連載

宮城県気仙沼市

島にだけある魅力とは?(編集会議・前編)【気仙沼・大島の未来を探るプロジェクトvol.1】

2017.07.10

学校地域ものづくり海洋教育

3710Labは、日本で唯一の島マガジン『島へ。』を出版する海風舎と共同プロジェクトを実施することになりました。 プロジェクト内容は、今冬刊行の『島へ。』(12月号)の特集企画を高校生が執筆するというものです。特集企画の内容についてプロの編集者や専門家との議論を交わしながら、取材・執筆・編集までを高校生が行い、最終的に記事掲載を目指します。 舞台となるのは、宮城県気仙沼市の大島。東北最大の有人離島の大島は、2018年に架橋によって本土と結ばれることになりました。日本における先例を見るに、この架橋によって大島の生活や文化は大きく変化することが予想されます。気仙沼大島大橋の開通を前に、大島の文化や歴史、生活、「島」に住む魅力についてあらためて振り返りつつ、よりよい未来を創造していくことが、いま重要であると感じ、このプロジェクトの実施へと至りました。

第1回編集会議―島にだけある魅力とは?

6月10日、気仙沼市中央公民館にて、5名の高校生の参加のもと、企画開始のワークショップ兼第1回編集会議を実施しました。
3710Lab代表からの挨拶ののち、海風舎の編集者の熊本鷹一さんを講師にワークショップが始まりました。若干の緊張感が漂うなか始まったのですが、熊本さんの軽妙なトークによってすぐに場は和み、テンポよくワークショップは進みます。まずは、熊本さんが作っている『島へ。』の話をきっかけに、「島」そのものの特殊性や魅力について探求していくことになります。

「島のことだけやっている雑誌ってないんですよ。当たり前ですけど。誰が買うんですか?って思うだろうけど、意外と島が好きな人っているんです。そうやって買ってくださっているのは、島のことなら何でも知りたいとか、島のことをもっと知りたいとか、そういう人が一定数いらっしゃる。一定数いるっていうことは、そこには何らかの面白さだったりとか、魅力だったりというのが、島という存在にだけあるのではなかろうかと思うんです。」
多くの人は、島のことだけを取り扱った雑誌があること自体を知らないかもしれません。ところが、島の魅力に気づいた人が一定数いるのだと言います。その人たちが気づいてしまった、島の魅力とはなんなのか。


熊本さんは、全国の島の祭りの開催時期に合わせて全国の島を回り歩いている人、島の郵便を巡り歩いて郵便局のスタンプを押してもらっている人、島の変な魚の写真ばかりを撮っている人のことなど、『島へ。』で連載している作家のことを紹介しました。これらの作家自身が島に魅了されているのだといいます。そしてまた、変な島や奇妙な島など、それぞれに独自の魅力を持つ島が日本には多く存在しているのだと。

そんな島の情報を網羅しているのが『SHIMADAS(シマダス)』(発行・日本離島センター)。まさに島の百科事典のようなもの。残念ながら、2006年から改訂されておらず、現在手に入れようとするとプレミア価格になるくらい人気があるようです。
ところで、日本には島がいくつあるのでしょう。1987年に海上保安庁が発表したところによると、日本を構成する島の総数は6,852。そのうち、有人離島は418、無人島は6430、本土が5。何をもって有人・無人を分けるのかについてはいくつかの判断基準があるものの、国土交通省の発表ではこの通りです。


雑誌を作る―何を伝えたいのか。

島についての概要説明の次は、雑誌作りについての説明です。
今回のプロジェクトでは、高校生に10ページくらいの誌面を作ってもらいます。さてさて、雑誌を作るには何が必要か。高校生に一人ずつ聞いていきます。
「情報収集。」
「実際に訪れて話を聞いてみたり、取材。」
「何を書きたいか考える。」
「レイアウトを決める。」
「原稿を書く。」
「なんで書くのか、目的を決める。」
だいたい必要なことは出てきました。そのうち、まず大事なのはテーマ設定、企画趣旨を定めることだと熊本さんは言います。それがなければ、どのような情報を、どのように集めればいいのかが散漫になってしまうのだと。そのために編集会議が大事であり、編集会議にて企画趣旨を定めたのちに、取材先選定とアポイントという流れになると説明がありました。
次に「表現」することについてです。例えば、インタビュー時の写真を撮るときに、斜め下あたりから煽って撮ると、すこしふてぶてしい印象を与えるなどの事例を交え、「ただただ写真を撮ればいいっていうんじゃなくて、そこにある何を、たとえば人であればその人の何を伝えたいのか。」を考えることの重要性が強調されました。あわせて、取材に行くとき、文章を書くときに、熊本さんが大事にしていること語られました。

「取材に行くときに一番大事にしてほしいのは、何を面白いって思うかっていうこと。取材で人に会ったときに、この人の何が面白いのか、というのを一番最初に考えればいい。自分はどこで一番感動したとか、興奮したとか、なんかテンション上がったとか、そういう気持ちを大事にして、どういうふうに文章を作ればいいのか、何を書いたらいいのかというのを汲み取っていく。」
文章を書く際にも、「美辞麗句で飾り立てるのではなく、本当にそこで何を伝えたいのかということ、それに伴ってどういう表現をするのか、というのを大事にしないといけない」


架橋された島は対象外

さらに「島」そのものについて深めていきます。
まずは「離島振興法」についてです。離島振興法では、離島への税金を下げ、国が一部を補填するという制度があるのだそうです。離島における地域活性化を推進し、定住の促進を図るための「離島活性化交付金」があり、雇用拡大等の定住促進や観光の推進等による交流の拡大促進のための支援制度もあります。
このように島を大事にするのはなぜか。それは、排他的経済水域(EEZ)等の保全、海洋資源の利用、多様な文化の継承、自然環境の保全の目的があります。さらには、広い意味での「国防」ということもあります。

この離島振興法を受けて、各県では離島振興計画を策定します。ワークショップでは実際に、自分たちが住む宮城県の離島振興計画について調べてみました。国土交通省のホームページから該当ページを探し当てます。かなり深い場所に位置していますが、確かに各都道府県の離島振興計画があります。この計画は今後の離島をどうするかという10年間の計画になっており、宮城県の離島振興計画では大島をどうして行くかということについて触れられています。情報収集の際にはこのような公的な情報に当たることが大事であると熊本さんは言います。
離島振興法の対象になるのは、あくまで離島であるため、2018年に本土と架橋される大島は、離島対象外となります。そうするとこれまで受けられていた優遇措置などは受けられなくなります。そのことを考えずとも、橋が架かることで様々な影響が生じることが確かです。いいこともあれば、もしかすると悪いこともあるかもしれない。橋が架かることの影響を切り口に、実際に編集会議が始まりました。
レポート後編「大島の何を残したいか」へ続く。


本プロジェクトは日本財団の助成により実施している事業です。

日本で唯一の島マガジン『島へ。』 海風舎

文・写真:
田口 康大