コラム

神奈川県相模原市

子どもの発達を支援する「ムーブメント」〜手づくりの海で遊ぶ

2015.10.19

ものづくりワークショップ海洋教育海洋デザイン教育

子どもの自主性や発達を支援する保育士の岡部真由子さん。岡部さんが働く、神奈川県相模原市にある児童発達支援・放課後等デイサービス「すりーぴーす」ではムーブメントというプログラムを行っています。その様子を、ご本人から伺いました。

「動く」ことで、子どもの発達を支援するムーブメント

私は現在、神奈川県相模原市にある児童発達支援・放課後等デイサービス「すりーぴーす」でグループ支援担当の保育士をしています。すりーぴーすでは、こども、家族、支援者の三者が楽しく能動的に動ける支援を行っています。その活動の一環で、週に一度グループ支援を行っています。
グループ支援では、こども、家族、支援者が希望する様々な活動を実施していますが、その中に「ムーブメント」というものがあります。これは子ども(対象者)の自主性, 発達性を尊重しながら、子ども自身が「動く」ということを学び、その動きを通して、「からだ(動くこと)」と「あたま(考えること)」、そして「こころ(感じること)」の発達を支援していこうとする教育・療法です。このムーブメント療法の理念を軸に、すりーぴーす流にアレンジしながら、からだの動きを感じて遊ぶプログラムを行っています。
毎回、「お空であそぼう!」、「遊園地にいこう!」などのテーマを1つ設定し、ストーリーやコーナーを作って2~6名ほどの少人数で身体を動かしながら遊びます。テーマやストーリーを決めると、子どもや保護者、そしてスタッフの中でイメージが共有され、想像性や動きを引き出しやすくなるというメリットがあります。そこで、以前はみんなでイメージを共有しやすい「海」をテーマにしたムーブメントを行いました。

手書きのイラストでムーブメントのイメージを膨らませていきます

手づくりの海であそぼう!

実際の海に行くのではなく、普段から療育を行っている部屋でプログラムを行います。そのため、 イメージの共有を促せるよう、テーマに沿った装飾を部屋に施します。

一方で、あまりにも部屋の様子が変わってしまうと、慣れた場所のイメージと違うことを不安に感じてしまうお子さんもいるため、あまり派手にしすぎないことも重要です。そこで、不安を感じさせない程度に、でも、楽しんでもらえるような仕組みにするため、おもちゃや装飾もできるだけ手作りにしています。

手づくりで制作された海の生き物たち

今回参加してくれたお子さんは、遊具で遊ぶ時に下から上を見上げる体勢になることが多かったため、自作したくらげや魚のおもちゃをぶらさげることにしました。くらげは細いゴムで吊るしているので、下の部分を引っ張って離すと、ぴょんと上に飛び上がります。魚はラミネートで加工し、光に反射してささやかにキラキラするような仕掛けにしています。

また、プログラムの随所で流す音楽も流すようにしています。海を用いた子ども向けのアニメ・映画にディズニーの「リトル・マーメイド」や「崖の上のポニョ」などがあります。以前勤務していた保育園でも親子に人気だったので、この2つの映画のテーマソングをいくつかの場面で使いました。こういった音楽は世界観を共有するのにとても役立ってくれます。

また、ビー玉やプラスチックの球、手芸用ペレットなどを箱に入れ、揺らすと波の音のように鳴るようにしました。大きな箱を使うため、保護者やスタッフと一緒に箱を持ち、上下左右にゆっくり、または早く傾けたりして、音の変化を楽しめるようになっています。あるお子さんが遊具で遊んでいる間に、他のお子さんがこのおもちゃで音を鳴らす。気がつくと波の音が空間中にひろがるBGMになっていき、海の世界が自然と生まれていました。

「海」という共通項で、共に物語を創造する

波の音ボックスの中身。玉の大きさを変えることで落ちるスピードに差ができ、波の音に近付く

微細な動きよりも大きな動きの方が感じやすいお子さんや、分かりやすい色や形、大きさのものを使った方が伝わりやすいお子さんがいます。そういったお子さんの 「触ってみたい」、「動かしてみたい」という気持ちを引き出そうする時、「海」のような音、視覚、動き、その他色々な刺激が含まれるテーマは、こうしたプログラムに適していることを感じました。

特に「海」は、現実で体験できる自然の部分とファンタジーの部分、その両方を持ち合わせることができるので、経験したことのある刺激を使って、物語を一緒に創造できるという魅力もありました。

(いつも使っている「スパイダー」「スイング」も,海バージョンに変身します)

1回のプログラムは45分程度ですが、みんなで身体を動かしているのとあっという間に時間が過ぎていきます。そして、共有されやすいテーマであるほど、こども・保護者・スタッフも夢中でその世界に没頭できるので、そういった意味でも「海」のようなテーマは親和性が高いのです。「海」から連想できるキーワードはたくさんあり、そこから様々な展開を考えられるでしょう。今後もいろいろなバリエーションを展開し、楽しい時間と空間を作っていきたいと思っています。

文:
岡部真由子(児童発達支援・放課後等デイサービス「すりーぴーす」保育士)