2016年11月25日、気仙沼市立面瀬小学校にて「海洋教育こどもサミットin東北」が開催されました。 これまで、全国各地から教員や研究者が集い、海洋教育の実践や研究に関する発表と交流を行う場として「全国海洋教育サミット」が開かれてきましたが、今回は宮城県気仙沼市教育委員会、岩手県洋野町教育委員会と東京大学海洋教育アライアンス海洋教育促進センター、日本財団が連携し、東北の沿岸地域に暮らす小中高生を主役として実施。 テーマは「海に学び 海と生きる—海に学んだ暮らしと文化 思いを伝え広げよう—」。岩手県、山形県、宮城県の全27校が参加し、それぞれの学習活動について発表するポスター・セッションや、各校の児童生徒たちとの振り返りを通して、身近な海と地域の人々とのつながりについて考えました。
海洋教育の実践と可能性
サミットの導入として、はじめに面瀬小学校5年生の児童たちによるアトラクションがありました。
児童たちは、自ら描いた絵や演奏などを織り交ぜながら、「魅力いっぱい気仙沼」をテーマに、気仙沼の自然と水産業を支える仕事について発表。
階上地区に位置する岩井崎では、2億5000年前の古生代ぺルム紀に生きたウミユリ(海藻の姿に似ている棘皮動物)などの化石を発見できること、また、市の基幹産業である水産業を支える仕事には、海産物の鮮度を保つための氷を作る製氷工場や、出荷の際に欠かせない発泡スチロールの箱を扱う製函店、船員の道具を揃える漁具商店などがあることを説明しました。
また、生徒たちが考案したという、気仙沼で獲れる海の幸をふんだんにのせた「面瀬オリジナル気仙沼どんぶり」の紹介も。
そして、サミットがスタート。
まず、気仙沼市立大島中学校の代表生徒によるあいさつがありました。
生徒は東日本大震災による津波の被害を踏まえながら、同時に海の恩恵を受けて暮らしていることについて触れ、「海の近くに住んでいる私たちが、海からどんなことを学び、どのようなことをしているのか。これから、海とどのように関わって生きていくことが大切なのかをみんなで話し合うことは、とても大事なことだと思います」と話しました。
続いて、気仙沼市で行われている海洋教育の状況について、唐桑幼稚園の工藤里紗先生、大島小学校の岩槻仁教頭先生、気仙沼向洋高等学校の渡邉重夫教頭先生が、各校で実践している取り組みを解説。
唐桑幼稚園では、園の側にある馬場の浜漁港の散策や唐桑漁協加工出荷センターへの見学を通し、園児の海への興味関心を高めるとともに、それらの経験を釣りごっこやダンス、絵画表現などの「遊び」を通して振り返る活動をしているそう。
また、大島小学校では、四方を海に囲まれた環境を活かし、砂浜での「砂の造形展」や、ワカメ養殖の「種ばさみ」(種を養殖のロープにはさみ込む作業)の体験のほか、カキ養殖場見学などを実施。
水産教育の専門高校である気仙沼向洋高校では、1ヶ月半の南方海域での乗船実習のほか、さんまの缶詰の製造・販売実習、地元菓子店などと協働したスイーツの商品開発実習などを行っているそうです。どの取り組みからも、身近な海に親しみながら、地域の人々と連携した学びであることが伝わります。
水産業と防災
さて、次はいよいよ各校の児童生徒たちによるポスター・セッションです。それぞれ学習活動をまとめたポスターの前に立ち、他校の生徒や先生たちに向けて発表を行います。
こちらは気仙沼市立階上小学校5年生の発表。
階上小では、総合的な学習の時間として「さざなみタイム」が行われています。この「さざなみタイム」の構成の柱は「スローフード」と「防災」。今回は、その中で5年生が行った個人研究レポートの作成や、地域の防災復興マップ作りなどについて説明しました。
個人研究レポートの作成では、階上の海産物について児童たちがそれぞれに課題を設定し、実際に気仙沼市魚市場やサメ加工場、カツオ船などに赴いて、水産業に携わる方々へお話を伺ったといいます。
ここで、発表者の児童がレポートの一例を紹介。「ホタテに目がついていることを知っていますか? ホタテのひもに黒色の点々があるのを知っていますか? 実は、これが目になるんです。ホタテの目は20個以上もあり、あらゆる方角を見渡すことができるのです」。
普段食べているホタテにも、生き物としての感覚器がしっかりとあること。身近だからこそあまり意識しない特徴に目を向けた例です。
