連載

海と人とのかかわりを探究するvol.1【人気講座「海」とは】

2019.08.16

学校地域海洋教育

東京大学教育学部附属中等教育学校には「海」をテーマにした特別講座があります。生徒に好評を博したこの講座は、2018年度をもって閉講となりましたが、2019年度より東京大学のプロジェクトとして形を変え実施することとなりました。新しい取り組みから、どのような学びが生まれるのでしょうか。過去に講座を受講し、現在は大学生となった卒業生4名が交代でレポートします。

海と人と

課題別学習「海」(以下、「海」)とは、東大附属でかつて行われていた講座です。
※講座開設には、みなとラボの田口も大学教員として関わり、企画と運営を行なっていました(参考:DVD「海と人と」完成ー映像による授業/授業による映像
この講座は2018年度をもって閉講しましたが、2019年度から発展形として東京大学海洋教育センターのプロジェクト(海洋教育基盤研究プロジェクト)となりました。活動の中心は高校生ですが、大学生、大学院生、教職員が運営としてかかわっています。
このプロジェクトは、「海と人とのかかわり」を考察するために、対話と探究という観点を重視して主体的な学びを促す、海洋教育カリキュラムの開発を目的としています。また、沖縄県宮古島市の教員研修の一環ともなっています。
全体的な流れとしては、8月下旬に沖縄県池間島にて、池間島小中学校の児童生徒と東大附属の生徒とで共同授業を行ったり、現地でのフィールドワークを行います。それぞれの学校では事前学習を行い、現地での実施を経て、12月に東京大学にて発表会を行う予定です。

写真:3710Lab


個性派な授業

今回のレポートをお送りする私は、東大附属の卒業生であり、上述の「海」の受講者でした。ここで少し課題別学習(以下、課題別)とはどのようなものなのか説明したいと思います。
この課題別という授業は、総合的な学習の時間に該当するもので、3年生と4年生で行う授業です。各教員が探究したい分野の講座を開き、生徒は自分の興味のある講座を選択します。人気の授業は抽選となり、この課題別「海」も毎年抽選となっていました。そのほかにも、茶道やオペラ、ラグビーを研究する授業など様々な講座が開かれています。いわば、大学の「ゼミ」のようなものです
個性豊かな授業のそろっていた課題別の中でも、特に「海」は個性的でした。高校生である自分がビデオカメラを持って沖縄に行き、現地の方にインタビュー撮影をし、それを編集する。自分にとって未知の経験で、前代未聞の課題別学習でした。しかも内容は毎年少しずつ変わっていくため、私が知っている「海」と最後の受講者である4期生の「海」は全然違うものになっています。しかしどの世代の受講生も自信をもって言うと思います。「海」は最高の授業だった、と。
最高だった「海」に連なるこのプロジェクトに参加できて、とても感慨深いです。

2015年10月、沖縄・座喜味城にて民泊先の方に私がインタビューしている様子です。


池間島に向けて

ここからは、7月20日に行われた第1回事前学習の様子をお伝えします。
参加者は東大附属の生徒7名。8月22日から25日にかけての池間島小中学校との交流に向けた準備を行いました。
はじめに、池間島の小中学生との交流会での、学校紹介の内容について話し合いました。体育祭や銀杏祭といった東大附属の定番の行事を挙げながら、楽しそうに選んでいるようでした。本番ではパワーポイントを使って発表するようで、私の母校がどのように紹介されるのか楽しみです。

発表内容について真剣に話し合っている生徒たち。


コミュニケーションとしての踊り

この話し合いの後、沖縄の人びととのコミュニケーションのひとつとして「海」で代々踊っている「ダイナミック琉球」の練習をしました。本番では卒業生も踊ることになり、私も実に2年ぶりに踊りました。高校生とは初対面だったのですが、実際に踊りがコミュニケーションツールとして機能していることを再確認しました。
このダイナミック琉球は池間島での交流会の時に披露します。池間島の小中学生も踊れるそうなので、コラボレーションが楽しみです。

「ダイナミック琉球」をおさらいしています。すっかり忘れているかと思いきや、身体が覚えていました。


世代を超えて

事前学習会の最後に、6年生の上妻くんと4年生の石井さん、蓮見さんにインタビューを行いました。
どうして今回のプロジェクトに参加したのかを聞きました。4年生の2人は、「海」でお世話になった池間島の方々にこのプロジェクトを通して恩返しができるのではと考え、参加したとのこと。他方、受験を控えている上妻くんは芸術系への進学を考えていて、プロジェクトへの参加が「芸術性の刺激」になるのではと参加を決めたようです。
次に「海」によって得られたものについて話すと、物事に対して今までとは違う視点を持てるようになった、想像していた観光地としての沖縄とは違うリアルな沖縄を知れてよかった、という声が挙がりました。それはおもしろいことに、私自身の「海」に対する感想と同じでした。そのほかに、動画編集や人に伝える力という新しいスキルが身についた、といった意見も出てきました。

写真:3710Lab


海は生活の一部

私や上妻くんの代の「海」は沖縄本島での実施でしたが、蓮見さんと石井さんの代は池間島での実施でした。そこで、池間島についてどんな島なのかを聞いてみました。まず、池間島は島が小さいため島民全員が知り合いだそうです。また「海は生活の一部である」と島の方が言われたそうで、私たちには想像できないほど海と深くつながっているようです。海があることが当たり前の生活なので、東大附属の生徒が海を見てはしゃいでいる一方、池間島の生徒たちはノーリアクションだったとか。島には高校がなく、勤め先も島外ということが少なくなく、池間島と宮古島をつなぐ池間大橋を頻繁に渡るそうです。

インタビュー中はずっと笑顔で、池間島に行くのを楽しみにしていることが伝わってきます。

最後に、今回の池間島への訪問への期待を聞きました。現段階では3人ともどんなものになるのかあまり想像がついていない様子でしたが、3人とも「島にある植物で商品開発する」という、池間島の小中学生との合同プロジェクト授業を楽しみにしているとのことです。(楢崎)


日常とは異なる沖縄という場所への期待、初めての撮影・インタビューへの不安…受講生はそうした両面の思いを胸に沖縄に向かい、「海と人とのかかわり」のあり方に間近で触れ、それぞれの学びを育んできたことがわかります。今回の再度の訪問を通して、「海や沖縄(池間島)との触れ合い」が自分にもたらすものが、より確信と深みをもった言葉として受講生の手元に得られることを期待したいですね。
なお卒業生は、このレポートの他に雑誌『島へ。』(海風舎)で池間島の特集記事を書く予定です。卒業生の八面六臂の活躍が楽しみです。(加藤)

文:
楢崎 晃弘
写真:
田中 陽星
編集:
加藤 大貴