英のデザインスタジオ、gomiのトム・ミードさんに聞くゴミとデザイン【連載:海×デザイン】

2021.03.27

海洋プラスチックや、海面温度上昇など、今や待ったなしの解決が求められる海の問題。そこで私たちは、「海の豊かさを守るためにデザインは何ができるか?」をテーマに、世界各地で海洋問題に積極的に活動するデザイナーたちにインタビュー。第2回目となる今回は、ロンドンをベースに活躍するデザインチーム、gomiのトム・ミードさんにお話を聞きました。

イギリス・ブライトンのデザインスタジオgomiは、現状のルールではリサイクル不可とされているプラスチック廃棄物を溶かして新たな素材にし、マーブル模様が美しいスピーカーやモバイルバッテリーなどを手作業により生産しています。2018年に活動をスタートし、20代半ばのメンバー4人が中心となって運営。近年多くのテック系スタートアップが増えているブライトンでも注目を集める存在です。「海に捨てられるしかない廃棄物の価値を高め、人々に求められるプロダクトにすることで廃棄物は資源なる。製品はリペア、リユース、リサイクルすることで永久に廃棄物にならない循環を作りたい」と創業メンバーでデザイナーのトム・ミードは語ります。その言葉には、ミレニアルズならではの身軽さと海洋問題に対するリアリティを感じます。

デザインスタジオgomi代表のトム・ミードさん。若干26歳。

Q.ご自身について教えてください。
A.ロンドンで生まれ、イギリス北部で育ちました。ブライトンの大学でデザインとクラフト、サステナブルな素材について学んだことから、多くの人が楽しめる、サステナブルでギルトフリーなプロダクトを作りたいと考えるようになったのです。

Q.自身のデザインチーム、「gomi」という名前の由来は?

A.まさに日本語の「ゴミ」です。いつも日本のミニマルなデザインからインスパイアされています。昨年の春に日本に行こうと予約をしていたのですが、コロナの影響で断念せざるを得ませんでした。いつか日本の企業ともコラボレーションできる機会があったらうれしいですね。
Q.現在チームは何人いるのですか?
A.メインとなるのは4人の創業メンバーで、そのほかに今は2、3人のスタッフがいます 。ブライトンはとてもオープンなコミュニティ。フリーランサーのハブになっていて、クリエイティブな人がたくさんいるので、そのネットワークのなかでウェブサイトを作成したり、仕事を頼んでいます。
Q.創業メンバーとはどのように知り合ったのですか?
A.マーケティング担当のパワンと知り合ったのはインスタグラムです。3年前、当時アムステルダムに住んでいた彼から、まだ展示会のためのコンセプトモデルとして作っただけのアートピースだったスピーカー買いたいと連絡をもらったのが始まりでした。まだ実在しなくて、売ることはできないと伝えたのですが、会って話をしたら、アワードに応募して賞金をもらえたら製品を一緒に作ろう、ということになったのです。その2ヶ月後、ファイナリストに選ばれたのでパワンにイギリスに飛んできて! と連絡しました。そして受賞して10,000ポンド(約150万円)の賞金をもらって事業をスタートしました。ファイナンス担当のリシはパワンの元同僚で、エンジニアで最年少のカイルは、僕らのやっていることを見て一緒にやりたいと連絡をくれたんです。会ってみたら彼はとてもおもしろいものを作っていて、ぜひ一緒にやろう!と意気投合しました。

2018年に発表したポータブルスピーカー。現在キックスターターにて再販中。(2021年4月頭まで)

Q.マーブル模様の再生素材はどのように作られるのですか?
A.すべての原材料は、埋め立てや焼却するしかない廃棄物から調達しています。ビニール袋や食品の梱包材など、現在のシステムではリサイクルができないとされているものを、地元サセックス州の企業をはじめ、グローバル企業と協力して回収しリサイクルしています。リサイクル企業で色分けされたゴミのパレットから、それぞれのカラーを作っています。
Q.2018年にポータブルスピーカー、昨年はポータブルチャージャー、2021年2月にはワイヤレスマグチャージャーが発表されましたが、リサイクル素材を使ったテック製品にこだわる理由は?
A.テック産業はサステナビリティという視点で見ると、ワースト産業のひとつです。テック業界でサステナブルなプロダクトを作れると証明すれば、ほかの産業でもそれが可能だということ。まだ未開拓な分野でもあり、サステナブルなテック製品を作りたい、というアイディアからgomiはスタートしました。機能面でも魅力的なものになるよう、専門家と一緒に開発をしています。新作のマグチャージャーは一般的な充電器の倍速で充電ができ、すべてのワイヤレス充電対応デバイスで使えるのです。ポータブルチャージャーは輸出が難しいのですが、マグチャージャーは日本からもオンラインで買うことができます。スマートフォン、ラップトップ、スピーカーなど、テクノロジーと共に育った僕らのライフスタイルにフィットする、環境に優しいものを作りたかったのです。 これまでもこの素材を使いたいという企業や団体とのコラボレーションで、家具や映画祭のトロフィーなども制作しています。それも続けながら、gomiとしてはあくまでテックにフォーカスしていきたいと思っています。

スマートフォンを充電するための「ワイヤレスマグチャージャー」は、日本からもgomiのサイトから購入可能。写真の「バースデーケーキ」ほか、「ブルーオーシャン」「ブラックモノ」の全3色。35ユーロ。

Q.リサイクルシステムの現状についてどう思いますか?
A.世界では毎年、ビニール袋や食品の包装材など、1,500億キロのプラスチックゴミを廃棄しています。プラスチックゴミは世界中の私たちのビーチの汚染の85%を占めており、毎年イギリスだけで3億キロの低密度ポリエチレンが廃棄されています。ビニール袋やラップなど、LDPEと呼ばれる低密度ポリエチレンは、イギリスでも多くの国と同様にリサイクルが認められていません。そのため燃やすか海の埋立地に捨てるしかなくなってしまう。この仕組みを変えたいと願っています。プラスチックゴミを捨てるときには、罪悪感を感じてしまうけれど、それを捨てずに済む仕組みを作り、企業をインスパイアして、社会を変えていきたい。なぜ僕らは必要なものを使って生きているだけで、罪悪感を感じないといけないのか? 廃棄物から作られ、廃棄物にならないものを作ることで、海洋ゴミを減らすことができるはずです。
Q.ブライトンビーチにも海洋ゴミ問題はありますか?
A.ブライトンはロンドンから日帰りで行ける人気のビーチリゾートなので、パーティー後のゴミが問題になっています。自分たちでときどきビーチクリーンをして、拾ったプラスチックゴミを原料にしています。
Q.海洋環境に対してデザインができることとは?
A.海に捨てられるだけ、埋立地に埋めるしかないゴミを、デザインの力があれば美しい素材に変えられます。廃棄物の価値を高めて、人々に求められる製品にすること。また、それが壊れてもできる限り修理をし、最終的に使えなくなっても素材はまたリサイクルできる、そんな風にプラスチック素材が二度と廃棄物になることのない、完全な循環を生み出したい。プラスチックゴミは貴重な資源であり、海に捨てられる必要は全くないのです。それで海洋環境を汚染するのはおかしなこと。どうすればサステナブルデザインを多くの人にとって魅力的にできるか、汚いものから美しいものをつくるマジックについて、もっと知ってもらいたいと思います。


<関連リンク>
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取材・文:
佐藤早苗
編集:
佐藤久美子
協力:
中田由美