みなとラボ通信
海のほんだな vol.11
2026.04.24
岩澤和泉(京都岡崎 蔦屋書店・アートコンシェルジュ)
静岡県の海の近く出身。京都の大学でアートを学び、東京の美術系書店での勤務を経て現職に。店内のアートギャラリーも担当。京都の町を右から左に駆け抜ける怒涛の日々を送っています。
『黒ねこサンゴロウ 旅のつづき 5 最後の手紙』竹下文子 作/鈴木まもる 絵(偕成社)
船乗りの黒ねこサンゴロウが活躍する「黒ねこサンゴロウ」シリーズと、続編の「旅のつづき」シリーズ。小学生のころ図書館で手にして以来、幾度となく読み返してきました。
1巻で海図と船の設計図を手に入れたサンゴロウが、次巻からは危険な航海を経てたどり着いたうみねこ島を拠点に活躍する姿が描かれます。一人旅が好きで孤独を愛しながらも仲間のために荒れた海に船を出す。サンゴロウはとにかく格好良く、私の永遠の憧れです。
シリーズ最終巻である本書では、サンゴロウが忘れていた記憶と自分のルーツに迫ります。長い文章を読むことができるようになるころに手に取って、ぜひ最終巻まで読破してほしい。素敵な挿絵もページをめくる手を進めてくれます。

『海と山のピアノ』いしいしんじ(新潮社)
私が育った場所は海が近く、かといって海水浴ができるようなのんびりとした海ではない。防風林を抜けてたどり着く海はからっ風が吹きすさぶ、砂浜には釣り人が数人のいる限りの海でした。いしいしんじさんのこの短編集を読むと、遠足で遊んだ砂浜や、嵐の夜に海が「ゴー」と鳴っているのが聴こえたことなど、海に対する親しみと畏怖が両方思い出されます。
三崎の若い漁師達が遭難し、マグロになる(「野島沖」)、住む場所を移動する村で生まれ育ったわたしが、「うた」をたよりに故郷を探す(「ふるさと」)、グランドピアノとともに打ち上げられた、ちいさなこと海辺の村の奇跡(「海と山のピアノ」)など。幻想と現実が入り交ざり、リアルに心を揺さぶる9編。

『オセアノ号、海へ!』アヌック・ボワロベール、ルイ・リゴー作/松田素子 訳(アノニマスタジオ)
「いよいよそのひがやってきた!せかいのうみへ、たびだつひだ。」赤い三角の旗を立てたオセアノ号の出航の場面から始まるポップアップの仕掛け絵本。
ページを開くと、海に浮かんでいる船たちが立ち上がり、隠れていた魚や海の生き物、落ちているゴミなど、海の中が見えてきます。次のページはみわたすかぎりのなにもない、青い海。けれど仕掛けが立ち上がり海の中をみるとクジラの親子。海の上と下はそれぞれどうなっているのだろうとワクワクしながらページをめくる手が止まりません。最後のページでオセアノ号はサンゴの海へたどり着きます。乗組員は海へダイビング。冒険が終わるころ、私たちも海へ向かいたくなっています。

『Ever After』楢橋朝子(Osiris)
画面の下部が水に浸かり、遠くの景色と水中が同時に収められた写真。一度観ると忘れられない、鮮烈なイメージです。
本作は、写真家・楢橋朝子さんの写真集『Ever After』に収録されています。日本各地や海外の海で撮られた水際のシリーズは、安定した陸地から海を眺めるのではなく、実際にすがたを変え続ける海に身を置き、カメラを水に浸しながら、人の暮らしのある陸地に目を向けています。
観ている者も波に揺られているような錯覚を覚え、次第に陸と海、海と自分の境界が曖昧になっていく。そして、頑丈だと思っていた自身の足元を崩された不安と、波にのまれていく安らぎを同時に感じます。視覚だけでなく感覚に訴えてくる写真集です。