Q. 素材の可能性を追求することが、活動のひとつのテーマなのでしょうか?
A. プラズマ、バブル、液体など、素材のマテリアリティにとても関心があります。そこにテクノロジーをかけ合わせたり。建築のバックグラウンドをもつあずさと、ファインアートを学んだ私はそれぞれ違った視点をもっていて、一人では考えもしなかったアイデアが出てきたり、デザインの分野での活動にもそれが役立っていると思います。 Q. 海洋プラスチック問題をテーマにしたきっかけは何かあったのですか。
A.「Sea Chair」は2012年、私たちがまだRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート、英国の王立美術大学院大学)の学生だった頃のプロジェクト。イギリス南西部のコーンウォールにあるポーストーワンのビーチで、地元の漁師と一緒に海から回収したプラスチックで作られたスツールです。
きっかけとなったのは、海洋プラスチックに関する科学論文を読んだこと。1997年にテキサス州の2倍の大きさといわれる太平洋ゴミベルトが発見されてから、還流によりゴミが集まる似たようなエリアが世界中でさらに5つ見つかっています。プラスチックは分解されるまでに何千年もかかり、海流によってさらに小さな破片になっていく。世界の海には1平方キロメートルあたり46,000個のプラスチックがあるとも推定され、太平洋のプラスチック片の数は過去10年間で3倍になったと言われているのです。
Q. 「Sea Chair」について、詳しく教えていただけますか?
A. はじめはイギリス南西部の海岸で、自分たちでマイクロプラスチックを探してみたのですが、小さな小さなプラスチックの破片を砂から拾い上げるのはとても大変で、なかなか量を集めることができませんでした。そこで地元の漁師に協力してもらい、漁網にかかったプラスチックを使うことにしたのです。魚と一緒に網にかかったプラスチックを色別に分けて細かくし、そのまま船上で溶かして座面と脚部のパーツを作り、それを組み立ててスツールにしています。
Q. 長期間の航海で、どのようなことが印象に残っていますか?
A. 海の上で数週間を過ごして何よりも感じたのは、自分も自然のサイクルの一部であるということ。そして、何でも自分で解決しなければならないし、頼れるものが少なくいろいろと工夫することが求められます。
さらに、海岸から遠く離れた大西洋の真ん中にもプラスチックゴミがあり、人間の影響がこんなところまで届いているのだと改めて驚きました。大海原の中で小さなプラスチック片を集めるのは非常に効率が悪く、多大なコストがかかります。ゴミが海にたどり着く前に、我々の習慣を、そして社会のシステムを変える必要があると感じました。 Q. いつも作品制作と同時に、そのプロセスや背景となるストーリーを伝える美しい映像も魅力的ですよね。
A. 多くの人に問題提起ができたら、という思いから映像にも力を入れています。普段、私たちは海の中を見ることはないので、謎めいた未知の世界のことのように思えるけれど、それはただ単に見えていないだけ。映像によってそれを視覚化し、私たちの海が抱える問題に意識を向けてもらえたら、と思っています。
Q. デザインは海洋環境に対して何ができると思いますか?
A. 複雑な問題を受け入れやすい形にするなど、デザインにできることはたくさんありますが、デザインだけでは限界があります。政治、経済、医療など、すべての分野で規則をつくり、社会全体で変えていくことが必要。現在の例で言えば喫煙に関することやビニール袋の有料化のように、ルールを整えていくべきだと思います。
EUでは2021年7月から、使い捨てプラスチックの流通を禁止する規制が施行されました。プラスチック製や発泡スチロール製の使い捨てスプーンやフォーク、ストロー、皿など海岸を汚す上位10品目が指定され、これらは漁網などの漁具と並んでEUの海洋ゴミの70%を占めているのだそうです。日本には昔から竹や藁などの天然素材や、紙を使って物を包む文化があります。今またそれらを見直すタイミングなのではないでしょうか。