き物を拾います。見たこともないその生き物の赤ちゃんは、やがて恐竜の赤ちゃんであったということが分かります。COOと名付けられた赤ちゃん恐竜は、洋助の友だちである近海に泳ぎ暮らすイルカたちと戯れ、平穏な日々を暮らすのですが……というのがあらすじです。

本で読む言葉が、映画のように鮮明なイメージとなって心の内に流れ躍動するという、初めての経験をしました。クライマックスでは一人涙を流しながら読み、以降、僕は本というものが心を震わせるものなのだと知りました。読書にハマるきっかけをくれた本です。

海は出てこないが「海」を感じられる1冊

『二千億の果実』宮内勝典(河出書房新社)

世界をバックパッカーとして放浪していた小説家、宮内勝典氏。「バックパッカー」というその響きが、いつも僕に熱帯、夜の騒がしい雑踏、排気ガスとクラクション、濃い緑、青い海などが渾然一体となった景色を彷彿とさせます。バックパッカーという遍歴を背景にして紡がれる作家の言葉には、常に海を湛えているような気がします。『二千億の果実』は、小説でありながら著者自身の生きてきた世界そのものが描かれています。著者が生まれる以前の著者自身の母の人生、実在した革命家の人生、娼婦として暮らすどこかの女性の人生、そして宮内勝典氏の人生。訪れるコロナウィルス。時代も国境も越えて描かれるこの世界の様子を、豊穣な海のようなものとして読みながら感じていました。どこか遺言のように書かれる著者の言葉には諸行無常という仏教的世界も感じます。勝手な読者の一人としては、まだまだ宮内勝典さんの本を読んでいきたいと願ってやみません。

この活動は日本財団の助成により実施しています。

選書・文:
汽水空港 モリテツヤ

鳥取県の中央に位置する東郷湖に面した新刊・古書を扱う書店。汽水湖のほとりにあったおもちゃ屋の倉庫をみずから改装、増築してつくった店舗。2020年から「汽水空港ターミナル2(食える公園)」という誰もが携われる畑をスタート。書店に限らず、生きることについてさまざまな実験をおこなっている。

住所:
鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18
営業時間:
13:00~18:00
定休日:
火・水・木曜日
https://www.kisuikuko.com/