みなとラボ通信
海のほんだな vol.4
2025.09.26
竺原康二(湘南 蔦屋書店・ワークスタイルコンシェルジュ)
大学ではロシア語学科に在籍、卒業。「ワークスタイル」という言葉を広義に捉え、働く空間をより豊かにする為のアート/クリエイティビティの源泉としての自然科学/身体=資本という観点でのスポーツ、といったジャンルも包括する。
『OCEAN LIFE 図鑑 海の生物』スミソニアン協会・ロンドン自然史博物館/監修 遠藤秀紀・長谷川和範/日本語版監修(東京書籍)
「三つ子の魂百まで」という言葉通り、子どものころの原体験はその人の人生における感性だとか、何が好きかといったことをある程度方向づけるパワーが備わっています。
だからこそ幼少期にはさまざまな物事に触れさせることが大切だったりする訳ですが、都市的な生活様式を送る人口が多い現代では、特に“自然”というものにわざわざおもむくことには得難(えがた)い価値があります。
その意味でこの本は、自然のなかでも“海”へと人々を引き寄せる圧倒的な迫力とロマンがつめ込まれており、ページをめくる度に訪れる「地球にはこんな生き物がいたんだ!」という新鮮な驚きは、子どもたちを海へとつなぐきっかけとなり得る1冊です。
ワクワクしながら読み進めてみてくださいね。

『チョーク色のピープル』わたせせいぞう(玄光社)
“懐かしさ”の感覚が無性に好きなのですが、その感覚は視覚から呼び起こされることも多いです。
その上で“本”そして“海”というキーワードから考えると、思い出されるのは漫画家・イラストレーターであるわたせせいぞう氏。
一目でそれとわかる絵柄、手書きのセリフ、淡い色彩、そして人と人が交錯する豊かなストーリー……。
これまで多くの作品を世に出されていますが、どれも非常に印象的に“海”が登場しています。
この『チョーク色のピープル』は、海が見える丘にある「チョーク色の建物」と呼ばれる白亜(はくあ)のアパートを舞台にした、世代も関係性もさまざまな登場人物たちの出会いと別れを描いた短編集。
氏の代表作には『ハートカクテル』がありますが、それとはまた一味違う、切なさや哀しみが味わい深い作品です。

『THE JOURNEY BEGINS』永井博(復刊ドットコム)
“これしかない”と思わせる空間構成の妙、近未来と郷愁が同居したような独特な空気感の絵柄、そして感動的に鮮やかな色の配置。
永井博と聞いて、故・大瀧詠一氏の不朽の名盤『A LONG VACATION』のレコードジャケットを思い出す方も多いと思いますが、永井氏はそうしたジャケットワークや広告など数多くの作品を手がけて来られました。
この作品集は永井氏本人のセレクトで初期作品から近年描かれたものまでが収められており、ビーチサイドや波打ち際、風に揺れるヤシの木などを観ると、とにかく海への誘惑を感じずにはいられません。
収録されている絵を1つ1つ眺めてみてください。
思わず、登場人物としてその絵のなかに飛び込んでみたくなるほどの魅力に溢れています。

『海の歴史』ジャック・アタリ著/林昌宏・訳(プレジデント社)
本作が日本で出版されたのは2018年。
当時働いていた店舗にこの本が入荷したとき、まさに大海原を思わせるその鮮やかな青色の表紙を見て「きれいな装丁の本だなぁ」と思ったことを覚えています。
海といえば豊饒(ほうじょう)の象徴であり、多くの生き物の根源でもありますが、この作品はそうした生物学的な側面に焦点を当てた章から始まり、海を舞台とした人類史、貿易に絡む政治や経済のトピック、海洋進出のために必要となるテクノロジーについて、海を守るという環境面の文脈など、非常に多岐に渡るテーマで構成されており、海を中心に据(す)えた壮大な歴史書と呼べる出来に仕上がっています。
読む前と読んだ後では、今ある“海”という存在が、より特別に見えてきます。