2025年大阪・関西万博は、万博史上初めて四方を海に囲まれた会場で開催され、「海の万博」とも呼ばれています。会場には、海の上ならではの環境を意識したデザインや、海洋環境への取り組みを紹介する展示が数多く並びます。
みなとラボでは、海とデザインの未来を探り開いていくため、関連パビリオンの取材を実施しました。同行したのは、海洋環境デザインプロジェクトを共に進めているコンテンポラリーデザインスタジオ we+。海をはじめとする自然環境と私たちの暮らしの関わりをテーマに、その様子を前後編のレポートとしてお届けします。
前編:日本館、スペイン館、ポルトガル館
後編:BLUE OCEAN DOME、いのち動的平衡館、いのちめぐる冒険館(超時空シアター、ANIMA!)
【日本館】循環をテーマにいのちのつながりを表現
「いのちと、いのちの、あいだに」というテーマで、いのちの循環を展示と建築で表現した日本館。 展示を含むパビリオン全体をプロデュースするのはデザイナーの佐藤オオキ氏。展示会場はCLTという国産杉でできた合板をメインに使用した円環状の建築で「循環」を表現。また内と外が緩やかにつながる設計で、来場者がパビリオンのテーマとなる「あいだ」が意識できる仕掛けになっています。
敷地内にある バイオガスプラントでは、実際に万博会場から集めた生ごみを微生物の力で分解し、水や二酸化炭素、電気などを生み出しています。さらに、海の微生物によって分解できる生分解性プラスチックで作られた器の展示もありました。案内スタッフによると微生物によって物を作り出すこともできるし、微生物によってものを自然にかえすこともできる」とのことです。
日本館では、「藻類」を化石燃料や食糧不足など、課題を解決する可能性をもった存在として紹介しています 。同じ水の量でも藻類が生み出すたんぱく質量は牛の50倍で、その有用性が伺えます。自然界には30万種以上の藻類が存在すると言われ、大きさも姿もさまざまだそう。そんな藻類の魅力や可能性を伝えるために藻類に扮したハローキティが登場。キャッチーで親しみやすく紹介されていました。
続く空間は、チューブ状の装置が美しく配置されたフォトバイオリアクターです。チューブの中には栄養価の高い藻類のスピルリナを培養し、少量の水や光で効率よく光合成ができる仕組みになっているそう。これを砂漠などの水の少ない地域で活用すれば、栄養不足が解決できる可能性があるといいます。
会場内で休むために用意されているのは、3Dプリンタで造形したスツール。ファームエリアで紹介されていた藻類を粉末化し、バイオプラスチックと混ぜ合わせた素材を、3Dプリンターで成形したものです。美しいグラデーションや、日本伝統の継ぎ手構造を活かした組み立て・分解の容易さなどが特徴で、日本館の3つのエリアをイメージした3パーツで構成されています。
最後に外周通路で見えてくるのは、バイオガスプラントです。万博会場内で出た生ごみをを微生物の力で水やエネルギーに変換し、廃棄物をエネルギーやCO₂の循環に組み込み、「捨てる」を「活かす」に変える仕組みを体感しました。日常生活と環境技術を結びつける実例であり、来館者もまた循環する社会作りにシームレスに参加していけます。
海は古来よりあらゆるいのちをつなぐ循環の場であり、その仕組みは微生物の働きによって支えられています。日本館の展示は、その目に見えない関係性を私たちの生活と結び直すものでした。いのちといのちのあいだをどう生きるのか。海の視点から見れば、私たち自身もまた循環の環に連なる存在なのだと気づかされます。
https://2025-japan-pavilion.go.jp

