みなとラボ通信
Read the Sea vol.21
2023.07.21
『日本の村・海をひらいた人々』宮本常一(ちくま文庫)
一説に、日本地図をつくった伊能忠敬よりも日本を歩いたといわれる民俗学者の宮本常一。自分の目でみて感じたことを軸に考察していく彼の手法には、フィールドワークに根ざした揺るぎない説得力と、訪れた土地土地に暮らす人たちへの思いやりが端ばしから垣間みえるのですが、そんな常一さんが子どもたちのために記したのが本書となります。
前半は日本の村について書いてあり、たとえば「屋根」一つとっても、雪が多いところと少ないところとではその形がどう異なっているのか、必ず理由があって違いが生じ、定着したのだと絵入りでわかりやすく示されています(屋根の他、畑や墓などについても)。
後半は海に生きる人々についてで、海流も獲れる魚も異なる様々な「海」が各地にあって、道具(船や漁具など)も生活スタイルも、それぞれの場所にふさわしい形で発展していったのだと、読むうちにだんだんわかってくるのです。「海」って一つではないのだなぁ!
ということは、村をつくるのも海をひらくのも結局は同じで、大事なのはよりよい暮らしのために、互いに協力して生きていくことなのだと気づかされるのでした。
『シャーンドル・マーチャーシュ 地中海の冒険』〈上下巻〉著:ジュール・ヴェルヌ 訳:三枝大修(幻戯書房)
『十五少年漂流記』や『海底二万里』といった子どもから大人まで楽しめる「海×冒険小説」でも名高いジュール・ヴェルヌの、大人にこそ読んでほしい小説が本書です。本文は二段組かつ上・下巻と相当ボリューミーですが、全部で五章のどの部にもクライマックスがあるといってよいほどで、ページを捲る手が止まりません! 童心に戻って心から物語を楽しめることうけ合いです。また、面白いのに地中海の地形やヨーロッパの歴史の一端などが、(虚実入りまじりながら)わかるところも儲けもの。
ところで本書は幻戯書房(注)から「自分にとっての古典を見つける!」を合言葉に刊行が始まった「ルリユール叢書」に収められているのですが、「大人にこそ」と思う理由はその造本にもあります。どの巻もそれぞれに、内容を現した美しき「三色カラー」になっていることがこのシリーズの特徴で、手に取りたくなる大きさや紙質も素晴らしく、多くの本を紐解いてきた大人にこそおすすめしたくなるのでした☆
注:角川書店の初代社長の娘、故・辺見じゅんが設立した出版社
『海に住む少女』著:シュペルヴィエル 訳:永田千奈(光文社)
西條八十や堀辰雄といった数多の作家たちにも愛された、フランスの詩人・シュペルヴィエル。本書に収められているのは彼の「詩」ではなく「物語」なのですが、どの作品にも「物語詩」といいたくなるような、冷徹な詩人の眼差しと独特な言葉遣いとが感じられます。
特に表題作の「海に住む少女」は、「かなしい」という気持ちを、ひたすら純度を高めるべく煮詰めて濾過して固めたら、こういう物語になった!みたいな印象があります。不純物がすべて抜け切ったあとの「かなしみ」には、同時に透き通った美しさも生まれています。透明にみえて深くなるほどに青み(=ここではかなしみの色)を帯びていく。まるで海の色を彷彿とさせます。加えて、物語においての時間は無情にも止まり続けているのですが、それは良いでも悪いでもなくただそこに在り続ける「海」の姿のよう。
美しくって不可思議で、かなしい。しかし、このどうしようもないかなしみを知るからこそ、背中合わせで愛する人とともに生きる喜びもまたわかるのだと、詩人の言葉は伝えてくれるのでした。
『愛書狂の本棚 異能と夢想が生んだ奇書・偽書・稀覯書』著:エドワード・ブルック=ヒッチング 訳:高作自子(日経ナショナルジオグラフィック)
2002年に「現存するありとあらゆる紙の出版物を電子書籍化することを目的」に計画された「グーグル・ブック・イニシアチブ」のコード名が「プロジェクト・オーシャン」であるように(本文から抜粋)、『言海』という名の国語の辞書があるように、ときに、たくさんの書物や言葉は「海」にたとえられることがあります。『愛書狂の本棚』には、まさに海の果てしない広さを感じさせてくれるような、「世の中にこんな本があったとは!」と叫びたくなるような、まるで見知らぬのに確かに実在した「奇書・偽書・稀覯書」が、次から次へと出てきます。ページを捲るごとにその膨大な情報の波が押し寄せてくるため、なんなら溺れてしまいそう!
なかに一冊、海と密接な関係を持った稀覯本(たくさんの宝石が埋め込まれた詩集で、まさかの話、タイタニック号と一緒に沈没!)も紹介されてはいるものの、徹頭徹尾とにかく本の話のみだというのに、読後にはまるで大海原での大冒険を終えて帰ってきたかのような心持ちになっているのでした☆
「本」それすなわち自分の人生を豊かにしてくれるようなもの!という考えをもって、兵庫県の古民家をリニューアルしてつくられた本屋。店名の「本は人生のおやつです!!」には、お客さまにとっての「ごはん」すなわち「主食」は、あくまでも「人」であってほしいから、「本」はあくまでも「おやつ」という思いが込められている。愛着をもって「本おや(ほんおや)」と呼ばれている。