【海洋教育レポ】海洋教育をはじめるにあたっての課題―青森県八戸市立小中野小学校

2019.03.31

海洋教育レポート第5回目にお送りするのは、海に関わる地域素材を活用した学びから一歩進めて、「海洋教育」という冠を積極的に掲げて取り組み始めた学校です。「海洋教育」として取り組むことには、どのようなねらいと意義があるのでしょうか。「海から始まる八戸市」より、八戸市立小中野小学校の海洋教育のはじまりをご覧ください。

地域学習を海洋教育として組み立てる

2020年度から順次実施される新学習指導要領では、社会に開かれた教育課程が掲げられ、地域の素材を活用した学びが重要視されています。八戸市の港湾地域に位置する八戸市立小中野小学校は、近くにある造船所や水産加工の施設を活かし、海にかかわる素材を活かした地域学習をしてきました。たとえば、1、2年生の生活科ではまち探検に出かけ高台から港を眺めたり、3年生の社会科でちくわ工場を見学したり、5年生の社会科で八戸の水産業、漁の仕方、魚市場の見学などです。

その学びをもとに、2018年度からは、生活科、社会科、総合の学習の時間を見直し、「海」に視点を当てたカリキュラム作成をおこない、海洋教育として取組み始めました。そこにはどのような意図があるのでしょうか。

地球規模で考えられるのが海洋教育の良さ

2019年1月19日、八戸市ポータルミュージアムはっちで「教育の広場 八戸」が開催されました。八戸市教育委員会が主催し、八戸市内の小中学校の授業実践を市民に紹介するイベントとして行われ、小中野小を含む小学校3校の海洋教育の取り組みが紹介されました。八戸市で海洋教育を推進されている、小中野小学校校長の小野一樹先生にお話をお伺いしました。

―――「海洋教育」といままでの小中野小の地域学習活動とはどのようにちがうのですか。

「授業で扱っている学習素材はほぼ一緒で、体験や活動自体には特にちがいはありません。変わったのは、学習素材について教員の側での捉え方と、児童に対しての見せ方です。海と関わる素材が多い小中野の学習環境にあって、今までやってきたことを捉え直して際立たせたいと思ってやってきました。小中野小自体は海に近い立地とはいえないのですが、加工場など間接的に関わるものや造船所のように風景として目に見えるが身近ではなかった要素を意図的に取り込みました。また、その際は海洋教育の4つの視点(※)が非常に役に立ちました」

※ 「海に親しみ、海を知り、海を利用し、海を守る」という4つの視点

―――海洋教育の4つの視点をどのように役立てたのですか?

「教員に活動の面白さと深みとのバランスを意識してもらうために役立てました。学習の土台として、地元の海の学習が楽しいと思わせることがまずは大事ですが、それで終わらせてはいけないと思っています。地球規模で考えられるのが海洋教育の良さですが、教員側で海の先を意識しないと地域の海という狭い範囲で終わってしまいます。小さいところも大事ですが、世界への広がりつながりは教員側で工夫する必要があると思っています。東日本大震災で流出した神社の鳥居が、アメリカに流れ着いたことをきっかけに始めた交流活動だったり、外国船籍のケミカルタンカーを造船所で見学したりというのが代表的な具体的活動です」

今までと違うことをしなくてもできる

―――海洋教育を始めるにあたって先生方にはどのような説明をされたのですか?

「教員の納得を得るために、「新しいことはしない、いままでやってきたことの扱い方を変えるだけだ」ということを強調して説明しました。教育現場には、○○教育(※環境教育、法教育など)と言われるものは複数あって、これ以上○○教育を新たに現場に取り込むことが難しい状況にあります。学校経営上は、小学校教育で求められている「気づき・考え・行動する」という力に結びつけるために、それらをどう取り入れるかが大事なことです。○○教育的な知識をつけさせるのが目的ではないですから。その中で海洋教育は本校で元々やっていた活動として土台が海に関わるものが多く、地域的に素地があります。今までと違うことをしなくてもできます。やったことのないことをやるとなると億劫になるので、何も難しくない、新しいことはやらない、と教員には伝えました。その上で、メリットや魅力が上回る体験学習なんだということを伝えました。体験学習を、これは素晴らしいことだと納得してもらえるかが腕の見せ所です。そうして共通理解をしてからでないと進んでいきません」

―――海洋教育のメリットや魅力はどういうものですか?

「前任校での経験から、海洋教育を通して子供たちが変容することを感じていました。作成した冊子資料を引用しながら丁寧に説明をしました。また、ふるさとを大事にすることの良さを実感するようになると伝えました。そして何より面白いということについては、経験してもらわないとわからないこともあるので、全校的に海の楽しさを体験する取組みをおこないました。海洋教育パイオニアスクールプログラムの指定を受けて予算的余裕があったので、全学年の児童を対象に八戸港周遊遊覧船の乗船体験を実施しました。海上から八戸の街並みを見るという体験はいままでにない出来事だったようで、教員や児童だけでなく保護者からも面白かったと好評でした」

コーディネート役としての教師

―――実際に海洋教育をおこなってどのような変容が見られましたか?

