鈴野浩一さん(トラフ建築設計事務所)に聞く、海との関わりと材料のこれから【連載:海×デザイン】

2021.11.12

海洋プラスチックや、海面温度上昇など、今や待ったなしの解決が求められる海の問題。そこで私たちは、「海の豊かさを守るためにデザインは何ができるか?」をテーマに、世界各地で海洋問題へのアプローチを試みているデザイナーたちにインタビュー。第5回は、トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんにお話を伺いました。

横浜国立大学の大学院を修了後、シーラカンス K&H、カースティン・トンプソン・アーキテクツ勤務を経て、2004年より禿真哉さんと共にトラフ建築設計事務所を主宰する鈴野浩一さん。建築の設計はもとより、インテリアや展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など、幅広い活動を展開しています。港町・横浜ご出身の鈴野さん、海に行くと季節にかかわらず、つい入りたくなってしまうそうです。

さまざまな素材に囲まれたトラフ建築設計事務所のオフィス。©︎TOHRU YUASA

Q.鈴野さんと海との関わりは? ご出身は横浜ですね。

A. はい、横浜の中心地に程近い反町というところの出身なので、海に親しみはありますし、好きです。子どもの頃は近くに海釣り公園があったので、サビキ釣りをしたり。母親も海好きで、数年前に茅ヶ崎に引っ越したので、毎日のように海のあたりを散歩しては、朝日の写真とかを送ってきます。それを見ると心が安らぎますね。また、妻の故郷であるメルボルンも海に近いので、向こうに行くと子どもたちを連れてビーチに遊びに行ったりもしています。海に行くと、どうしても入りたくなっちゃうんですよね。

海といえば、現在角川武蔵野ミュージアムで開催されている俵万智さんの展覧会「俵万智 展 #たったひとつの「いいね」 『サラダ記念日』から『未来のサイズ』まで」で会場構成を手掛けているのですが、彼女は一時期沖縄に住んでいらしたんですよね。それで、俵さんが住んでいたマンションから見える風景の映像を、波の音とともに会場の一部で流しています。海と展覧会というと思い出すのが、2015年に東京都現代美術館で開催された「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」展でのヨーガン レールさんの展示。あれはすごかったし、素晴らしかったです。ヨーガンさんは移住先の石垣島の海岸が流れ着くゴミで荒らされていくことに心を痛め、全部自分で拾ったものだけでいろんなものを作った。芸術だと思ってやっていなかったのがすごいですよね。

 

©︎TOHRU YUASA

Q.トラフ建築設計事務所と海といえば、東日本大震災で津波の大きな被害を受けた石巻地域で2011年に生まれた「石巻工房」との関わりも長いですね。

A. 「石巻工房」には、震災の時に何か役に立てることはないかと思っていたところ、設立者の建築家、芦沢啓治さんから声をかけてもらって参加することになりました。まずは手すりに引っ掛ける小さなテーブル「スカイデッキ」が先にあって、それから横にスタッキングができ、さまざまな使い方ができる「AAスツール」をデザインしました。今は石巻工房も会社になっているので、ボランティアとは言えませんが、最近も彼らのショールームとゲストハウスを兼ねた「石巻ホームベース」で客室をデザインするなど、いろいろな関わりは続いています。

石巻工房では2018年に「ISHINOMAKI BIRD KIT」というのも作りました。木製ピースと木工用ボンドを使って自分で作る、有名な「イームズ ハウス バード」のパロディみたいなもの。石巻工房のキャラクターになるように、とデザインしました。キットの中には紙やすりも入っているので、3日くらい頑張れば「イームズ ハウス バード」くらい滑らかになりますよ、という(笑)。これをもとに、最近「DIY ANIMAL KIT」として、ペンギンとコアラも出したんですよ。箱に入るサイズで、社会的な繋がりを持てるものを提案しているんですが、ペンギンは地球温暖化の被害者であり、僕の妻の故郷でもあるオーストラリアに住むコアラは森林火災で被災を受けました。前者の売り上げの一部は基金を通じて地球温暖化に伴う野生動物の保護活動に役立てられ、後者はオーストラリアの森林火災で被災した野生動物の保護と、生息地の回復のための基金に寄付されます。

