2018年11月16日、気仙沼市立鹿折小学校にて開催された「海洋教育こどもサミットin気仙沼」。前編に続き、中編レポートでは、それぞれの学習活動について発表するポスター・セッションの続きをお送りします。
将来はずっと気仙沼で暮らしていたいですか?
気仙沼市立面瀬小学校5年生は、メカジキとカツオそれぞれの漁の方法についての発表です。マグロ船の見学をしたり、社会科の水産業の学習をするうちに漁に関心を持ちはじめ、気仙沼が水揚げ日本一を誇る2つの魚種のことを調べたとのこと。調べる際は、漁師だったおじいさんに、船を魚で満載にして帰港したときの喜びなどを語ってもらい、リアルさを感じながら情報を整理していったようです。
質疑応答では、漁業の話題ということもあり、「将来はずっと気仙沼で暮らしていたいですか?」という質問がありました。「おじいさんは元漁師で、お父さんは一等航海士です。なので……」と結論を明言しなかったものの、これからの進路を考えるきっかけになるやりとりが交わされました。
海でつながる世界
こちらは気仙沼市立鹿折小学校。環境、漁、国際、食品加工といった多様なテーマでの発表をおこなっていました。それぞれの発表からは、温暖化による海水面上昇によって水没するおそれのあるキリバス、気仙沼に寄港する漁船乗組員の国籍、気仙沼で水産加工業に従事するインドネシアをはじめとした多様な国籍の人々といったように、他地域や世界とのつながりという観点から学びを深めたことがわかります。
そのなかの造船についての発表です。良質の漁場に近い気仙沼港には、外国籍漁船も修理のために利用する造船所があります。児童は、造船所見学で学んだ船首部分につけるバルバス・バウ(※)の役割や、船底を上にして船を作り上げる作業工程について、模型を用意したり、写真を用いてわかりやすく説明していました。
質疑応答の際には、見学先の造船所の人との間で、「進水式は面白かったですか?」「はい」「また遊びに来てくださいね」というやり取りがありました。
ふるさとのサケを守るためにどうするか
岩手県洋野町立中野小学校はサケの母川回帰についての発表でした。サケの採卵、卵の状態からの飼育観察、そして稚魚の放流と、サケについて成育過程を通して学んでいます。その上で、育ったサケが川から太平洋に出てどの海域に移動し、戻ってくるのかといった習性を専門家から学びます。
アラスカ湾やベーリング海といった遠くの海へわたったサケが、どうして育った川へと戻ることができるのか。大人でも不思議に思いますが、児童たちはいくつかの説があることに触れながらも、地元の有家川にもっと回帰するようになってほしいという想いをもって、有家浜の海岸清掃や、広葉樹を植林するといった、自分たちの足元からできる取組みをしていることを紹介していました。
腐葉土の役割を実感する
こちらは洋野町立向田小学校。ブースには森で採取した土と砂場の砂のほか、ペットボトルを切断してつくった実験器具が用意されています。
児童たちは、参加者に腐葉土と砂の感触を確認してもらった後、土と砂それぞれが入った実験器具の中に水を入れ、次に栓を同時に開けます。すると、砂は開栓直後に泥水となって全て落下してしまったのに対し、腐葉土は開栓しても器具の中にとどまったままでした。しかも、腐葉土に注入した水は半透明色となりゆっくりと時間をかけてしたたり落ちていきました。森林で生成された腐葉土には保水力と水質浄化力があることを、視覚的にとてもわかりやすく教えてくれました。
海が作るおいしい牛乳?
洋野町立林郷小学校は、酪農と海の関連性についての発表です。林郷小は、洋野町内陸部の旧大野町に立地しており、海からは遠く、山の方が身近な環境です。この地域では、大野海成段丘という海抜約180~300mのなだらかな丘陵地が、東西10kmにわたって広がっており、この地形を生かした酪農がおこなわれています。
児童たちは、農場と乳加工場を見学し、生産から販売までを体験します。そして海成段丘の成り立ちや、乳牛に与える牧草が海からの潮風によって育っていることなど、海に面していない自身の地域も、海とつながりがあることを学んでいます。
特産物「ウニ」と消しゴム「Uni」
洋野町立種市小学校からは、地元活性化のために種市ファンを増やそうというテーマで発表です。種市の人々が世界一だと誇っている特産物ウニをテーマに、種市がもっと有名になるためのPR案を考案。
函館市の事例を参考に、海産物を材料にしたスイーツ、魚介類をモチーフにしたキャラクター、メジャーな製品名を模した消しゴム”Uni”等々、PRのアイデアを紹介してくれました。
うに丼一杯無料プレゼントの当たりくじが20分の1の割合で入っているガチャポンの実演では、見事に1回目で当たりを出して参加者の笑いを誘っていました。
地域のネガティブな面を直視する
洋野町立中野中学校からは、洋野町のディストピア・ストーリーの発表。生徒たちは、他地域との比較から自分たちが住む地域のことを学習していますが、その際に地域の課題や心配な点にこそ注目したそうです。一度ネガティブな面を徹底的に見つめ、批判的に考えることをおこなうことで、現実的な解決策を導き出していくという試みを紹介してくれました。ディストピアのアイデアも含めて、この授業のデザインには当法人理事の田口康大が関わっています。
地域への誇りを持たせようとする授業では、地元の良いところや魅力的な要素に注目したくなりますが、「現実的に持続可能な地域」を考える上では、ネガティブな要素に着目する必要があるように思います。ポジティブな面のみに着目する課題学習に終始せずに、厳しい視線をもって自分たちの未来のあり方を構想した中野中学校の2年生たち。3年生で予定されている洋野町を全国に発信する学習の展開が楽しみです。
感じたこと、考えたことを記録する
ポスター発表は、教室の壁を利用して、舞台の場面が転換するように進行していきました。児童・生徒たちは、事前に配布されたワークシートにメモを取りながら、発表を聞き、意見交換をしていました。
この後は、グループにわかれての話し合いです。学校も地域も違えば、学んできたことも違う、児童・生徒が一つのテーマについて語り合います。その様子については後編のレポートにてお送りします。
※ バルバス・バウとは、船が進む際、舳先が作り出す波による抵抗(造波抵抗)を減らす目的で作られた構造。バルバスとは「丸く膨らんだ、球根の」という意味。
海をもっと親しいものにしたい!ー第3回海洋教育こどもサミットin気仙沼/前編