みなとラボ通信

Read the Sea vol.23

Books&Cafe コトウ/小島雄次

2023.08.04

さまざまな選書者が「海」をテーマに選書をする連載企画「Read the Sea」。vol.23は福島県にある本屋「Books&Cafe コトウ」の小島雄次さん。

子どもに読んでもらいたい「海」に関する本

『うみのむこうは』著・絵:五味太郎(絵本館)

海の向こうには何がある?誰がいる?目の前に広がる大きくて広い海の向こうはどうなっているの? 

海を通して、子どもの持つ無限の想像力を掻き立てる絵本です。“分からない”の先は可能性だらけ。良いことも悪いことも、楽しいことも辛いことも、好きな人も嫌いな人も、何でも待っているかもしれない。何も待っていないかもしれない。分からないから想像する、とても豊かで楽しいことですね。

本文の中に“海の向こう側とこちら側”という表現がありますが、それは、僕らの住む世界のあらゆる境界線をも表しているように思えます。こちら側で勝手に想像しているように、あちら側でも勝手に想像しているかもしれない。海はこちら側とあちら側と世界を分ける大きな境界になっているのでしょうか、海があるから世界がつながっていられるのでしょうか。僕は後者であると信じたいです。そもそも境界なんてどこにもないのかもしれません。

海の向こうはどうなっているの?小さな子どもの方が真理を答えてくれるかもしれないですね。

大人に読んでもらいたい「海」に関する本

『愉快のしるし』著:永井宏(信陽堂)

美術作家・永井宏さんによる956編の言葉。湘南・葉山にあるショップの通販カタログに掲載されていた短い文章ですが、商品の紹介文ではありません。「ひとりひとりの暮らしが表現になる」という永井さん自身の言葉を体現するように、海辺に暮らし、日常を大切にしているからこそ生まれてきたであろう言葉が心地よいリズムで綴られています。水平線・砂浜・波・海岸・灯台・ヨット・サーフィンなど海にまつわる話や、海辺の町の何気ない光景と、そこで暮らす人々の日常の描写からは、海の匂いがツンと届きます。海に関係のない話も多いのですが、この本全体から海を感じるのは、永井さんの生活や思考の根底に、きっと海が存在しているからではないだろうかと勝手に想像しています。

何も感じず考えずにいれば埋もれてしまいそうな日々の暮らしのなかの機微を、しっかり受け止め愉快に暮らす。生きるってそういうことじゃない?ということも優しく教えてくれます。

自分にとっての「海」に関するお気に入りの1冊

『フィオナの海』著:ロザリー・K・フライ 訳:矢川澄子 (集英社)

どれだけ年を重ねても、海に行くたび、その美しさに心躍ります。東日本大震災では、海の恐ろしさをイヤというほど感じました。美しさと恐ろしさ、その相反するような姿をもつ海をどう受け止めたら良いか迷うときもありましたが、美しいものは美しい、といまは思っています。

美しさと恐ろしさだけでなく、優しさ、神秘、不思議、安心感、生命の力、海の持つ様々な顔・姿を感じられるのが、この本です。

美しい島で生活していた10歳の女の子フィオナ。家族も住民も皆、島から離れる日が訪れます。街暮らしに馴染めないフィオナと、島への想いを抱えたままの祖父母。島を離れる日、弟は海に消えていった。フィオナと従兄弟のローリーは祖父母と島に戻る作戦を考えますが、そんなとき、弟の姿が……。

帰りたいのに帰れない場所や、ふるさとへの想いからは、どうしても震災のことが頭をかすめます。ファンタジーと現実の“あわい”の世界の物語にドキドキワクワクしながら、人間の持つ原始的な感覚を揺さぶられるのは、きっと海の物語だからなのでしょう。

海は出てこないが「海」を感じられる1冊

『よあけ』作・画:ユリー・シュルヴィッツ 訳:瀬田貞二 (福音館書店)

静まりかえる夜の湖。木の下に眠るおじいさんと孫。生きものが動き出し、ゆっくりと夜が明けていく。たったそれだけのお話。決して派手ではない絵にシンプルな言葉、ほぼ起伏のない物語、それでも心にじっくりと沁み込む。これでも成立するのが絵本、これぞ絵本の力、ということを教えてくれる1冊です。

湖が舞台の「よあけ」に何故、海を感じるかというと、僕が生まれ育った土地は山に囲まれた盆地で、僕にとっての海は、ずっと猪苗代湖という湖でした。夏は海水浴ではなく湖水浴。初めて海をみたのは小学校6年生の修学旅行です。そんな個人的な感覚の話なのですが、湖をみれば海を感じ、逆に海をみても湖が思い浮かびます。
湖から海を、空から海を、山から海を、宇宙から海を感じる、様々な感覚の方がいるでしょう。何かをみて、感じて、別のものに到達できる人間ってすごいですよね。その感覚と想像力を磨けば、この世界はもっと温かいものになるんじゃないかなぁと思います。おっと、湖から海を越えて世界につながりました。

この活動は日本財団の助成により実施しています。

選書・文:
「Books&Cafe コトウ」小島雄次

福島県福島市にある古本と新刊本を扱う「Books&Cafe コトウ」。その名の通り店内は喫茶としての利用も可能。店内には「こけし」も多数並び、買取も行なっている。

住所:
福島県福島市宮下町18-30
営業時間:
11:00-19:00(水~月)
定休日:
火曜日
https://www.instagram.com/kotou.books.cafe/