we+ 林さんのコメント
「いのちと、いのちの、あいだに」をテーマとする日本館は、ごみが微生物のはたらきによって分解され、素材となり、新たなものが生まれるという、時には難しくも感じる「循環」の話を、インスタレーションを活用した直感的なコミュニケーションで魅力的に伝えていました。情報過多になりがちなパビリオンの中でも、体験と理解促進のバランスが効果的に設計されている印象を受けました。主役の一つである藻類は、肉眼では見られないがゆえに、藻類を培養するチューブで空間を覆ったり、3Dプリンターで家具にしたり、藻類に扮したキティちゃんが登場したり、さまざまな手法を駆使してそのポテンシャルを見せていたように思います。
【スペイン館】黒潮がつないだ歴史と未来をひもとく
スペイン館は「太陽と海」の要素から形作られた建築で、上から見下ろすとまるで海を描いた風景のように見えるデザインです。外観は木造の構造体にカラフルなタイルを施し、地中海の明るさを感じさせます。エントランスに掲げられた「SPAIN」の文字は、廃棄された漁網をリサイクルした素材でつくられたものです。館内展示は、来場者が海中へと潜っていくような構成で進行し、光や映像、音響によってスペインの自然と文化を体感できる仕掛けが随所に施されています。
展示の軸となっているテーマは「黒潮」です。16世紀、スペインの航海士たちはこの海流を利用して航路を切り開き、アジアとの貿易を盛んに行なっていました 。その歴史の中で、日本とも深い関わりが生まれます。千葉の海でスペイン船が難破した際、地元の人々が乗組員を救助したことが両国の友好のきっかけとなりました。スペイン館の展示は、黒潮がもたらした交流と文化の結びつきを軸に、人と海のつながりをあらためて問いかけています。
また、イギリス軍に沈められ、行方不明となっていたスペイン船の金貨、銀貨約50万枚をアメリカの海底探索会社が発見した際、その金貨がスペインに返還されたというエピソードを描いたマンガも展示されていました。この出来事は、のちに水中文化遺産や沈没船を巡る法的解釈や判例に影響を与えたといいます。
さらに、スペイン館では再生可能エネルギーへの取り組みにも焦点が当てられていました。洋上風力や太陽光発電に積極的に取り組み、現在は国内電力の56パーセントをまかなっているとのこと。加えて、日本館同様に、藻類の培養を再現したインスタレーションも展示され、環境技術と未来の可能性を来場者に示していました。
https://www.accioncultural.es/en/ExpoSpain2025

we+ 安藤さんのコメント
「海と太陽」を建築のコンセプトに据えたスペイン館。外観は大階段状で、一段一段上がるたびに海を抜け、太陽へと近づくような不思議な感覚を覚えました。内部に足を踏み入れると一転して青の世界が広がり、黒潮をテーマに日本とスペインの歴史的なつながりがインスタレーションとして表現されていました。
その奥では、微細藻類を活用したバイオ燃料や、食品の研究の展示が続きます。日照時間が長く、多様な種の藻が育つスペインでは、藻類を新たな産業として位置付け、持続可能な暮らしへ結びつけようとしています。環境保全と地域経済の発展を同時に目指す姿勢を持ち、同じく微細藻類に焦点を当てたプロジェクトを行なっているwe+として、強く共感したパビリオンでした。
【ポルトガル館】大航海時代から持続可能な未来まで、インタラクティブに海を探求
建築家・隈研吾氏が担当したポルトガル館の建築は、ブルーグレーの大型ロープを多用した建造物で、自然との境を融合することを試みたといいます。建築を囲いながらも透けるように外界とつながり、まるで海風に揺れる波間を歩いているような感覚を生み出します。その空間に身を置くと、海に開かれながらも、どこまでを自分の世界と呼べるのかという身体的な問いも生まれました。
展示の中心となるテーマは「海、青の対話」。大航海時代から今日に至るまで、海はポルトガルの歴史と文化を形づくってきました。会場では、来場者がタッチパネルを通じてポルトガルと海との関わりを辿れる仕組みが用意され、航海の軌跡や交流の歴史をインタラクティブに体験できます。
展示全体を通じて、ポルトガルが海から受け取り、また海へ返してきた文化や知恵を対話として再構築する構成になっています。
https://portugalexpo2025.pt/jp/

we+ 関口さんのコメント
ポルトガル館は、大航海時代の帆船に欠かせなかったロープを用いて構成された、隈研吾氏による有機的な建築が印象的なパビリオンでした。内部は2つの空間に分かれ、1つは海に関する情報とインタラクティブな展示で構成され、もう1つは没入感のある映像体験を通して海への想いを伝えていました。展示を通じて、ポルトガルが海を大切にしていること、海が文化や技術、そして人の好奇心を運ぶ道であることが強く伝わってきました。ポルトガルという国の背景にある、海との深い関わりを知り、いつか海を越えてこの国を訪れてみたいと思いました。
ーーーー 大阪・関西万博レポート(後編)はコチラ! ーーーー
【万博情報】
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)
開催地:大阪府大阪市此花区夢洲
開催期間:2025年4月13日―10月13日
会場時間:9:00―22:00
入場料:大人(18歳以上)3,700 – 7,500円、中人(12歳〜17歳)2,000 – 4,200円、小人(4歳〜11歳)1,000 – 1,800円
https://www.expo2025.or.jp/

we+ inc.
周辺環境や歴史の調査をベースとするロジカルな思考と、フィールドワークや素材実験を起点とした感性的なアプローチを融合させ、オルタナティブなデザインの可能性を探究し、独自のリサーチ・デザイン手法を実践している。