「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、150をこえる国や地域、そして企業や団体が参加し、最先端の技術や伝統、文化などが紹介される大阪・関西万博。史上初となる海の上が舞台ということもあり、海をテーマにしたパビリオンもたくさんあります。みなとラボでは、海洋環境デザインプロジェクトを共に進めているコンテンポラリーデザインスタジオ we+と共に関連パビリオンへの取材を実施。後編は、海洋資源の持続的活用や海洋生態系の保護に関する展示を行う「BLUE OCEAN DOME」、そして万博のシグネチャーパビリオンから「いのち動的平衡館」と「いのちめぐる冒険」をリポートします。
前編:日本館、スペイン館、ポルトガル館
後編:BLUE OCEAN DOME、いのち動的平衡館、いのちめぐる冒険館(超時空シアター、ANIMA!)
【BLUE OCEAN DOME】地球をたたえる大きな水そして海洋問題と向き合う3つのドーム空間
今回、13ある民間パビリオンの中で唯一、NPOでの出展となるのがゼリ・ジャパン の「BLUE OCEAN DOME」です。ゼリ・ジャパンは、対馬における海洋プラスチックごみ問題への取り組みや、モーリタニアでの漁業支援など、グローバルな視点から持続可能な海の活用を模索してきました。その実践の積み重ねを背景に「BLUE OCEAN DOME」では、未来の海との関わり方を問いかけています。
ゼリ・ジャパンの理事を務めるサラヤの代島裕世氏は、海の課題解決として大きく社会に提示する情報発信装置として、このパビリオン建設にチャレンジしたと語ります。「ビジネスで破壊してきたものは、ビジネスで回復するしかない」と真摯に語る姿が印象的でした。ドーム内では、さまざまな講演やイベントが日々開催されており、来場者の意識に多くのインパクトを与えているようでした。イベント の内容は、YouTube でも見ることができます。
竹ドーム・CFRPドーム・紙管ドームと三つのドームで構成されるパビリオンの設計は、建築家の坂茂氏が担当。環境配慮と革新を融合した仮設建築として注目を集めています。奈良県産の竹は放置竹林問題の解決にもつながり、構造材として強度を増した「ラミネート竹」が用いられています。また世界で初めてCFRPを構造体に採用。軽量かつ高強度の特性を生かし、基礎に杭を打たずに建設できる設計で、解体・移設も容易な構成を実現しています。紙管を構造体に使用したドームCでは、床材に再生紙が用いられていました。
展示空間のディレクションを手掛けたのは、グラフィックデザイナーの原研哉氏。それぞれのドームに「循環」「海洋」「叡智」のテーマが設けられています。ドームAでは、山に降った雨が海へ流れるような水の循環を、超撥水のインスタレーションで表現したスペクタクルな空間が来場者を迎えます。トンネル状の通路を進み、ドームBへ至ると、直径10mの超高精細半球スクリーンにより、海洋汚染と生命の輝きが対峙するリアルな地球の姿が表現されます。最後のドームC「叡智」では、有識者の講演やワークショップ、ドキュメンタリー映像を通じて海の再生に向けた道筋が提示されます。
ドームCのカフェスペースでは料理研究家・土井善晴氏による「海と山の超純水」(540円)が販売されていました。高知の職人が練り上げる海の天日塩と、熊野の山の天然水で仕立てた塩水で、人類が自然を搾取する以前の「生命の源」をイメージした一品。体温ほどの温かさで、ほのかな塩味だけが残る飲み物は、生命に浸透していくようでした。
https://zeri.jp/expo2025/
we+ 猪上気広さんのコメント
BLUE OCEAN DOMEのドームAでは、ししおどしから落ちる水が分かれ、再び一つになって地形を越えていく様子を眺めながら、水の繊細さと力強さ、美しさを体感しました。日常の中で接している水が、地球や海の大きな循環の一部であることを改めて実感しました。ドームBの球体シアターでは、プラスチックと一体化した海の生き物たちの姿が印象に残り、美しい映像だからこそ、その痛ましさが際立っていました。未来の海の姿を具体的に想像できたことで、海洋ごみの問題への意識が強くなりました。海と話そう。というテーマの通り、海の視点そのものと対話したような余韻が残りました。
【いのち動的平衡館】絶え間なくつながっていくいのちのダイナミズムを表現
最後に訪れたのは、大阪・関西万博の顔ともなるシグネチャーパビリオンから、海とのつながりを体感できる「いのち動的平衡館」と「いのちめぐる冒険」。
