みなとラボ通信
Read the Sea vol.35
2023.12.13
『無人島に生きる十六人』須川邦彦(新潮社、2003年)
明治31年、日本の帆船「龍睡丸」が南太平洋の珊瑚礁で座礁した。16 人の乗組員たちは、小さなボートで何もない珊瑚礁の孤島に避難する。そこから、彼らのユニークなサバイバル生活が始まった!
珊瑚礁の島では井戸も掘れない。飲み水をどうやって確保するか?食べ物はどうやって獲る?海亀やアザラシたちと交流をしながら、明治時代の日本人たちは協力しあって孤島で生きていく。漂流記というと、壮絶で悲壮感の漂うものが多い中で、本書は全編を通して明るく、試行錯誤と工夫で問題を乗り越えていく姿が清々しい。
16人の乗組員たちは、どうなったのか?子どもたちだけでなく、大人が読んでも感動間違いなしの、史実を元にしたノンフィクション漂流記。
『BOUNDARY|境界』竹沢うるま(青幻舎、2021年)
世界を旅する写真家、竹沢うるまによる「境界」をテーマにした写真集。かつて竹沢は、3年半をかけて世界103カ国を撮影しながら旅した。灼熱の熱帯地方から極寒の北極圏。大都市から密林の奥深くまで、地を這うようにその土地ごとの空気を写真の中に収めてきた。竹沢うるまは、空気を撮る写真家だと私は思っている。
大気や海は、自由に地球を移動していく。しかし、私たち人間は国境、人種の違い、宗教の壁、経済格差、あらゆる「境界」をつくり生きている。 竹沢うるまの写真には、人間もまた地球の一部であり、土地の空気を醸成する自然の中のひとつの構成物に過ぎないのだという謙虚な現実が写っている。現代社会の常識や複雑な価値観の中に埋没した人々に、新たな視座を与える良質な写真集。
『エンデュアランス号漂流記』著:シャクルトン,アーネスト 訳:木村 義昌/谷口 善也(中央公論新社、2003年)
人類初の南極点到達が果たされた3年後の1914年、英国の探検家シャクルトンは「南極大陸横断」という人類未踏の挑戦を目指した。総勢28名が乗り込んだ探検船エンデュアランス号は、南極大陸の上陸手前で厚い海氷に捕まり、やがて氷圧に押しつぶされるように沈没。探検隊は船を失い、海氷上に投げ出された28名は、隊長であるシャクルトンの指揮の下、壮絶な行程の末に全員生還という奇跡の脱出劇を繰り広げることとなる。揺れ動く海氷上を彷徨いながら、決死の漂流記は読む者を圧倒する。 極地での冒険を行う私自身、本書は何度も読み返した極地探検記の名著。危機的な状況の中でもユーモアを忘れず、お互いに信頼感で結ばれた隊員たちの絆は、感動を覚える。あらゆる人にお勧めできる、驚異の実話。
『眼窩裏の火事』諏訪敦(美術出版社、2023年)
写実絵画の旗手と謳われる、画家の諏訪敦による作品集。綿密な取材を通し、描く対象の内面までを絵画の中に顕そうと試みる諏訪の手法は、ドキュメンタリー的な写実絵画であるとも言われる。
かつて、写真の登場とともに絵画の価値は写実から抽象に移行し、日本の美術界においても写実絵画は時代遅れの手法と言われてきた。しかし、その美術界にあって諏訪は学生時代から写実絵画の可能性の拡張を試みてきた。それは「私は視るという知覚の拡張を試みる。」という諏訪の言葉に表れている。
本書では、写実絵画の中に諏訪の主観や心象も描き込まれる。描く主体、対象としての客体、それらを渾然一体として絵画の中に溶け込ませようとする諏訪の姿勢は、海のように広く、深く、常識も既存の価値観も飲み込んでいく。
この活動は日本財団の助成により実施しています。
北極冒険家である荻田泰永が新しい冒険の拠点として設立。旅と冒険と本を通して世界への扉が開くような場所として、子どもから大人まで広く開かれた書店。