レポート

日本財団ビル

海洋教育の課題と可能性-海洋教育学会の設立を目指す

2019.08.12

イベント地域海洋教育

2019年7月31日に日本財団ビルで「海洋教育研究会」が開催されました。幼少中高校や大学、教育委員会や水族館、NPO法人など全国の海洋教育の実践者、120名近くが参加し、実践発表やディスカッションを行いました。

大人から子供まで参加する海洋教育の学会を

開催に先立って、東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターの田中智志センター長が挨拶をしました。
この海洋教育研究会は、「海洋教育パイオニアスクールプログラム」の成果報告会とともに、海洋教育に関する学会設立に向けた交流が目的であるとのこと。 海洋教育学会(仮称)は、この海洋教育研究会と東京大学にて開催されている全国海洋教育サミットをベースに、2020年度の設立が予定されています。田中センター長は、大学の研究者だけではなく、海洋教育に関わるあらゆる人、研究者、教育関係者、子供たちが参加する新しい形の学会を構想していると述べ、研究会に参加している先生方への参加を呼びかけました。


海洋教育は沿岸部に限られた実践か?

はじめのプログラムは、パイオニアスクールプログラムの地域展開部門採択校の発表です。
過去にみなとラボでも取材レポートしている、海洋教育の先進地である気仙沼市立大島小学校の発表からはじまりました(参考:【海洋教育レポ】豊かな海を具体的に考える)。
二番目に発表した福島県只見町立只見小学校は、山間部に位置した学校で、海が近くにはありません。会場においても、なぜ山間部で海洋教育なのかという疑問がわいていましたが、山の中だからこそ海側の集落との塩をはじめとした食料や文化の交易が重要であったという地域の歴史を学んでほしいという意図があるということでした。

参加者からは、「海洋教育に取り組む目的は理解できるが、保護者や地域の方に、どのように説明しているのか。どのように理解を得ているのか」という質問がありました。海洋教育の学習活動の際には、保護者に一緒に体験してもらい、子供たちの学びの様子を見てもらうことで、学習の意義を実感してもらう工夫をしているとのことです。その他、山間部であれば化石を教材にした取り組みもできるのでは、という提案もありました。
呉市は、生徒にとっては海は眺めるだけのものでしかなく、少子化により海洋・海事関係の仕事に就く人もいなくなったという課題を背景に、海洋教育に取り組んでいるとのことです。その成果が出てくるのはまだ先ですが、地域の方々には確かな手応えがあるようです。他方で、予算の確保や地域の協力者の高齢化といった課題があり、対応策を模索しているようです。
沖縄県糸満市では、児童生徒だけではなく教員も生き生きと海洋教育に取り組んでいる一方で、教員の異動によって活動が終わらない手立て、活動が一過性に終わらないようにする必要性を感じているようでした。


海洋教育の多様性

次のプログラムは、23件のポスター発表です。学校全体で海洋教育に取り組むための校内体制の作り方や、年間指導計画、開発した教材の発表など、多様な発表がありました。

気仙沼市立面瀬小学校のポスター発表。地域の「うなぎ名人」にインタビューしたり、海と関わってきた地域の人々のくらしにフォーカスした実践が特徴的でした。

気仙沼市立鹿折小学校のポスター発表。海洋教育を「海と生きる探究活動」と捉え、その理念や目標、校内の推進体制、育む力が整理され、参考となる点が多い発表でした。

福岡県立伝習館高校のポスター発表。豊饒の海と呼ばれた有明海を次世代につなぐためにも、生物基礎の授業で海洋環境を取り上げている。授業と部活動の組み合わせも。

三重中学校・高等学校のポスター発表。環境保護の意識を持ってもらうためにはどうしたら良いかを高校生自身が考え、企画・実践した成果の報告はとても興味深かったです。

沼津市立静浦小中一貫学校のポスター発表。小学3年から中学3年までの7年間を通したカリキュラムの報告。体系性について聞いてみたかったです。

君津市立久留里中学校の発表。ウニを一人ひとりが飼育することから、海洋生物と海洋環境について学ぶ学習。Myウニ飼育キットと呼んでいるそうです。


実践者同士の交流の必要性

最後は情報交換セッションでした。8名程度のグループに分かれ、海洋教育を進める上での課題を中心にディスカッションを行いました。日々の活動の共有や課題への解決策、今後取り組みたい活動など様々な意見交換が行われました。

話し合われていた内容はとても多岐にわたっていました。たとえば、海洋教育を一人の教員の取り組みにするのではなく、地域や学校全体の取り組みにするための工夫について。教科学習と総合的な学習の時間の学びの組み合わせ方。海に直接関わる体験活動と、海から遠い学校での体験活動の可能性など。1時間では話し切れなかった、もっと意見交換を行いたかったという意見があがっており、意義深く濃密な時間となったようです。


意義よりも負担感がまさる状況のねじれ

海洋教育研究会の全体を通し、先生方が楽しそうに議論を交わし、授業づくりや教材づくりについて意見交換している姿がとても印象的でした。それとともに感じたことがありました。
海洋教育に取り組んでいる先生方の中の多くは、「こんなにおもしろいことはない」「可能性がとても大きい」と言います。他方で、新たな仕事と負担が増えるからと、ネガティブな反応を示す人もいます。確かに負担がないわけではないと思いますが、でもよく考えると、それは本末転倒なネジレなのではないかと思ってしまいます。新しい教育実践の可能性をどう展開させるかという悩みを楽しむのが「教育」のおもしろみだと考えますが、多忙さゆえに新たな教育の可能性にチャレンジできないのだとしたら、それを生み出している原因を解決することが先ではないか、と思います。時代に応じて生み出される新しい教育内容に対し、負担が増える、負担を増やすなと批判するよりも、それらに取り組むことに負担を感じさせてしまっている状況を変えるべきではないか、と強く感じた研究会でした。

取材:
3710Lab