コラム

Supercyclers サラ・Kさんに聞く脱消費社会と、太平洋ゴミベルトから生まれた美しいプロダクト

2022.07.25

イベントものづくり環境デザイン

オーストラリア・シドニーを拠点に、サステナブルデザインをテーマとして活動するスーパーサイクラーズ。6月にイタリア・ミラノで行われた世界最大級のデザインイベント、「ミラノデザインウィーク」中に、創設者のひとりであるサラ・Kに会い話を聞いた。自身もデザイナーである彼女は、キュレーターとしても積極的に活動している。海洋プラスチックを再利用した「Marin Debris Bakelite(マリンデブリ ベークライト)」プロジェクトをはじめ、デザイナーたちとコラボレーションをしながら、サステナブルかつ美しいデザインの在り方を探るアプローチを得意とする。常に時代の一歩先を行くアイディアで未来のあり方を提唱している注目の存在である彼女が、現在考えていることとは?

チェルトーザ・イニシアチブの展示「The Presence of Absence」会場で迎えてくれたサラ・K。

待ち合わせをしたのは、ミラノ郊外のチェルトーザで行われていたCertosa Initiative(チェルトーザ・イニシアチブ)。以前はランブラーテ地区で行われていたVentura Lambrate(ヴェントゥーラ・ランブラーテ)の流れを汲み、オランダ系のデザイナーが多く集まる展示会場だ。ここで彼女は「the presence of the absence」と題した展示をしているというが、インビテーションには情報がほとんどなく、一体どんな展示なのだろうと思いながら現地に向かった。メインの展示会場を抜け、小部屋が並ぶオフィスゾーンへ。「The Near Future」とプレートに書かれた部屋の前で彼女に落ち合うと、まずは中へ入るように案内された。

小さなオフィスの部屋の中は空っぽで何もない。もしかして手違いで展示品が届かなかったのだろうか?と思い、サラに困惑の表情を向けると、窓に書かれたテキストを読むよう促される。「この部屋は近未来です。ここでは物が無いことが好まれ、物質主義は終焉を迎えました。2022年、世界はものづくりの飽和状態に達したのです」と書かれている。さらにこの部屋を立ち去る前に、物欲から解放され、消費社会から脱することを目指して欲しい、来場者はこの可能性のある未来について考え、その実現に貢献するよう求められるという仕組みだった。なんとも衝撃的な「The Presence of Absence(不在の存在)」。デザインウィークで次から次へと発表される新作を見続け、消化不良気味になっているところへ、強烈なパンチで目が覚めたような気持ちにさせられた。

「歯磨き粉など生活に必要な消耗品は除いて、もう3年間ショッピングをしていない」というサラ。今日着ているドレスは古いものなのかと尋ねると、以前友人が作ってくれたものなのだそうだ。本当はそれほど多くのものは必要ない、という事実を自分自身の生き方でも体現している彼女。前置きが長くなってしまったけれど、スーパーサイクラーズの成り立ちや、海洋プラスチックのプロジェクトについてもその場で話をしてくれたので、以下にご紹介したい。

Q スーパーサイクラーズの成り立ちについて教えてください。
A 2011年のミラノデザインウィーク期間中、サステナブルデザインに対してモダニストの視点でアプローチするため、スーパーサイクラーズをローンチしました。その年はできる限りの展示会場を巡り、このテーマに相応しいデザイナーを探し回ったのです。そして翌2012年のミラノで開催した「SOS Supercycle Our Souls」展では、新聞紙を圧着して固めた「Newspaper Wood」や、使い捨てのビニール袋を使ったテーブルウェア「Ghostware」などを発表し、多くの注目を集めました。今でこそミラノデザインウィークでもサステナビリティが声高に叫ばれていますが、この当時は誰もそのようなことを訴えてはおらず、これはサステナビリティとデザインについての初めてのエキシビションだったと思います。

