レポート

秋田県大仙市|大仙市立中仙中学校

海洋教育プログラム「仮面文化ー自然との共生を探る」を実施

2025年度

2025.07.28

学校海洋教育

みなとラボは、⼤仙市⽴中仙中学校と協働で海洋教育プログラム「仮⾯⽂化―⾃然との共⽣を探る」を開発。中仙中学校 1 年⽣の美術の授業において、地域のルーツを探る取り組みとして、「⽔」と深いつながりを持つ地域⽂化や⼭川⾥海の循環を考え、⾃然とのつながりを表現する「仮⾯」を制作するプログラムを実施しました。

目指したこと

仮⾯⽂化をはじめ、多くの⽂化は⾃然環境との関わりの中で育まれてきました。 ⼤仙市は内陸部に位置しながら、川を通じた⽂化交流や豊かな⽔資源に⽀えられ⽇本有数の⽶どころとして栄えるなど、⽔に関わる⽂化を持っています。本プログラムでは、地域の⽂化と⾃然環境とのつながりに⽬を向けました。また、今⽇の地球規模での課題となっている気候変動、その⼤きな原因のひとつである「海とのつながり」まで視野に収めて、持続可能な⽣き⽅や⽂化の継承について考えるきっかけをつくることを目指しました。

プログラムの概要

全14時間の授業では、学校周辺の自然についてフィールドワークを行いながら、仮面そのものにどのような役割があるかを想像し、暮らしとのつながりを見つめました。自然環境と暮らしとの関わりに意識を向けたのち、地域からは見えない海とのつながりや、自然と自分との関係について考えを深めていきました。最後に、それぞれが仮面のデザインや素材、形に工夫を凝らし、自然への想いを表現するオリジナルの仮面を制作。自然の瑞々しさが感じられる仮面は地域の会場で展示され、多くの方に見てもらいました。そして、本プログラムを多くの方々に共有できるよう、冊子『水をたどる仮面ー内陸から海を結ぶ授業の記録ー』を制作しました。

授業の流れ

STEP 1 世界の仮面を鑑賞し、自然とのつながりを考える

日本や東南アジアをはじめ、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパの各地で伝承されている民族色豊かな仮面には、未知の自然への畏れや、人間を超えた存在への憧れが込められているといわれています。それぞれの仮面に用いられた色や形、素材を鑑賞し、それらが何を象徴し、どんな願いが込められているのかを想像しました。

STEP 2 海と人のつながりについて考える

海と人のつながりについて考える特別授業を実施。川や海の自然循環の中での役割について、そしてそれらが人々の生活や文化とどのように結びついているか想像をふくらませ、海とのつながりを感じにくくなっている「OCEAN BLINDNESS(オーシャンブラインドネス)」の状況についても考えを深める時間になりました。

STEP 3 海や川への自然調査、材料調達

学校の近くの斉内川に行き、川にあるものを調べ、仮面づくりの素材を集めました。さらに、雄物川の河口にある新屋海浜公園でフィールドワークを実施。海を五感で感じ、海に何があるか、昔の人々が海にどのような思いを抱き、祈っていたのかを想像しました。海に行った経験がほとんどない生徒も多く、厳しい「冬の海」を体験しました。

STEP 4 山・川・海などの自然を多角的に捉え、発想し、仮面を制作

水にまつわるものについてイメージマップを作成し、それに基づいて自分なりに「水」を表現しました。フィールドワークで拾った素材は、そのまま使うのではなく、活用の仕方を課題として仮面の制作が進められました。多くの仮面に共通していたのは、「きれいな海や水を守りたい」「自然とともに生きていきたい」という願いです。実際に海や川を訪れ、自分の目でごみや漂流物を見たことが、驚きや危機感となって表現されました。また、作品には「水は命を支えるもの」「水は食や農業とつながっている」といった、水と生活とのつながりを再確認する視点も多く見られました。

<展示>1年生美術の授業紹介展「仮面から考える自然と文化のつながり」

展示では大仙市の後援のもと、地域の方々と学びを共有することを目的に、生徒たちが制作した仮面作品やアイデアスケッチ、授業風景の映像を紹介しました。会場設営は、1年生造形部の生徒5名が担当。作品の並びや見せ方、展示の流れを工夫しながら、授業の学びや背景が来場者により伝わるように意識して準備を進めました。地域の方々や観光客など350名ほどが訪れ、自然をみつめ直すきっかけを作りました。

中仙中学校/1年生美術の授業紹介展「仮面から考える自然と文化のつながり」

[開催日]2025年2月9日(日)〜2月16日(日)

[会場]花火伝統文化継承資料館 はなび・アム 資料館別館(展示館)

[主催]みなとラボ、中仙中学校美術科

[後援]大仙市

<冊子>『水をたどる仮面ー内陸から海を結ぶ授業の記録ー』

本プログラムの取り組みをまとめた冊子『水をたどる仮面ー内陸から海を結ぶ授業の記録』が2025年8月に完成。内容は2つのパートに分かれており、PART.1「大仙市の自然」では、生徒による「暮らしの中で感じる自然や文化の魅力」をテーマにつづったエッセイと、大仙市の自然の写真を掲載。PART.2「授業の記録」では、生徒による仮面の紹介とあわせて、授業の目的や意義、プログラムの流れや取り組みの過程も記録し、本プロジェクトの全体像をまとめています。

冊子に関する詳細はこちら:https://3710lab.com/news/8984/

振り返り

このプログラムは、仮面づくりを通して、子どもたちが自然や地域の文化について考えるきっかけをつくることから始まりました。身近な風景の中にある文化や自然の意味は、意識しなければ見過ごされがちです。特に海の存在は、内陸に住む子どもたちにとって実感しにくいものでしたが、実際に海を訪れ、体験することで、海が自然の循環の一部として自分たちの暮らしと深くつながっていることに気づくことができました。
山や川、田園といった日々の風景が水を通して海とつながっているという視点は、自然環境を「循環」としてとらえる大切さを教えてくれます。仮面には、そうした自然や文化のつながりへの想いが込められ、子どもたちの体験がかたちとして表れました。
この取り組みが、地域に根ざした自然や文化、そして海との関係について、これからを生きる私たち自身が見つめ直すきっかけとなれば幸いです。

この活動は日本財団の助成により実施しています。