みなとラボ通信

Read the Sea vol.6

1003/奥村千織

2023.03.31

さまざまな選書者が「海」をテーマに選書をする連載企画「Read the Sea」。vol.6は兵庫県神戸市にある本屋「1003」店主の奥村千織さん。

子どもに読んでもらいたい「海」に関する本( 小学校高学年〜中学生 )

『増補新版 いま生きているという冒険』石川直樹(新曜社)

高校2年生でのインド一人旅にはじまり、熱気球での太平洋横断への挑戦、北極から南極までの世界縦断の旅、さらに七大陸最高峰の制覇等、世界を股にかけた冒険の数々がこの本には詰まっています。そのなかで特に私が心惹かれたのは、ミクロネシアに古くから伝わる星の航海術(スターナビゲーション)を求める旅でした。地図もコンパスも使わず、星の光のみをたよりに海を渡るという技を習得するべく、著者が現地の熟練航海師に弟子入りした体験が綴られています。

時には命の危機に陥りながらも、世界各地の都市から辺境まで数多の旅を経てきた著者だからこそ、最終章において、遠くへ旅をせずとも「生きることは冒険の連続ではないか」と問いかける言葉には重みがあります。本書で語られるような経験はなかなかできることではありません。しかし、受験や就職、引っ越しなど、日常でも未知なる物事に出会う場面は数多く、そのときに勇気を持って、自ら選択した孤独な精神の冒険に分け入ることができるかどうか。未来への恐怖に怯みそうになったとき、この本が強く背中を押してくれることでしょう。

大人に読んでもらいたい「海」に関する本

『海の本屋のはなし』平野義昌(苦楽堂)

「元町ぶらぶら散歩道 海の本屋を懐かしむ」

この本を購入した際、その場にいらした元海文堂書店員で著者の平野さんがサインに添えてくださったこの言葉をときおり思い出します。神戸の元町商店街にあった海文堂書店は、創業100周年を目前にした2013年、惜しまれつつ閉店しました。閉店前の数年間に何度か行っただけでしたが、1階はオールジャンルの新刊書、2階は海事関係の専門書に海洋グッズ、そして近隣の古本屋が合同出店する古書コーナーと、見どころがたくさんでいつ行っても静かに興奮しながら棚を眺めたことを覚えています。本書中盤のインタビューでは、どの書店員からも常連のお客様のことが昨日接客したかのように語られ、海文堂書店が街にとってどんな店だったのか、その魅力が手に取るように伝わってきます。閉店の通告から当日までを記録した終章では、いつか来るであろう当店の店じまいのときをどう過ごすべきか、想像せずにはいられませんでした。同じ書店員として、何度読み返しても襟を正される一冊です。

自分にとっての「海」に関するお気に入りの1冊

『月の影 影の海』上下巻(十二国記シリーズ) 小野不由美(新潮文庫)

世界の中央にそびえる山の周りに円環状に8つの国が存在し、さらにその外海を挟んで4つの国が取り囲む。それぞれの国には必ず王と王に仕える麒麟がいて、天帝がその世界全体を司る。優等生の陽子が、ある日突然妖魔に追われ海に飛び込み辿り着いたのは、そんな世界でした。かの地でも絶え間なく妖魔に襲われ、度重なる裏切りに遭い、生きて日本に帰るという希望だけを胸に、ひとりあてのない厳しい旅を続ける陽子。彼女が異界に連れてこられた理由とは一体何なのでしょうか。

20年前に初めて手にとって以来、つらいとき、どこかに逃げ込みたくなるたびにこの本を開いてきました。想像を絶する逆境を乗り越え成長し、みずからに正直であろう、世界に誠実であろうとする陽子の姿に何度励まされたか分かりません。私たちの生きる世界とは成り立ちも文化も常識もまったく異なる「こちら」の世界。読み進めるにつれ明かされる、その緻密に設計された世界観にも魅了されること間違いなしです。

海は出てこないが「海」を感じられる1冊

『風の谷のナウシカ』全7巻 宮崎駿(徳間書店)

小さな頃からジブリのアニメは繰り返しみていましたが、コミックスが出ていることを知ったのは、高校生の頃。友人宅の本棚に並ぶ7巻セットの背表紙をみつけ、その場で読み耽りました。アニメ化されたのはコミックスの途中までだったと知ったのもこのときで、その後に続く物語の壮大さに衝撃を受け、すぐさま自分でも全巻買い揃えました。

舞台は何度目かの世界大戦のあと、文明が崩壊し長い年月が経った荒涼とした地球。毒を出す植物に覆われ巨大化した蟲達が住む深い森「腐海」が地表を覆い、人間の住める土地はごくわずか。そのわずかな土地と資源をめぐり、戦争を続ける人間から世界を救おうと立ち上がる少女の物語です。愚かだけれど愛しい、矛盾する存在としての人間が魅力的なキャラクターで描かれ、いつしかその世界に引き込まれます。人は何のために生きるのか、問いを突きつけられる作品です。

この活動は日本財団の助成により実施しています。

選書・文:
「1003」奥村千織

古本・新刊だけでなくリトルプレスやZINEも多数扱う本屋「1003(センサン)」。海まで徒歩5分の場所にお店がある。

住所:
兵庫県神戸市中央区栄町通1-1-9 東方ビル504号室
営業時間:
12:00-19:00
定休日:
火曜・水曜日
https://1003books.tumblr.com/