みなとラボ通信
Read the Sea vol.7
2023.04.07
『海洋を冒険する切り絵・しかけ図鑑』絵:エレーヌ・ドゥルヴェール、文:エマニュエル・グランドマン、訳:檜垣裕美、監修:三宅裕志(科学同人)
地球の面積の7割を占め、地球を「青い星」たらしめている海。生命の誕生の舞台でもあり、30万種以上もの生きものが生息しているとも言われる大いなるゆりかごの中では、どのような営みが繰り広げられているのでしょうか。
色鮮やかなイラストと繊細な切り絵で、海の巨大で精巧なメカニズムや多様な生命を解き明かしてくれるのが本書です。酸素を供給し、汚染物質を取り除き、雨を生み出す。“惑星の肺”ともいえる海の巨大な循環・清浄システムの仕組み。波打ち際にサンゴ礁、大洋から深海まで、水面下に広がる多様な環境。それぞれの環境に適応して進化した生物ごとのユニークな生態と、バラエティに富んだ生存戦略。楽しいしかけや美しい切り絵はただ触ったり眺めているだけでも楽しく、各トピックに書かれた丁寧な解説は、私たちを深い海の底への冒険に誘ってくれます。小学校の高学年から大人まで、海を愛する人全員にオススメしたいしかけ図鑑です。
『海に生きる人びと』宮本常一(河出書房新社)
島。外界とのつながりを海に阻まれ、孤立した環境。小豆島に住むまでは、島は閉ざされた場所なのだと思っていました。しかし、住んでみるとむしろ逆だと気付きます。海によって外の世界とつながる、開かれた場所なのだと。島や沿岸部など海に住む人びとの姿を解き明かし、私たちの先祖が海とどのように向き合っていたのかを明らかにしてくれるのが本書です。
物流の担い手として物を、人を、ときには文化を各地に運んだ商船や廻船の水夫たち。食いあぶれると海賊となって遠く中国や朝鮮半島まで漕ぎだす漁民。家族に犬猫、家財道具の一切を船に詰め込んで漂泊する家船の人々。日本各地を動き回り、場所や状況に応じて自在に生業を変えながらしたたかに生き抜く民衆たち。日々の糧となる恵みをもたらしつつも、ときに荒れ狂い、命を奪う存在ともなる海。そんな常に変化し続ける環境で、自然と折り合いをつけながら暮らしてきた先祖の知恵が本書には息づいています。
『はぐれイワシの打ち明け話』著:ビル・フランソワ 訳:河合隼雄(光文社)
海の生き物の奇妙で驚くべき世界へようこそ!
ここに書かれているのは古代の人の語り継いだ伝説?夢物語?いやいや、全て科学的に証明された事実です。東西冷戦時代にスウェーデンとソ連間の緊張を高めたニシン。世界の果てから聞こえてくるクジラの歌声。リーダーも命令系統も存在しないにも関わらず、統制された動きで捕食者を翻弄するイワシの群れ。ヨーロッパの列強諸国に4世紀にわたる戦争をもたらしたタラ。NASAの望遠鏡のモデルとなったのは、なんと小エビの眼?物理学者であり自然保護活動家でもあるフランス人の著者が語るこの海洋生物エッセイは、ユーモラスでウィットに富んだ語り口も相まって、一度読み始めるとページをめくる手が止まらなくなるはずです。科学技術の進歩によって地球の様々な事が分かるようになってきましたが、それでもまだまだ未知の部分が多い海。広大で神秘的な海の魅力をどうぞ存分に味わってください。
『マレ・サカチのたったひとつの贈物』王城夕紀(中央公論新社)
この本を読むといつも海を感じます。広大で深遠で荒々しく、生命のエネルギーに満ちあふれた海を。量子病という奇病に侵された坂知稀(さかちまれ)。自分の意思とは関係なくランダムに世界を飛び回る運命を背負った彼女は、飛ぶ先々で多くの人と出会います。己の運命に抗おうともがく人、つくられた熱狂に踊らされる人。嵐のように稀を打ちすえる人がいれば、凪のような平穏を与えてくれる人もいます。人との出会いが彼女を、そして共に旅する私たち読者をも変えていきます。
世界は厳しく無慈悲で、抗えない運命に押しつぶされそうになるかもしれません。それでも、この世界は生きるに値します。稀の長い旅が、人との出会いが一つとして無駄ではなかったように、私たちも人生という長い航海を続けましょう。出会うべき人に出会うために。出会って良かったと思えるものに出会うために。世界を広げ、思いもよらない出会いをもたらしてくれる、豊饒な海のような読書体験を味わえる一冊です。
店主は2019年に小豆島に移住し、イベント等を行いながら店舗をリノベーション。2022年夏にオープンした海まで数分の小豆島にある本屋「TUG BOOKS(タグブックス)」。店内はカフェスペースもある。