みなとラボ通信

Read the Sea vol.5

BOOKSライデン/前田侑也

2023.03.24

さまざまな選書者が「海」をテーマに選書をする連載企画「Read the Sea」。vol.5は長崎県長崎市にある本屋「BOOKSライデン」店主の前田侑也さん。

子どもに読んでもらいたい「海」に関する本

『スイミー』作:レオ=レオニ  訳:谷川俊太郎(好学社)

海がテーマの本と聞いて一番に浮かんだのが本書です。教科書で一度は読んだことがある方も多いのではないでしょうか。スイミーは一匹だけ色の違う魚で仲間たちとは見た目が異なります。しかし、その違いがあるからこそ大きな魚の「目」になることができました。個性や多様性の尊重が謳われる世の中ですが、我々は人と違うことに対してネガティブな印象を抱きがちです。しかしここでのスイミーのように、違うからこそ力が発揮できる場面も社会には存在します。大切なことは違うことをポジティブに捉えること、それに対して「いいね」と言えることではないでしょうか。違うからこそ違わない人にはない魅力を発揮できるのだと思います。違いを強みと捉え尊重し合える関係にしていかないといけない。人と違っても良いんだよと子どもたちに伝えていきたい。大人になって改めて読み返したときにそう思いました。

大人に読んでもらいたい「海」に関する本

『人新世の「資本論」』斎藤幸平(集英社)

主に先進国の行き過ぎた経済活動が地球を破壊する時代=「人新世」。気温上昇に伴い海面は上昇、年々台風の威力は増し、アフリカではバッタが大量発生したりとここ数年、異常気象に関連したニュースを見る機会も多くなってきました。こんなにも事態は深刻なのに、なぜ環境問題は二の次にされがちなのかと言えばそれは経済活動上、環境問題は余計なコストでしかないから(外部不経済)。本書は経済学の古典であるマルクスの『資本論』をこの人新世の時代に改めて読み直す、そんな一冊になっています。著者はハイブリッドカーやエコバックなどの一見環境に良いことをしているように見えるあれこれも、従来の経済活動の上にあるものは解決策にならないと説き、経済が成長する過程で破壊してきた<コモン>(=共有財)領域を拡大することを提唱します。いままで見ようとしなかった現実をいかに直視できるか……これからの先進国に生きる我々に課された使命だと思います。

自分にとっての「海」に関するお気に入りの1冊

『世界史の中の出島 日欧通交史上長崎の果たした役割』森岡美子( 長崎文献社)

当店は長崎市出島町という場所に位置します。出島……そう、歴史の教科書で一度は習う鎖国時代、唯一オランダを中心とした世界を相手に貿易を行っていた人工島です。本書ではその出島、ひいては当時の長崎、日本についての立ち位置を克明に記録し、当時の外交や風俗文化について書かれています。いま外国へ渡航するとなると飛行機が一般的ですが、飛行機がない時代、海に面した港町・長崎は最先端の情報に触れることができる絶好の場所でした。本を売る身として思うのは、当たり前ですが他国との行き来が船だった時代は、ものや人が行き交うスピードが圧倒的に遅かった。しかし、その遅さ(それでも十分速かったのだと思いますが..)によって人々の「知りたい」気持ちというものは、おのずといまよりも高かったのではないのかということ。海という緩衝地帯によって内と外が分かれる。人々はその外側のことを純粋に知りたかったんだろうと思います。当時の人々の気持ちを想像するとこれだけ簡単に情報へアクセスできる時代だからこそ、その恩恵をきっちり受け止めて生きていきたい、そんなことをこの出島町で思ったりしています。

海は出てこないが「海」を感じられる1冊

『水中の哲学者たち』永井玲衣(晶文社)

全国各地へ赴き哲学対話のワークショップをコーディネイトする著者による哲学エッセイです。哲学と聞くと興味のない人からすればまったく別の世界の話にしか聞こえないと思います。私も「どういう本をよく読みますか?」と聞かれれば「哲学とか…」とつい偉そうに答える癖があるのですが、じゃあ哲学について詳しいのかと言うとまったくそんなことはなく、いつも煮え切らない気持ちを抱えてしまいます。しかし、哲学は一部の人にしか関係のないものなのでしょうか。そんなことはないと思います。人として生きていく上で、必ず何らかの問題に出会します。生きている限り他者と関わる、他者と関わるということは問いの連続。本書では小学校から会社まで、幅広い年代の参加者と哲学的な問いについて議論するなかで著者の人間への眼差しが綴られてきます。世の中わからないことだらけ、だからこそ話して聞いて少しの「わかった」を大切にしていきたい。未来を希望に変えてくれる一冊です。

この活動は日本財団の助成により実施しています。

選書・文:
「BOOKSライデン」前田侑也

長崎県長崎市になる新刊・古書の本屋「BOOKSライデン」。カフェスペースもあり、オランダワッフルがおすすめ。店主の前田さんは大阪からの移住者。人が集うような場所となるべくイベントも積極的に行っている。

住所:
長崎県長崎市出島町2-18-201(末広ビル2F)
営業時間:
12:00-20:00
定休日:
火曜日(SNSをご確認ください)
https://books-leiden.tumblr.com/