みなとラボ通信

海のほんだな vol.6

代官山 蔦屋書店・雑誌コンシェルジュ/川口 悟

2025.11.28

川口 悟(代官山 蔦屋書店・雑誌コンシェルジュ)

雑誌コンシェルジュとして、代官山 蔦屋書店のマガジンストリートを約4年間担当しておりました。現在は「繋ぐ」役割として、地域のお祭りを通じて人と人を繋ぐことや、企業と人を繋ぐプロモーションを店舗で担っています。

代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区猿楽町17-5)
営業時間:9:00〜22:00 / 定休日:年中無休(元旦を除く)
https://store.tsite.jp/daikanyama/

どもに読んでもらいたい「海」に関する本

『うみへやまへ』三浦太郎(偕成社)

幼いころ、道ですれ違う人々は何人いるのだろうと思い、1日中ずっと数えてみたことがあります。不思議な子ども時代でした。
そのとき、たくさんの人生とすれ違っていることに、深い感動を覚えました。そのときの気持ちが、この絵本を読んでよみがえりました。

前から読むと「山の家に住むぼく」が白い車で海の町へ向かい、読み終えて後ろからページをめくると、「海の町に住むわたし」が赤い車で山の家へ向かう物語が始まります。同じ鮮やかな絵のなかで2つの物語が重なり合うこの旅の絵本は、2度楽しめるだけではなく、見えない糸で人と人を結ぶように、つながりの不思議さを感じさせてくれるのです。この絵本のように、海へ向かうということは、同時に誰かとすれ違うことでもあります。すれ違う人の人生を想うことも、航海なのだと思います。

芸人と詩人のどちらかを目指していた私が、海と聞いて思い浮かべた

『relax 2000年8月号』岡本仁 編(マガジンハウス)

「いつ来ても夫婦喧嘩の絶えない甘味処」や「真意は不明だが味は絶妙な店」と飲食店を紹介する雑誌を、『relax』以外ほとんど見かけません。まるでツッコミ待ちのボケ担当が繰り出す言葉のようです。
「海」といえば、ファッションや旅行の特集を思い浮かべる雑誌読者は大いにいるかもしれませんが、私にとっては「グワーッ、早く海に行きて―よーっ!」から始まる本誌の「海の家」特集号です。行きたい気持ちが抑えられない人の想いを絶妙に代弁しています。誌面では、葉山に海の家を建築する若き集団にフォーカスを当てて、メンバーたちの性格やとりとめのない会話を掲載し、施工から完成までを見届けて、夏の始まりが到来したことを一緒になって祝福しています。この数ページを見れば、誰だって海に行きたくなります。
詩人のように言葉を絞り出し、芸人のように会場を沸かせる、そんな『relax』がいつか再び、海開きしてくれることを願っています(現在休刊中)。

あなたを「海」へと誘う1冊

『半島へ』稲葉真弓 (講談社)

シェリーの「冬来りなば春遠からじ」という詩があります。きびしい冬が来たらあたたかい春もそう遠くはない、という意味ですが、「暖冬来りなば猛暑遠からじ」と読み替えるべき状況が目前に迫っています。立春や立秋、暦の言葉とともに四季は忘れ去られてしまうのでしょうか。

本書はそのような季節の記憶を、呼び覚ましてくれる作品です。東京のマンションを離れ、志摩半島の一角に移り住んだ「私」の半島生活を通じて、四季の移ろいを衣食住の様相と共に、静謐な文章で描き表します。主人公が小さな浜の穏やかな海で、東京で忙しなく生活していた頃を思い出しながら、潮の浮力に任せてこのままじっとしていたい、と自由を感じるシーンを読んだとき、海への憧憬は最高潮に達しました。 この小説は、まるで波のように、伊勢志摩へと私を引き寄せようとしているのかもしれません。

雑誌コンシェルジュにとって「海」の思い入れがある1冊

『Yolo Journal Issue 3』(Yolo journal magazine)

海にヨットを浮かべて、モデルの女性が帆を張るカバーの世界観と、誌面の美しい写真に見惚れて発注した1冊です。行動に制限はかかってもインスピレーションに制限はかからない!という気迫を込めて、ファッション誌のエリアに並べたのはコロナ禍の2020年。「眺めトリップ」と名付けた私の妄想旅行はここから始まります。まるでコレクションのような表紙から、ページをめくればインド洋の小さな島国モーリシャス(表紙の女性はモーリシャスで生まれたモデルだそう)の上空から見下ろす壮大な海の景色や、サレント半島の地平線の遥か彼方まで広がる海、そしてホテル・ダニエリの芸術的な美しさなど、旅先の風景をエディターの目線でうまく切り取りながら紹介し、旅に関する示唆を与えてくれた雑誌です。

明日にはモーリシャスの海の中の滝に足を運んでいるかもしれません。