みなとラボ通信

Read the Sea vol.36

いか文庫/粕川ゆき

2024.01.19

さまざまな選書者が「海」をテーマに選書をする連載企画「Read the Sea」。vol.36は店舗を持たない本屋「いか文庫」の粕川ゆきさん。

子どもに読んでもらいたい「海」に関する本

『プラスチックのうみ』作:ミシェル・ロード、絵:ジュリア・ブラットマン、訳:川上拓土(小学館、2020年)

この絵本を初めて見たとき、瞬間的に「なんてきれいな表紙!」と思ったのですが、よくよく見ると、子どもたちが乗った船と、その周りにプラスチックゴミが大量に浮かぶ海の情景が描かれている……。そして、1ページ目に書かれた「ごみです。ぼくたちがすてたごみです。」という一文。次のページには「さかなです。ぼくたちがすてたごみのなかでおよぐ、さかなです。」と続きます。さらに、魚を食べたアザラシ、アザラシに絡まる網、網を捨てた漁船、漁船を揺らす海を泳ぐウミガメ、ウミガメに引っかかるビニール袋、そのビニール袋を捨てたのは人間……と、現実を突きつけられます。

エコバッグが必需品になったことをはじめ、昔に比べるとゴミ問題への意識はだいぶ高まっていると感じます。でも、買い物をすれば必ず付いてくるプラスチック製品。収集場には分別されていないゴミ袋。それらに接するたび、まだまだ足りていないとも実感します。ほかにできることは?自分が意識的になるだけじゃなく、身近な子供どもたちにこの絵本を読んであげることも、その一歩だと信じて始めたいと思っています。

大人に読んでもらいたい「海」に関する本

『8月のソーダ水』コマツシンヤ(太田出版、2013年)

さまざまな漂流物がたどりつく、とある海辺のとある街を舞台にした物語。ここに住む女の子が、海辺で拾ったバイオリンを持って海辺を散歩するシーンから始まります。歩く灯台と一緒に出かけたり、海の底にある都市からやってきた女の子と出会ったり、いわゆるファンタジーの世界なのですが、だからこそ大人に読んでほしいマンガ。現実世界にちょっと疲れているな、というときに、空想の世界に想いを馳せてほしくて選びました。それに、フルカラーで細かく描き込まれた絵本のような本でもあるので、一度読み終えたら今度は、子どもたちと一緒に絵を楽しんだり、読み聞かせたりするのもいいかもしれません。

青や水色を基調にしているので、読むと涼しい気分になれるという点では夏に読みたくなる1冊なのですが、このコメントを書いている冬に読むのもいいなと、今回新しい発見がありました。冬の澄んだ青空を見上げたときの清々しい気持ちと読後感が、ちょっと似ている気がします。

自分にとっての「海」に関するお気に入りの1冊

『バー・オクトパス』スケラッコ(竹書房、2020年)

海の中にある小さな酒場、バー・オクトパスがマンガの舞台。様々な海の生き物たちが集うこのお店のマスターは”タコ”です。語り手である人魚の女の子は、仕事帰りに寄っては薄めのハイボールを注文して、無口で聞き上手なマスターに日々の出来事などを話し、心地よい時間を過ごします。なぜこの物語が私のお気に入りかというと、人魚さんと同じく、強くないけれどお酒の味が大好きなこと。だから余計にこのバーのお酒が美味しそうにみえるし、このお店に行ってみたい!と思うからです。穏やかで、でもちょっとお茶目なところもあるマスターの人柄や、流れている音楽、個性豊かな常連さんたち。自分にもこんな場所があったらなぁと想像しながら読むたび、ほろ酔い気分に浸るような、海にたゆたうような、ぷかぷかとした幸せな気持ちに包まれます。あと、ネタバレになってしまうので詳しくは言えないのですが、私がいか文庫という名前だからこそ嬉しくなるお話が収録されているのも、お気に入りの理由(余談)です。

海は出てこないが「海」を感じられる1冊

旅をする木』星野道夫(文藝春秋、1999年)

アラスカというと山や森などのイメージしか持っていなかった私は、数年前に実際に訪れて初めて、海とも密接な関係にあることを認識したのですが、この本を読んでさらに自分の浅はかさに恥ずかしくなりました。

「旅をする木」とは元々、生物学者ビル・プルーイットの『極北の動物誌』に記されたエピソード。川辺に落とされたトウヒの種が大木となり、倒れ、ユーコン川を流れてベーリング海、さらに海を漂い極北の海岸へ辿り着くお話です。そこにキツネがやってきて猟師を呼び、最後には暖炉の薪になって……。森と海のつながり、生命のつながり、そして途方もない繰り返しによって自然がつくられているということを思い知らされます。「この本を宝物のように大切にしていた」と語る星野さんの代表作である『旅をする木』もまた、ロマンだけでなく、人間を含む生物が抗うことのできない自然の厳しさを描いているからこそ長く読み継がれているのかもしれません。スピードや効率の良さが重要とされる時代に生きる私たちこそ、太古から連綿と続く自然を顧みる時間が必要なのだと強く実感する1冊です。

この活動は日本財団の助成により実施しています。

選書・文:
「いか文庫」粕川ゆき

お店もなく、商品もないが、日々どこかで開店している「エア本屋」。現在は、店主、バイトちゃん、バイトぱん、バイトもりもり、バイトいもの5人で運営。店主はリアル書店員。書店でフェアを展開したり、年に一度「いか文庫社員100人」をSNSでおこなうなど独自の活動を続けている。

住所:
なし
営業時間:
なし
定休日:
なし
http://www.ikabunko.com