石巻工房で出た端材で作られる「ISHINOMAKI KOALA KIT」。©︎TOHRU YUASA

Q.「ISHINOMAKI BIRD KIT」はもともと、石巻工房で出た端材で、子どもたちが積み木のように組み合わせて遊んでいる様子から着想したそう。端材利用をはじめとしたサステイナブルな取り組みについても教えてください。

A. 僕たちは展示会の会場構成の仕事も多いのですが、会期が終わると展示に使ったものは壊されて大量にゴミが出る。こんなに作り込んでいいんだろうか……というか、スクラップ&ビルドを繰り返すことについては、以前からずっと気になっていました。最近はクライアントから依頼されることもあって、展示会の什器はできる限り再生可能な紙で作ってしまおう!ということも多いですね。あと、「AAスツール」は天板を置くだけでテーブルにもなるので、さまざまな会場で使えます。「2017年度グッドデザイン賞受賞展」で使ったことをきっかけに、石巻工房のレンタル事業も始まりました。

福岡アジア美術館で2007年から毎年開催されている「おいでよ!絵本ミュージアム」でも2019年、2021年と会場構成を手掛けたのですが、ここでも「AAスツール」を使いました。この2019年の展示の際に使った素材のひとつが、三和化工のポリエチレンフォームの端材です。ビート板などに使われる素材ですね。『もこ もこもこ』という作品のコーナーに、この端材をカットして既成のカラーバンドで綴じただけのソファを置きました。このソファは「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング2019」の特別展示「アップサイクルって何?」でも展示しましたが、会場に合わせて大きさも自在に変えられるし、誰でも簡単に設置できるので人気があります。三和化工では同じポリエチレンフォームをオリジナルの配色で混ぜて熱圧着した素材「カラーポリモック」の開発にも携わりましたが、こちらはまだリサイクルのポリエチレンフォームで作れていないのが課題です。

手前にある丸い座面のものがポリエチレンフォーム材のスツール。背後にはさまざまな色に塗られた「AA スツール」が。©︎TOHRU YUASA

Q.これなら水場にも置けるし、ビート板に使われる素材だったら海に浮かべることもできますね。鈴野さんたちは2016年にTOTOギャラリー・間で開催された「トラフ展 インサイド・アウト」でもあらゆる素材を展示に使っていましたが、これから使ってみたい素材や、それを使って海でやってみたいことはありますか?

A. やっぱり海に流れ落ちてきているようなもの、ゴミや廃品も含めて何かやりたいなと思っています。ちょっと発想を変えるだけで急にゴミじゃなくなるようなことができたらいいなと思って。最近、建築家仲間を見ても、よりプリミティブな方に戻っている気がします。僕自身もそうですが、サウナに凝っていたり、火を熾してキャンプをしたり。両極に振らないと、心のバランスが取れなくなってきているんじゃないかな。手の復権みたいなのもあると思うけれど。そうそう、ぷかぷか浮かぶ建物みたいなものを作って、そこにサウナを設置して、暑くなったら海に飛び込むようなものが作れたらいいなといつも思っているんです。

いかだのような、ヨットのような乗り物のイメージ。©︎TOHRU YUASA

Q. 海洋環境にアプローチするための国際的なデザイン会議が行われたら、参加してみたいと思いますか?

A. 面白そうですね。デザイナーや建築家が世界中から集まるのであれば、せっかくなら会議だけじゃなく、(人力飛行機の飛行距離を競う長寿番組)「鳥人間コンテスト」みたいな感じで、海に関わるイベントを開催するのも面白いのではないでしょうか。先ほどのポリエチレンフォームの端材や廃材などでいかだのような乗り物を作って、デザイン性とスピードの両方を競う大会も開催したら盛り上がるんじゃないかな。建築家の長坂常さんやTANKの福元成武さんたちがいろんなものでSUPみたいなことをやっていて、面白そうなんです。