また、レポート作成の一環として、児童たちは気仙沼の水産業PRビデオも制作。地元ケーブルテレビ「K-NET」の方のアドバイスをもとに、みんなで相談しながら構成の検討から台本作り、インタビュー、撮影までを行ったそう。発表の途中、できたばかりだという映像を見せてくれました。
防災復興マップ作りは、災害時にどのように行動すべきか考える能力を培うための学習の一つ。児童たちは各地区の自治会長とともに町を歩き、避難時の危険箇所や復興の様子がわかる場所を撮影したり、地域の方に震災当時のお話を聞いたりしながらマップを作成しました。発表者の児童は、「これから入ってくる1年生や、震災を経験していない子どもたちに、震災では大変な思いをしたけれど、命の大切さを知る経験になったということを伝えていきたいです」と話しました。
発表後は、他校の児童生徒たちとの意見交換の時間も。
階上小のポスターの「気仙沼の水産業 今そして未来」という部分をじっくりと見ていた他校の児童が、「気仙沼の水産業の生産量と生産額が減ってきているのは、詳しく言うとなぜですか?」と質問すると、発表者の児童が「遠洋漁業で、獲れる場所が制限されたため、生産量が減り、生産額が減ってきました」と応答する場面が。興味をもとに、児童どうしで交流する姿が見られました。
ウニから学ぶ海の変化
気仙沼市本吉町の大谷中学校では、地域の自然環境を学ぶためのカリキュラムが進められ、2年生では沼尻海岸でのウニの生息数調査を行います。今回は、「大谷の海について〜ウニの観察から分かったこと」をテーマに、調査を通して見えてきた「磯焼け」現象について発表しました。
まず、ウニの生態や種類についての説明がありました。ウニはヒトデなどと同じ棘皮動物で、ホンダワラ(海藻の一種)などをエサとしているそう。大谷の海にもムラサキウニやバウンウニなどが数多く生息し、海中林として生えるホンダワラをエサとしています。
「磯焼け」の原因は大きく二つあり、一つには、台風や洪水、流水などで海藻が流されてしまうことや、黒潮の動きによる環境の変化が、もう一つには、ウニなどの生物による海藻の捕食があるそうです。大谷の海でも、ウニが海中林を食べ過ぎて磯焼けが起こり、エサを食べられずに痩せ細ったアワビが水揚げされるという影響が出ているといいます。
これを受け、生徒たちは宮城県漁協大谷本吉支所の方へお話を伺い、「磯焼けに対する対策は?」と質問。すると、「ウニの開口(解漁期間の漁)回数を増やす」という答えがあったそう。貴重な海産資源を守りながら、自然環境の変化に対応していることが伺えます。
最後に、生徒たちは「私達にできること」として、「開口に積極的に参加する」「大谷〈O〉の海〈U〉の魅力を全国に伝える〈T〉(=OUT)」ことを挙げました。
学びの発信
全国で唯一の海洋開発科を有し、地域に受け継がれた伝統の「南部もぐり」を継承する役割を担う岩手県立種市高等学校の3年生は、「種市高校における海洋教育〜津波解析とSOLT(海洋教育リテラシー研究会)の活動報告〜」をテーマに、力を入れている取り組みについて発表。
生徒たちは、課題研究の「津波解析」班で製作した津波の模型と発生装置を用いて、地元の小中学校へ津波のメカニズムや避難の重要性を伝えるために、実験の出前授業を行っています。そこでは、避難の3原則「想定にとらわれない・最善を尽くす・率先して避難する」の重要さを伝えられたという成果が得られたといいます。
また、海について学んだことを子どもたちに伝えることを目的に、SOLT(海洋教育リテラシー研究会)も運営。海の絵本図鑑の翻訳や、地域の小学生と交流するイベント「海はともだち」での英語クイズの出題による学び、海洋開発科で歌い継がれる「南部ダイバー」の歌詞英訳、そして、海外の人々に洋野町の海産物を知ってもらうために、英語の紙芝居作りなどにも取り組んでいるのだとか。
発表が終わると、「可能なら、英語で『南部ダイバー』を歌ってもらえませんか?」というリクエストが。生徒たちは恥ずかしがって微笑みながらも、息を合わせて歌ってくれました。
盛りだくさんのポスター・セッションはここまで。次は、児童生徒がグループに分かれ、セッションの感想などを発表し合う振り返りです。こちらの詳細は、後編のレポートでお伝えします。