「好例としては、絵の表現力が格段に変わったことです。全校で海からの街並みを見たあとに、港の絵を描かせたところ、船を細部まで描いたり、市の受賞作品が出たり、視点の置き方にいままでにない明らかな変化が見られました。社会科や図工という教科単位ではあらわれない変容を見ることができたのではないでしょうか」

―――主体的で、対話的で、深い学びになるようにするためにどのような工夫をされていますか?

「学校の中の学習だけではうまくいかないので、外部リソースの活用が大事な要素です。そして、誰に協力してもらえば実現できるか、自前で調達できるものか、外部に頼るものかという区別をできていること、具体的な紹介先を把握していること。そういう認識が前提にあって、教員が使いやすい、わかりやすいと思ってもらえるような外部リソースの提案をできるかどうかが学校マネジメントとして大事です。コーディネーターにかかっていると言っても過言でないと、自分で十数年やってきて思います。そのノウハウは今年度の取組みの中で教員の方々に伝えてきました。まとめの冊子も作成したので、つなぐ先の情報もわかったと思います。あとは先生方が「海にかかわる学習が楽しい、面白い、子供たちが変わる、役に立つ」ということを実感してくれればコーディネート役として小中野小やその後の赴任先の学校でも活躍してくれるでしょう」

―――具体的にはどのような授業をコーディネートされましたか?

「南極の氷の授業が好例です。4年生理科で「水の固体液体気体」の授業がありますが、その発展としておこないました。児童が自分で作った氷、市販の氷、南極で数万年かけてできた氷をどう区別判断するのか、3つの氷の溶け方を比べさせました。何℃くらいになると状態が変わるか溶けるか観察させたり、見た目から予想させたりします。南極の氷に対して綺麗なイメージを抱いている児童は、市販の透明な氷を南極の氷だと考えたりします。でも実際には、スモークがかかってパキッと音がして溶けるのが実は南極の氷なんです。パキッと音がするのはなぜかと問い、児童からは空気なんじゃないかという意見が出てきたところで、講師役の南極観測隊経験がある八戸工業大学の教員にバトンタッチします。

私が、環境教育の授業として南極の氷を使った活動をした経験があり、南極の氷が学校の教材用として配布されていることを知っていて、配布がちょうど授業の時期と重なったので提案しました。活動自体は初めてやることではありません。「南極の氷が溶けにくいのはなぜか」を科学的な見方から考えるというねらい自体も変わっていません。環境教育としておこなった活動を海洋教育の4つの視点を使って捉え直しをしたということです」

―――海洋教育の授業をコーディネートする工夫としてどのようなことをされてますか?

「学年の各教科でやっている内容をさらに発展的にできる、教員自身のやっていることにつながると思ってもらえる提案ができるか、学年の先生方のなかに入って具体的なアイデアを面白いと思ってもらえるかが大事です。もちろん提案するけど空振りして採用してもらえないものもあります。一旦面白い、使えると思ってくれれば指導計画の構想に乗ってきてくれます」

教科の力を深める海洋教育

取材の最後に小野先生に海洋教育への思いを語ってもらいました。

「小中野小の海洋教育は、教科の力を深められる取組みです。そもそも総合の学習は教科学習との両輪になることが目指されて設置されています。地域学習として、屋根のある学校と屋根のない学校とで両輪になるよう目指してやってきましたが、「海」の視点でやると上手く両輪が回るというのが八戸市で教員生活をしてきて抱いた結論です。両輪が回れば、教科を深める体験的学びとなり、生きる力が育まれます。今年度で退職しますが、この1年間の小中野小の活動を私以外の先生方が引き継いでいってくれると思いますし、異動先でも「海」の視点の学習の魅力を伝えていってくれるでしょう」

小野先生自身は、教員生活を通して5年6年生を担当することが多く、社会科の水産の水揚げ量の記述を使って授業するなかで、八戸で一番多く獲れている鯖に注目し、それを家庭科で捌く、食べるといった指導に絡めたりしながら、授業の工夫を重ねていったといいます。また、校長としては海沿いの各学校に赴任したこともあり、海洋教育は学校経営上の柱になったそうです。

「教育の広場 八戸」会場では、小中野小学校5年生の児童と保護者の方にもお話を聞くことができました。児童は、八戸港周遊遊覧船の乗船イベントが印象的であったこと、船に乗ったことをきっかけにさらに遠くの海への興味が出てきたことを語ってくれました。保護者の方は、サバを調理しながら水産都市八戸の食文化を知れるのはとてもいいことであると、海洋教育への期待を語ってくれました。

総合的な学習の時間が始まって20年近くが経過するなかで、小野先生ご自身の経験を交えて、海洋教育が持つ可能性を語っていただきました。海洋教育は、児童のみならず、保護者や地域の方にも意味ある学びをもたらすきっかけ作りになるのかもしれません。また、小野先生がそうであるように、経験を積み重ねてこそ輝く教師の職人的側面にはもっとスポットが当てられていいのではないかと思いました。
屋根のある学校と屋根のない学校で繰り広げられる小中野小の海洋教育に今後も注目したいと思います。

取材・文:
北 悟
写真:
八戸市立小中野小学校提供