Q 根幹となるアイディアはどういったものだったのでしょうか?
A  デザイナーは問題解決をするための訓練を受けていますから、最大の問題に取り組むのが私たちの仕事であるべきです。今日の環境問題の多くは、先見性の欠如、つまり、解決策の影響を深く考えずに、近視眼的に解決策を見出すことによって引き起こされています。私たちはすべてのデザインソリューションがサステナビリティを当たり前のこととして、配慮に満ちた方法で未来を組み込む方向に変わっていくことを望んでいます。

「Marin Debris Bakelite」シリーズ。左の「Marin Debris Bento Box」はシドニーのアンドリュー・シンプソンとサラのデザイン、「Marin Debris Cup」はカースティ・ヴァン・ノートによるもの。

Q「Marine Debris Bakelite(マリン デブリ ベークライト)」プロジェクトについて
A オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の海岸で、太平洋ゴミベルトから流れ着いたプラスチック破片を回収している団体があるのですが、彼らは私たちが出会った当初、回収したプラスチックゴミを内陸部に運んで焼却していました。リサイクルセンターに持って行くと、とても高くつくからです。彼らが回収したものを買い取り、その素材を使って何かを作ろうと決めたのです。
デザイナーのアンドリュー・シンプソンと「マリン デブリ ベークライト」を開発していったのですが、初めの頃は集めたプラスチックゴミすべての色が混じってグレーやブラウンで、とても美しいとは言えないものでした。そこで世界初の人工プラスチックでかつて多くのものに使われたベークライト(フェノール樹脂)のように、「美しく魅力的で、適度な重さを感じられるプラスチック素材を作る」というテーマを設定したのです。
まず、素材となる海洋プラスチックを色別に仕分けてもらい、それを混ぜることで大理石のような表情が生まれました。そしてビーチで素材を集める時に赤いものは赤い袋、青いものは青い袋というように色別に回収することで、作業はずっと楽になるということに気づいたのです。

実際にカップ制作に使われた、浜辺のプラスチックゴミの数々。私たち日本人に馴染み深い、魚型の醤油入れも。

この素材で最初に作った製品は、アンドリューと私のデザインした「Marine Debris Bento Box」。2015年に東京デザインウィークで発表しました。そして次に、オランダのカースティ・ヴァン・ノートにデザインを依頼し、できあがったのが「Marine Debris Cup」です。私は彼女の陶器のカップが好きだったので、最初のコラボレーションは彼女にと決めていました。彼女の陶器のカップとは異なるデザインアプローチですが、適度な重みを感じることができ、使いやすくとても機能的。生産を重ねるごとに色味もどんどん美しいものになっていっていると思います。

カップ裏面。100%ゴミから作られたとは思えない美しいマーブル模様で、カースティ・ヴァン・ノートのカラーリングはさすが。

Q 次のコラボレーションの予定などは決まっていますか?
A「Marine Debris Bakelite」は素材なので、これからももっと多くのデザイナーにデザインをしてもらうべきだと思っています。現在はジャスパー・モリソンとのボウル、フォルマファンタズマとのプレートを準備中。「Marine Debris Cup」も日本でもいくつかのセレクトショップで扱っていたものの、現在は在庫を切らしています。次世代のシリーズとともに、再生産に向けて設備を整えているところなのです。イノベーションを起こせるように、いろいろな方法でサステナビリティにアプローチする方法を探ることが私の信条。急がずゆっくりと、ビジネスとして回していけるプロダクトを作っていきたいと思います。

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スーパーサイクラーズがプロデュースするアイテムは、どれもサスティナブルであることはもちろん、それを抜きにしても欲しいと思わせる美しさを備えている。彼女はこれまでのリサーチをもとに、オンラインでサスティナブルについての考え方を学べるコース「サスティナブリスト マスタークラス」も公開している。さらに7月30日(土)に開かれる国際海洋環境デザイン会議にも参加予定。ぜひ生で彼女の話を聞いてみて欲しい。

文:
佐藤早苗