みなとラボ通信
Read the Sea vol.14
2023.06.02
『ともだちは海のにおい』作:工藤直子 絵:長新太(理論社)
海はあまりにも広くて、眺めているだけでさびしい気持ちになってしまいます。もしかしたら、海に住む生き物たちも、同じようにさびしさを感じているのかも。
この本の主人公のクジラとイルカは、さびしいくらい静かな夜に出会います。そして、そばに居るだけで嬉しくなるようなともだちになって、たくさんの時間を分かち合います。広く、孤独な海の中だからこそ、ともだちがそばにいるだけで、とっても幸せみたいです。
著者は、詩人の工藤直子さん。クジラとイルカのふたりのゴキゲンなお話の間には、詩や日記、手紙や招待状なんかも挟み込まれていて、そのすべてが、かわいらしく、楽しくて、思わず笑ってしまいます。
クジラとイルカは、性格も正反対で、大きさも全然違います。でも、違うままにお互いを受け入れて、相手のことをいつも大切に考えています。地上に住んでいる私たちにとっても、ともだちと出会えるのって奇跡みたいなこと。この本を読んでいると、ともだちと一緒にいる奇跡のような時間を、大切にしたいと思えるのでした。
『海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること~』(山と渓谷社)
時折テレビなどでみかけることがある、イルカやクジラが砂浜に打ち上げられたというニュース。
本書の著者・田島さんは、そんなストランディング(座礁や漂着)の知らせを聞くと大急ぎで現場に駆けつけ、解剖調査をしたり、標本採集をする解剖学者。そんな、普通ではお目にかかれないお仕事の様子や、クジラの生態、その死体からみえてくるものを、楽しい筆致で書き記した一冊です。(クジラだけでなく、アザラシやイルカ、ジュゴンのお話も少々。)
田島さんが紐解く、クジラたちの死因や座礁の理由はさまざま。その中には、わたしたちが生みだすプラスチックごみの影響も無視できないよう。クジラの胃の中からプラスチック片がみつかることも珍しくなく、プラスチックに由来する汚染物質によるダメージも深刻なのだとか。
つまり、あんなにも立派なクジラたちが、無惨にも砂浜に打ち上げられた原因は、私たちにあるかも知れない。そんな残酷な事実にも気づかせてくれる一冊です。
『名もなき人たちのテーブル』作:マイケル・オンダーチェ 訳:田栗美奈子(作品社)
船旅って、何だか冒険の香りがしてワクワクしちゃう。大きな海原をポツンと一艘の船が進んでいく様は、遠くから眺めている分にはとってもちっぽけで心もとない。でも船の上には、ひとつの確固とした世界が出来上がっていて、そこにはたくさんのドラマが溢れているのだ。
本書は、そんな船上で繰り広げられる、賑やかで美しい冒険譚。スリランカからイギリスに向かう、11歳の少年の3週間の旅の物語。大型客船の片隅で繰り広げられる、個性豊かで少し変わった乗客たちとの交流、少年たちとのイタズラの数々、はじめての恋の予感、そして謎に満ちた事件。そんな盛りだくさんが、少年の目線から、瑞々しく、そして美しく詩的に描かれていて、うっとりしてしまいます。
そして、そんな壮大を船旅を通過した少年は、もう元の子どものままではいられません。そう、船旅という非日常には、人を成長させ、大きく変えてしまうような魔力が潜んでいるみたいです。
『この星で生きる理由 ―過去は新しく、未来はなつかしく―』佐治晴夫(アノニマ・スタジオ)
途方もない広さ。たやすく向こう側にはいけない遠さ。さびしささえ感じてしまうような深淵さ。宇宙を前にして抱く「圧倒される感じ」は、海を前にして抱く気持ちとよく似ている気がします。
この物理学者・佐治晴夫さんの科学エッセイは、まさにそんな宇宙の深淵さと、人間の小ささを実感させてくれる一冊です。たとえば、こんなお話。もし月の引力がなければ、地球は常にダンプカーも空中に舞い上がるような大風が吹き荒れる世界になっていた。そしてあまりに風の強すぎるその世界では、地上に音楽も存在しなかっただろう……。そんな壮大な話を聞かされてしまうと、私たちの生きる世界は、なんと奇跡的なバランスの上に成り立っているのだろうと、しんとした気持ちになってしまいます。 この本の根底にあるのは、まさにそんな大きすぎる視点から「私たちはどう生きるべきか」を問い直す姿勢。そこには、目の前の出来事に一喜一憂していたのではみえてこなかった、思いもよらないヒントが散りばめられていて、心がふっと軽くなるのでした。
香川県高松にある新刊の本屋「本屋ルヌガンガ」は、あなたの「馴染みの本屋」になれますようにと、そっと街にも人にも寄り添ってくれる存在。ちょうどいいサイズの店内で、店主セレクトの本を眺め、併設のカフェでゆっくり本をたのしめる。トークショーや読書会など、本にまつわるイベントも開催されている。