なおシグネチャーパビリオンとは、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するために、各界で活躍する8人のプロデューサーがテーマごとにそれぞれ展開する「シグネチャープロジェクト」の起点となるパビリオンです。
「いのち動的平衡館」をプロデュースするのは、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)の著者で生物学者の福岡伸一 氏。「動的平衡 」という概念を社会へ哲学的に提示する場として構想されました。 生命発生の初期段階という意味の「エンブリオ(胚)」と名付けられた建築は、一本の柱もない有機的な空間構成で、海から生命が誕生した瞬間を象徴するデザインです。天井を覆う青い膜は自然光を受けて透け、まるで海中から空を見上げているかのような感覚でした。
内部に設けられた立体的シアターシステム「クラスラ 」では、32万球の繊細な光の粒子が自由自在に明滅し、38億年の生命のドラマを体感することができます。絶えず移ろいながらも連続する命の流れの中で、私たち自身もまた束の間の存在であることを思い起こさせ、生命感そのものを問い直す体験となりました。
https://www.expo2025-fukuoka-shin-ichi.jp/
【いのちめぐる冒険】宇宙スケールの食物連鎖をVRゴーグルで体験!
アニメーション監督・河森正治 氏が最先端テクノロジーを駆使し、アーティスト・菅野よう子 氏による音楽と共鳴する体験型空間に「いのちのスペクタクル」と題した6つの作品世界を創出するシグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」。
パビリオンの設計は小野寺匠吾建築設計事務所によるもの。海水で練られたコンクリートパネルを用い、大小異なる立方体が細胞のように連なって構成されています。海水によるコンクリートは、真水の枯渇問題に向き合ったものです。実は今回の万博においても「水」問題に向き合う展示はいくつか見られましたまた、1辺2.4mからなるフレームは、船で運ぶときにも合理的なサイズとなっています。あまり注目はされないものの、これからの時代に避けては通れない問題です。また、1辺2.4mからなるフレームは、船で運ぶときにも合理的なサイズとなっています。環境の回復を目指す「リストラティブデザイン」を謳う小野寺さんのアイデアが活きたものでした。
今回は、その中でも最新の映像・音響技術を融合させた『超時空シアター』と『ANIMA!』の2作品を体験しました。いずれもアニメーション監督・河森正治と世界的音楽プロデューサー・菅野よう子によるコラボレーションで、壮大なスケールの映像と音楽が来場者を包み込み、生命の進化と未来への想像力を感覚的に体験させてくれる内容でした。
いのちめぐる冒険「超時空シアター」では、カメラ付きのVRゴーグルを着用し、からだの中にある海を体験できる内容。生命のミクロとマクロが同時に存在するような空間への没入体験は、自分の中に存在する原始に触れるようで、海と、地球と溶け合うような不思議な感覚でした。
ANIMA(アニマ)とはラテン語で「生命」や「魂」を意味し、アニメーションの語源ともなった言葉です。館内を歩くと床が振動し、動物の声が鳴り響きます。ハプティクスという、足裏からの振動を伝える技術が使われているそうです。至る所に垂れ下がる薄幕や鏡に、細胞や妖怪のようなポップな映像が映し出されました。それは懐かしいようでいて、同時に未来を見るような感覚で、映像と振動、立体音響がこれまでにないイマーシブ体験を生み出していました。
https://shojikawamori.jp/expo2025/
ーーーー 大阪・関西万博レポート(前編)はコチラ ! ーーーー
【万博情報】
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)
開催地:大阪府大阪市此花区夢洲
開催期間:2025年4月13日―10月13日
会場時間:9:00―22:00
入場料:大人(18歳以上)3,700 – 7,500円、中人(12歳〜17歳)2,000 – 4,200円、小人(4歳〜11歳)1,000 – 1,800円
https://www.expo2025.or.jp/
we+ inc.
周辺環境や歴史の調査をベースとするロジカルな思考と、フィールドワークや素材実験を起点とした感性的なアプローチを融合させ、オルタナティブなデザインの可能性を探究し、独自のリサーチ・デザイン手法を実践しているデザイン会社。