みなとラボ通信
Read the Sea vol.22
2023.07.28
『しんぴんよりもずっといい:リサイクルのおはなし』文:ロバート・ブローダー 絵:レイク・バックリー(パタゴニア)
チリの海で遊んでいたイシドラとフリアンの耳に聞こえてきたのは、捨てられた漁網に絡まったアシカの鳴き声でした。海の友だちを助けたふたりは、この網をどうしたらいいか考えます。そして、巣をつくっていた鳥の助けを借りて、それをもう一度役立つものにリサイクルします。それは、「しんぴんよりもずっといい」ものでした。
アウトドア衣料品会社のパタゴニアが、子どもたちに問題を投げかける初の絵本。ここで描かれているのは、海洋汚染という人類の課題であり、自然との健全な関係の築き方であり、子どもであっても選択することで未来を変えていけるということです。
わたしが暮らす島でも、浜辺に捨てられた釣り針を飼い犬が口にしてしまったり、漁師さんの網に魚よりも多くゴミがかかったり、海洋汚染の問題は尽きません。子どもたちが考えるきっかけになるとともに、おとなも向き合っていかなければならない課題と、課題に向き合う姿勢を捉えた一冊です。
『海の辞典』著:中村卓哉(雷鳥社)
「海にまつわる素敵な言葉」をうつくしい海中写真とともに綴った、みて楽しむ辞典です。波の名前や海に由来する季語だけでなく、海の色、音、風など感覚的なことから、海を使ったたとえ、海にまつわる大切な言葉まで、四季折々の海の写真とともに紹介する一冊です。
ページを進んでいくと、身の回りのあらゆるところに海をルーツとする言葉があることに気づきます。地球の7割が海であり、海に囲まれた島国で暮らしているわたしたちは、知らず知らずのうちに海とつながって生きているのだと実感させられます。わたしたちは、海とつながり、海によって生かされている。その思いは、四国の島へ移住してさらに身を持って感じられるようになりました。
ページをめくるたび、うつくしい海の写真が広がり、おだやかな海を漂っているかのような心地よさで包み込み、癒してくれます。そしてまた、海にまつわる言葉を知ることで、海をみるときの解像度がぐっとあがります。
『しま』作:マルク・ヤンセン (福音館書店)
大荒れの海で、大破した船。乗っていた男の人と女の子と犬は、大海原で遭難してしまいます。彼らがなんとかたどり着いたのは、ちいさな「しま」。でも、そこはカメの甲羅の上でした。
文字のない絵だけで紡がれるうつくしい絵本です。天気や時間、場所によってさまざまに表情を変える海。そして、生き生きと描かれた、カメと海の生きものたち。それはまさに、1秒たりとて同じ瞬間のない、海の世界そのもの。ページをめくるたびにあらわれる海の鮮やかな色彩と、どこまでも広がる海を感じさせる奥行きに、はっとします。
文字がないからこそ、ものがたりは無限に広がります。男の人と女の子、犬、そしてカメをはじめとする海の生きものたちは、どんなことを考え、どんな言葉を交わしているのだろう。波音や風の音はどんなだろう。おとなも子どもも一緒になって海の世界を想像し、ものがたりを紡いでいけば、その人だけ、そのときだけのものがたりが生まれます。
『八月のフルート奏者』著:笹井宏之(書肆侃侃房)
笹井宏之第三歌集。佐賀新聞の読者文芸欄に掲載されたすべての歌と、掲載されることなく未発表だった歌を含む、395首が収録されています。
アスパラの冷えゆくシンク 排水の果てなる海に嵐来るらん
八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり
春の海深くにしづむ花瓶より魚ひと家族あらはれいでぬ *
笹井さんの歌は、やさしいあたたかさとともに、どこかひんやりとしたしずかさを湛えているように思います。それは風のようで、水のようで、おだやかな海のようでもあります。
どこまでも青く透き通ったうつくしさ。いのちを生み出し包み込むやさしさとあたたかさ。ときに肌を刺す鋭さと冷たさ。慈愛も畏怖も内包して、静かにただそこにある海。浸した足と海水の境目がだんだんと曖昧になるように、笹井さんと読む人の暮らしが溶け合うように、ひたひたと染み込んでくることば。
笹井さんが紡ぐ三十一文字からは、寄せては返す波の音が聞こえてくるようです。
*引用部 上から P 27、P65、P124
愛媛県今治市、しまなみ海道の端にある大島に移住し、本と珈琲と宿の店をオープン。古民家を改修してつくった店内には、新刊・古本・リトルプレスなどが並び、自家焙煎珈琲豆の販売や喫茶も併設。さらに、1組限定、貸切の素泊まりの宿としても利用できる。